56歳で亡くなったスティーブ・ジョブズについて、わたしの中ではずっと若いイメージが残っていた。
ジーンズにスポーツシューズのラフな格好でプレゼンするジョブズを見て、「こんなオタクのプレゼンを喜ぶのはMacユーザーだけだ」と言われていたのは、まだほんの10年ほど前のことだ。わたしがMacPowerの編集長をやっていたその時代、大半の人は、ジョブズを成功したパソコンマニアくらいにしか思っていなかったのではないか。それが、いまでは多くのビジネスマンに天才経営者のように言われていて、隔世の感がある。
当時はいくらMacの話をしても、Windowsしか知らない友人たちにはまったく通じなかった。MacやiPodについての質問を普通にされるようになったのは、21世紀に入ってからだ。これは、ジョブズが再び率いるようになってからのAppleの快進撃と重なっている。
だから、MacやiPod、iPhoneに関する“スティーブ・ジョブズ基準”がなくなって、合議制になっていくと、コストと流行を気にした凡庸な製品しか出てこなくなってしまうのではないかという心配も少しある。
ジョブズが新製品を披露する際に使った「One More Thing」。彼が「One More Thing」と言うと、それを待っていた聴衆は大いに盛り上がった。あの、若々しいパソコンマニアの「One More Thing」を、もう聞けないのが残念でならない。
(元MacPower編集長 石坂康夫=写真)
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