「超魔術」「ハンドパワー」「きてます!」でおなじみのマジシャン、Mr.マリックさんが最近、インターネット上に姿を見せるようになっている。
昨年からはインターネットスクール「N-Academy」でもマジシャン養成スクールを開講。今年5月には「ほぼ日刊イトイ新聞」との連動企画でUstreamに出演し、約1万6000人の視聴者を前に、iPhoneをiPadに変えるなどのマジックを披露した。8月のN-Academy主催イベントでは、ニコニコ生放送・Ustreamあわせて約3万5000人もの視聴者を集めたという。
そんなMr.マリックさんは現在62歳。日本のいわゆる「テレビマジック時代」を支えてきた重鎮だ。彼の目には、インターネットとテレビという2つのメディアはどう映っているのだろう? マジックを通じたエンターテインメントの現在を、マリックさんにたっぷりと聞いた。
インターネットとテレビの違い
―― インターネット時代に入って、マジックにはどんな変化が出てきましたか。
マリック 動画サイトの場合、1つのネタをずーっと見るということがなくなりました。画面も小さいし、ふつうに花吹雪を出してみせても紙クズにしか見えない。(ウケるのは)一撃必殺でインパクトのあるネタに限られますよね。フィギュアスケートのショートプログラムでも長いと感じるくらいで、一番良いのは2分半くらいじゃないかと思っています。
―― それまでのネタの見せ方とはまったく違うわけですか。
マリック テレビはショーですし、コンテストの場合なら15分くらいの中に起承転結があったわけです。いわゆるボードヴィル形式ですね。格闘技なんかでもそうですよね。前までは「60分1本勝負」だったのが、勝負そのものは3分間で決まるようになった。
―― マジシャンとしての活動そのものにも変化はありましたか?
マリック マジシャンには、コンベンションというものがあるんです。マジック・ファンが1000人くらい海外の会場に集まり、ホテルを借りきって1週間ぐらいマジック漬けになる。そこで発見した新しい技術をもとに、それぞれのマジックをしていたんです。その様子がネットのおかげで、家でも観られるようになった。レクチャーも何もかも。
―― IT業界にも通じるものを感じます。いまは現地に行かなくても、基調講演などを取り上げたブログを翻訳して読み、新しい技術についての情報をネットで仕入れ、自分のコンピューターを拡張します。
マリック ええ、まさに同じです。おかげで、それまではアメリカが最先端と言われていたわけですが、今はもう個人の時代です。場所は関係ありません。同じタネが一斉にバラまかれて、様々なマジックがインターネットにアップロードされるわけですから。
そもそも、わたしたちは知識が遅かったんですよ。日本語に翻訳されたトリックを読んで、初めて最新のマジックができたんですから。今ならすぐに原書も読める。おかげで若い子が多くなりましたよね。海外に飛びださなくてもいいんですから。