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「新訳 かがみの国のアリス」タテ読みでアリスにさよなら……

挿絵78点で美少女炸裂! アリスが女王になる!?okama版 新訳アリス

2010年09月10日 00時00分更新

文● 第9編集部 タジマ

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キャロル(騎士)に見送られて大人(女王)になるアリス
タテ読みで「夏の日のアリス・プレザンス・リドルさようなら」

 「かがみの国のアリス」では、アリスがドジな老いぼれ騎士(ナイト)にエスコートされ、女王となるのだが、この騎士はルイス・キャロル自身と言われ、アリスが女王になるとはつまり、アリスが大人の女性になることを意味している。

白の騎士とアリス。騎士はぶざまに落馬してアリスにあきれられながらも助けられることも。キャロル=騎士であることを考えると、執筆当時のキャロルの心情を推測するだに泣けてくる……/(c)Shoichiro Kawai (c)okama

 最後に騎士(ナイト)は、アリスに歌を贈る。そのシーンは、

これこそ、これまでかがみの国の旅で見たありとあらゆる奇妙なもののなかでも、いつもアリスが一番はっきり思い出せるものでした。

と文中でもアリスの心に残ったことを強調しているのは、キャロルがアリス・リドルに自分のことをいつまでも覚えていて欲しいと願っていたからではないか。

女王となったアリス

女王となったアリス/(c)Shoichiro Kawai (c)okama

 そして本作の最後の詩で、キャロルはアリス・リドルにさよならを告げる。

「かがみの国のアリス」の最後の詩

「かがみの国のアリス」の最後の詩/(c)Shoichiro Kawai (c)okama

 これはアクロスティック(折句)と呼ばれる手法で、いわゆるタテ読み

 行頭の文字を並べると、

「夏の日のアリス・プレザンス・リドルさようなら」

と読める。もちろん、「アリス・プレザンス・リドル」とはモデルとなったアリス・リドルの本名で、「夏の日」とはキャロルがボートの上でアリス・リドルに「ふしぎの国」のお話をしてあげた夏の日のことを指している。

 キャロルはこうして、愛する少女アリス・リドルの記憶を「ふしぎの国のアリス」「かがみの国のアリス」にとじこめたのだ。

河合祥一郎訳はこんども言葉あそびがいっぱい!
おかしな双子トゥィードルダム(ディー)は関西弁!?

 前作の「新訳 ふしぎの国のアリス」を読んだ読者から、「絵につられて買ったのだが、訳もすばらしい!」との感想を多くいただいた。

 「ふしぎの国」同様、「かがみの国」も、原書で読めばわかるが、言葉遊びがとても多い。他社のアリス本ではなしえなかった、その言葉遊びを表現したのが河合祥一郎訳なのだ。

 たとえば、第3章の「かがみの国の虫」では、原文で、

a Bread-and-butter-fly

という造語でバターパンのチョウチョを登場させている。

 これは原文を読めばおわかりになると思うが、「butter-fly」は「butterfly(チョウチョ)」とかけている。

 そのため河合祥一郎訳ではこのチョウを、

《超ショック(朝食)》

として、

バタつく羽根はバターつきのうす切りパン

と、「butter-fly」の言葉遊びを見事に表現している。

《超ショック》

左下のイラストが《超ショック》/(c)Shoichiro Kawai (c)okama

 他にも、おかしな双子トゥィードルダムとトゥィードルディーの台詞をコテコテの関西弁にして、キャラクターを立てている。

「わたし、セイウチさんが一番好き。」アリスは言いました。
「だって、セイウチさんはかわいそうなカキのことをちょっとは悲しんだもの。」
「けど、大工さんより、ぎょうさん食うたで」とトゥィードルディー。「顔の前にハンカチ持ってったんは、いくつとったのか大工さんに見られんようにするためや、逆に。」
「なんていやらしい!」アリスは怒って言いました。
「じゃあ、大工さんが一番好き――セイウチさんほどたくさん食べなかったんだったら。」
「でも、腹いっぱい食えるだけ食うたで」とトゥィードルダム。
 これは困ったことになりました。やがて、アリスは「じゃあ! どっちもとってもいやな人――」と言いかけて、はっとしてやめました。

抱き合うほど仲良し

この双子はことあるごとに「大好き」というように抱き合うほどの仲良し/(c)Shoichiro Kawai (c)okama

 河合祥一郎訳は、言葉遊びを重視しながら、登場人物たちの個性を豊かに表現しているのが特徴だ。

 「ふしぎの国のアリス」を読んでいても、なかなか「かがみの国のアリス」までは読んでいないという人は多い。

 しかしアリスは、この2作あわせて完結する作品だ。

 「ふしぎの国」よりも、もっとクレイジーな「新訳 かがみの国のアリス」を読むことで、女王になろうとするアリスをエスコートする騎士キャロルと一緒に、少女が大人になる瞬間を見届けてほしい。


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