コンシューマ向け3DチップがnVidiaとATIの2社寡占になって久しいが、この年末は最先端の「Direct X9対応」「8パイプライン」のビデオチップのマーケットに、続々と新規参入が見込まれている。すでに本日、SiSからスピンアウトしたXGI社の「Volari」チップを乗せたカードが登場しているが、年末から来年にかけてもう1社、伝説のメーカーのチップが姿を現わしそうなのだ。その名はDeltaChrome、設計はS3社である。
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DeltaChrome S8のリファレンスボード。ビデオメモリはDDR700 |
DeltaChromeチップ。S8の文字が刻印されている |
Windows 3.1時代には「Windowsアクセラレータ」の代名詞としてこの世の春を謳歌したS3社だが、その後本格化した3Dの開発競争では出遅れた。ライバルに追いつくべく、1998年にはSavage 3D、1999年にSavage 4、2000年にSavage 2000と製品を投入してきたが、デスクトップ市場でシェアを奪い返すことはできなかった。2000年6月には、S3社は自社によるビデオチップの開発継続を断念し、ビデオチップ部門をVIAとの合弁会社「S3 Graphics」社に移管し、元のS3社はSonicBlue社と改名、MP3プレーヤー「RIO」などを扱うメディアプロダクト会社に衣替えした(が、今年3月に事実上倒産した)。
S3 Graphicsとなった後は、クロック向上などのマイナーバージョンアップでノートPC向けの販売を主力としていたが、2001年のVIA Technology Forumを機会に、復活の狼煙を上げた。2002年に2パイプライン/4テクスチャパイプラインでDirect X8.1対応のコードネーム“Zoetrope”を、2003年には4パイプ/8テクスチャパイプでDirect X9対応の“Columbia”を投入するとアナウンス。実際、2002年6月にはZoetropeが「Savage XP」として、さらに2003年1月に早くもColumbiaが「DeltaChrome」として発表された。
ただ、DeltaChromeの実物はなかなか世に現われなかった。9月のIntel Developer Forum、Computex Taipeiでデモが行なわれたものの、現時点ではまだ市場では流通していない。ただ、秋葉原でデモは行なわれ始め、製品登場は間近のようだ。今回は、S3 Graphics社の評価用ボードを元に、注目の機能と性能に迫る。
DeltaChromeの特徴とターゲット
DeltaChromeには3モデル、6バリエーションがある。上から順に
F1 Pole
F1
S8 Nitro
S8
S4 Nitro
S4
となり、S4が4パイプライン、他は8パイプラインとなっている。PoleやNitroの有無はクロックの違いのようでF1とS8の違いは、クロックと、ボードデザイン(F1は6層基板が必要という)と言われているが、正確なところはわからない。今回借用したボードはS8ベースだが、コアやメモリの周波数は不明で、また、Nitroなのかどうかもわからない。
DeltaChromeでは最大256MBのメモリを搭載でき、メモリインターフェイスは128bitである。コアクロックはF1で350~400MHz、S8で250~300MHz前後と推定されている。メモリはこのボードの場合、Samsungの350MHz動作品(DDR700)だったので、
フルスピードで動いていれば11.2GB/秒、Radeon 9600ProやGeForce 5600Ultraと張り合える水準になる。
ターゲットとしては、F1がGeForce 5900やRadeon 9800クラス、S8がGeForce 5600やRadeon 9600クラス、S4がGeForce 5200やRadeon 9200クラスと見ているようなので、今回は5600・9600ラインを仮想競合カードとして性能を比較していくことにする。
もっとも、DeltaChromeはDirect X9対応の最新ゲームが快適にプレイできるというだけが売りではない。DeltaChromeには他のボードにない特徴的な機能がいくつもある。具体的には、
●ビデオ再生にリアルタイムでエフェクトをかけられる「ChroMotion」エンジンを内蔵。インターレース映像を最適にノンインターレース画面に出力できる「Per pixel de-interlacing」(画面の中で、動きが激しい部分についてはBob=走査線をコピーし、1フィールド単位で更新する=を用い、そうでもない部分についてはWeave=2つのフィールドを合成して表示=を用いることで、画質と動き表現の最適な組み合わせを計る)、ジャギーを取る「ノンブロッキングフィルタ」などを実現
●D4までのアナログコンポーネント信号を単体で(外部エンコーダチップ等なしに)出力可能(内部的にはD5にも対応しているが、現時点で表示可能なデバイスがないので、とりあえずサポート外となっている)
●性能ダウンのない画面の回転機能をサポート
●フォントのスムージングをハードウェアでサポート
などがある。
D4対応でビデオ表示に強いというのは、HD-DVDの規格承認、地上波デジタル開始と、加速の度を高めているテレビのハイビジョン化に真剣に向き合ったものとして注目される。まだまだテレビ出力はオマケ程度の扱いの3Dチップが多いなか、いち早く家庭での大画面テレビを意識したものといえる。Edenプラットフォームなど、家電的なPCへの傾斜を強めるVIA社の方針も関係しているのかもしれない。