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月刊アスキー 2001年9月号 Key personインタビュー

「次世代ゲーム機の覇者は、ゲームキューブです」 任天堂株式会社 取締役経営企画室室長 岩田聡氏

2001年09月14日 14時05分更新

文● 撮影:広岡雅樹、聞き手・構成:内田幸二、月刊アスキー・大槻眞美子

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基板
ゲームキューブの基板。上からGekko(CPU)、Flipper(ビデオチップ)、Splash(メモリ)が、中央に縦一列で並ぶ。名前と配置場所は、愛称そのままに月と尾ひれと水しぶきを連想させる。ちなみに、ゲームキューブのコードネームは“Dolphin”(イルカ)である。

[Q] その結果生まれたのが、ゲームキューブの仕様ということになるのですね。

[岩田] そうです。とにかく簡単に絵が出て、チューニングしなくてもすぐ最高に近い性能が出る、ソフトをつくりやすいゲーム機を目指したのが、ゲームキューブなのです。そして、ゲームキューブの開発で一番最初に重要視したのが「数字主義、スペック主義からの決別」です。

[Q] 数字主義、スペック主義?

[岩田] NINTENDO64も、うまく性能を活かせれば、あの当時にしてはかなりのことができた先進的な機械だったと思うんです。けれど、やはり先ほどのチューニングの話のような「スペック性能と実効性能のギャップ」ということが起きて、そうはいかなかった。最近の新しいゲーム機でもそうですが、3Dグラフィックスのハードウェアというものは、スペック上では、何ポリゴン出るとか、さまざまな追加機能で画面演出ができるだとか謳っていたのですが、実際にソフトを開発してみると「ゲームの中で表示できるポリゴン数は、スペックの10分の1」だとか「追加機能を使ったら、ポリゴン表示はさらに半分」という状態になってしまいやすいのです。つまり、いくらスペックが素晴らしくても、実際には使えないスペックが多いとか、実際にはスペックが嘘になってしまうとかいうことです。そこで、ゲームキューブでは、スペックのピーク性能を重要視するのでなく、現実的にゲームづくりで使える実効性能を重要視しました。

[Q] それは具体的には?

[岩田] たとえば、ソフト開発側からはNINTENDO64のときと比べてゲームキューブのスペックは、CPUを10倍、グラフィック処理速度を100倍にしてくださいとお願いしました。これは、「明らかに違う」と知覚できるソフトをつくるために必要なハードスペックだと考えてのお願いでした。で、実際に完成したゲームキューブはと言いますと、スペック性能的には依頼した、10倍のCPU速度や100倍の描画機能は出せていないのです。ですが、実効性能としてはまさに依頼したCPU10倍、グラフィック100倍が達成できたと思っています。

[Q] でも、これまでゲームキューブはスペックをあまり前面には出していませんね。

[岩田] それには、理由があります。ゲームキューブでは、先進的なことに挑戦して、それが思いどおり機能していますので、ハードをつくった開発チームも「やった!」という実感があるはずです。でも、任天堂はハードウェアのプラットフォームホルダーでありながら、世界最大のソフトウェアパブリッシャーでもあるため、「お客さんは、ソフトが欲しいからゲーム機を買ってくれるのであって、ハードの性能が高いからゲーム機を買ってくれるのではない」ということをハードを開発している担当者もよくわかっているのです。ですから、ハードについてはことさらコメントしてこなかったんです。去年の夏にゲームキューブを発表したときにも、ゲームキューブのハードウェア開発責任者である竹田が「ゲームが主役、ハードは裏方」と言い切っていましたしね。

[Q] ゲームキューブのCPUはIBM、ビデオチップはATIのものを採用されていますが、その経緯を教えていただけますか?

[岩田] これには竹田を中心にしたハード開発メンバーが、長い時間をかけて、世界中のさまざまな技術を検討した結果、コストと性能のバランスのいいものとして選んだのです。それ以外の政治的な理由は含まれていません。

[Q] システム構成はどのように?

[岩田] 構成自体は極めて単純です。大きく分けると、IBM製のPowerPC系CPU“Gekko”、グラフィックコアとしてATMのビデオチップ“Flipper”、そして、24MBのメインメモリの“Splash”の3つです。GekkoはPowerPC750, PowerPCG3ベースのCPUです。ベクトル演算ユニットがあったり、グラフィックチップ用の特殊なインターフェイスを持っていたり、256KBもの大きな二次キャッシュが入っているという点などがパソコン用のものとの違いになります。最近では、大容量の二次キャッシュを搭載したCPUがiMacやiBookなどで使われ始めましたが、こういうチップが世の中に登場する前に、IBMと相談して制作したものです。

[Q] 独自仕様ということですね。

[岩田] そうです。我々は二次キャッシュが大事だということを、NINTENDO64開発時に痛感し、こういう仕様をリクエストしたのです。プロセッサとメモリシステムのバランスが、昨今すごく悪くなっていて、プロセッサはどんどんクロックが上がっていくのにメモリのアクセス速度は進歩が遅い。Gekkoのクラスのプロセッサを扱うのに、大容量二次キャッシュは必須だと考えたわけです。

[Q] クロック的にはNINTENDO64とどのくらい違うんですか。

[岩田] それは4.5倍程度です。ゲームキューブが485MHzでNINTENDO64は93.75MHzですから。でも、大容量二次キャッシュのおかげで、処理速度は十数倍に上がりました。

[Q] すごいですね。Flipperの特徴は?

[岩田] Flipperには、グラフィック関係の機能と内蔵DRAMとオーディオのDSP、インターフェイス関連の機能がひと通り埋まっています。これを中心にしてCPUのGekkoとメモリのSplashが上下に配置されています。Splashの意味は「水しぶき」で、Flipperは「尾ひれ」、つまりイルカのイメージなんです。そしてGekkoは「月光」ですね。基板上のプロセッサやメモリの配置は、月、イルカ、水しぶきを思い浮かべていただくと、想像しやすいと思います。

[Q] 月とイルカと水しぶきですか。

[岩田] ええ。そしてプロセッサ配置の大きな特徴は、メモリの接続場所にあります。全体的な構造は、ゲームキューブとプレイステーション2(以下PS2)は似ているともいえます。PS2の場合、CPUにメインメモリがつながっているのに対して、ゲームキューブの場合はビデオチップにメインメモリがつながっているのが特徴です(編集部注:Xboxの仕様も同様)。

月刊アスキーでは、9/18発売の10月号でも「特集・ゲームキューブハードの秘密」を掲載する。筐体の中身の徹底的分析から岩田取締役ほか開発担当竹田取締役のインタビュー、ソニックチームの中氏ほかソフトメーカー開発者インタビューなど満載。

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