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米Transmeta社CEO、Dave Ditzel氏が登場! ゲートウェイが同社のプロセッサーを採用したことをアナウンス――“Design Conference2000 Japan”より 

2000年05月31日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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5月30日と31日の両日、パンパシフィックホテル横浜において、“Design Conference2000 Japan”が開催された。このイベントは、デバイス設計者などを対象に有料で行なわれているセミナー。ビジネス特許問題から、モバイル向けチップ、Bluetooth関連のワイヤレス技術、次世代DRAMなど、各種デバイスの技術や設計手法までを網羅し、併設イベントとして展示会も催されている。主催は日経BP技術情報センター。

本稿では、初日に行なわれたセミナーから、トラックB“モバイル時代の低消費電力LSI”――“Crusoeのすべて”と題されたセッションについて報告する。

このセッションでは、米Transmeta社のCEOであるDave Ditzel氏と、技術担当のMarc W.Fleishmann氏、Transmeta社日本代表の和田信氏が登壇した。

Transmetaのプロセッサーをゲートウェイが採用。AOLがその製品を利用

まず最初に、Dave Ditzel氏が“Crusoe”の概要について説明した。

米Transmeta社のCEO、Dave Ditzel氏
米Transmeta社のCEO、Dave Ditzel氏



Ditzel氏によれば、“Crusoe”という名前の由来は“ロビンソンクルーソー”から来ているという。Crusoeプロセッサーは、物理的には128bitのVLIW*エンジンを備えた独自仕様のものだが、Code Morphing Software(CMS*)というエミュレーターを常時走らせることによって事実上x86プロセッサーとして利用することができる。

*VLIW:Very Long Instruction Wordの略。複数の命令を1つの長い命令語の中に収めて、それらをすべて並列に同時実行するマイクロアーキテクチャーのこと

*CMS:CMSにはx86命令を“Crusoe”が直接実行できるように命令を変換する上記のような機能のほかに、いったん変換した命令をメモリーにキャッシュし、命令を再利用するときに再変換を行なわないようにする機能もある。従ってキャッシュのヒット率が高くなればなるほど、“Crusoe”のコアは本来の機能を発揮できるようになる。逆にいえば、CMSの性能によって、また処理するアプリケーションの内容によって、“Crusoe”の処理速度に差が現われることを意味している

“Crusoe”のメリットはまず第一に、トランジスタ数の少ないVLIWエンジンの採用による低消費電力、発熱の少なさである。また、CMSが供給されるため、既存のx86ソフト資産が活用できるほか、ソフトウェア開発が容易である。加えて、チップ内にPCIインターフェースやメモリーコントローラなど、North Bridge相当の機能を組み込んでいるため、追加すべきチップが少なく、システムの開発期間を短縮できる。高性能な電力マネジメント機能“LongRun”テクノロジーも大きな特徴だ。

今年の1月に発表されたCrusoeのラインナップは、1次キャッシュ96Kbytes内蔵でSDRAM対応のローエンド向けTM3200(333/400MHz、発表当時の名称はTM3120)と、1次キャッシュ128Kbytesのほか2次キャッシュ256Kbytesも内蔵し、DDR SDRAMにも対応するハイエンド向けTM5400がある。

前者の“TM3200”は、同社に参加しているLinusTorvald氏がOSとして専用に開発したMobile Linuxをベースに、HDDレスでフラッシュメモリーに対応するインターネットアプライアンス向け。また、後者のTM5400はWindowsを用いたノートパソコン向けとしている。それぞれの消費電力は1W~2W以下に低減している。TM5400については、まだ量産されていないが、今後2、3ヵ月のあいだに生産していくとした。

1月に発表された“TM3200”(左)と“TM5400”(右)
1月に発表された“TM3200”(左)と“TM5400”(右)



Dave Ditzel氏は、ローパワーのメリットを活かす同社のプロセッサーを応用した製品として、IDEO社や、Quanta社の“WebPad”、S3社のIA(インタネットアプライアンス)などの例を紹介した。

“WebPad”のデモ。インターネットに接続し、Netscape Communicatorでウェブを閲覧しているところ
“WebPad”のデモ。インターネットに接続し、Netscape Communicatorでウェブを閲覧しているところ



今回の講演のトピックとして、同社のプロセッサーを採用した製品をゲートウェイがつくり、AOLがその製品を利用することがアナウンスされた。両社の提携は昨年秋、AOLがパソコン直販メーカーのゲートウェイに8億ドル投資した際に発表されたもの。先月、共同開発したインターネット機器を発表しているが、この時点ではどこのプロセッサーを採用するかは明らかにされていなかった。また、6月にニューヨークで開催される“PC Expo”において、同社が何らかの発表をするということをほのめかして講演を終えた。

低消費電力の面で優位性は? “LongRunテクノロジはきわめて高性能なパワーマネージメント技術

続いて、同社のMarc W.Fleishmann氏が登壇し、低消費電力の面で“Crusoe”がいかに優位であるかを説いた。

携帯性、使い勝手の良さに加え、消費電力を低減するという問題に対し、同社では“LongRun”テクノロジーを組み込んでいる。これはアプリケーションに必要とされる性能レベル(負荷)を測定し、それに応じて動作周波数や動作電圧をダイナミックに変更できるテクノロジーである。

単位面積あたりの発熱量(パワーデンシティー)は、P=C・V・V・F(C:キャパシタンス、V:電圧、F:周波数)という関係がある。ここで、CodeMorphingSoftware(CMS)によってロジックが単純になることで、まずCが小さくなる。次にパワーマネジメントによって、VとFを低くして、さらにパワーマネージメントによってVとFも低くすることで、トータルの発熱量を劇的に抑えることができる。

その結果、消費電力が1W~2W程度に抑えられる。電力が6W以下ならば、ファンで強制冷却する必要もない。Marc W.Fleishmann氏は、DVDを再生した場合の消費電力を比較するデモを紹介した。発熱では約48度ぐらいの差が出るという。

DVDを再生したときの消費電力の比較。右が“Crusoe”を使ったもので、“LongRun”機能が働いている場合。消費電力レベルが低いことが分かる
DVDを再生したときの消費電力の比較。右が“Crusoe”を使ったもので、“LongRun”機能が働いている場合。消費電力レベルが低いことが分かる



SouthBridgeは“ALi M1535”、グラフィックチップには“Lynx2D”を推奨

最後にTransmeta社の日本代表として和田信氏が登壇し、“Crusoe”を使った回路設計と、同社が考えるモバイルインターネットシステムについて触れた。

右から、Transmeta社の日本代表ある和田信氏、Marc W.Fleishmann氏、CEOのDave Ditzel氏
右から、Transmeta社の日本代表ある和田信氏、Marc W.Fleishmann氏、CEOのDave Ditzel氏



“Crusoe”を使ったモバイル設計の要件は、電池寿命、サイズ、重量、ファンレス、インターネット互換、LongRun機能などである。

和田氏は、「“Crusoe”はソフトウェア面ではx86互換だが、ハード面では独自のVLIWチップを使用しているので、ピン配置も独自。回路は設計し直さなければならない。しかし、CodeMorphingSoftware(CMS)により、いままでの資産は継承できる。開発環境など、x86系の開発をする場合と同じアプローチを取ることができる」とした。

TM5400は、NorthBridge、LongRun回路、PCIバスコントローラー DDR SDRAMコントローラー、SDR SDRAMコントローラー、シリアルROMインターフェース、SouthBridgeインターフェースを内蔵している*

*TM3200はDDR SDRAMコントローラーを内蔵していない

“Crusoe”に接続するチップは、できるだけローパワーなものを選択したほうがよい。例えば、SouthBridgeなら、“PIIX4”(Intel) や“ALi M1535”(Acer Laboratry Inc)について使用実績があるとし、同社の推奨として“ALi M1535”を挙げた。また、PCIインターフェースに接続するグラフィックチップには、低電圧な“Lynx2D”(Silicon Motion)を推奨している。また、メモリーについては、DDR DRAMを使えば、電力を600mWに低減できる*とした。増設用のSDR SDRAMを使う場合には、DIMMスロットをどう配置するかという点も問題になると述べた。

*DDR DRAMを使えば~:DDRは2.5V(SSTL)、SDRは3.3V(LVTTL)電圧で動作する

インターネットアプライアンス向けの設計要件としては、インターネットの接続が容易であること、長時間接続ができること、ウェブブラウザ―用のプラグインが利用できることなどがある。

同社では、家庭やオフィスから、インターネットアプライアンスと設置型ゲートウェイを無線で結び、ゲートウェイ経由でインターネットにアクセスすることを考えている。“TM3200”は、Windows CE、QNX、BeOSなどもサポートしているが、インターネットアプライアンスとして使うならば、Mobile Linuxをベースに、たとえばShockwaveなどのプラグインをサポートするTransemeta's Mobile Liunxなどを推奨した。

同社のMobile Liunxの考え方としては、カーネル、XWindowとビデオドライバー、メモリーファイルシステムなどを16MBのフラッシュに入れて、ディスクレスで動作する方向に進むという。標準Linuxドライバーやサーバーアプリケーションをサポートし、Mobile Linuxの最適化を今後も推し進めていくとした。

最後に和田氏は、同社はモバイルインターネットシステムにフォーカスすること、マルチメディアに特化したモバイルPCの進化型の製品をつくること、Pad型インターネット端末と設置型ゲートウェイによるインターネットシステム環境をつくっていくとまとめた。

また、“CodeMorphing”はx86のインフラを使っているが、x86に限ったことではない。この先どうするかは、Transmeta社の考え方次第であるとして、“CodeMorphing”の技術をほかのプロセッサーにも転用していく考えも匂わせた。

Transmeta社CEOのDave Ditzel氏、Marc W.Fleishmann氏。“Crusoe”を手に持って
Transmeta社CEOのDave Ditzel氏、Marc W.Fleishmann氏。“Crusoe”を手に持って

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