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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第366回

メモリ供給は“危機的” PCもゲーム機も高値続きか

2025年12月16日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 メモリの価格が大変なことになっている。

 ウェブには、メモリの価格が3倍になったとか、1ヵ月で倍になったといったニュースがさまざまなメディアに掲載されている。玉石混交のニュースの中、押さえておくべきなのは、2025年11月17日のロイターの記事だろう。韓国のサムスン電子が、データセンター向けのメモリの一部について、9月と比べて約60%値上げしたと報じている。

 同じく韓国では、毎日経済新聞の英語版が11月27日、サムスン電子のDDR5のメモリ(16GB)が、9月末と比べて3倍近くまで値上がりしたと報じている。DDR5は、PCやサーバーに使うメモリの規格だ。

 半導体やITを専門とする台湾の調査会社Trend Forceは12月5日、メモリ価格の急上昇を受け、レノボ、デル、HPというPC世界最大手3社がいずれも12月中旬以降に、値上げに踏み切る計画だと報じた。この記事によれば、デルはPCの価格を15~20%値上げするという。

 価格が急騰している要因は何か。Open AIやグーグルといったAI大手各社が、世界各地でAI用のデータセンターの建設競争を繰り広げている。メモリやストレージを製造するメーカー各社は、製造ラインの多くをデータセンター向けに振り向けているため、PC向けのメモリの供給が不足し、価格上昇の原因になっていると説明されている。

 ただ、価格上昇の要因はAIをめぐるIT大手の競争だけにとどまらない。現在のメモリの価格上昇は、米中対立、インフレ、円安などさまざまな要因が複雑に絡み合っている。しかも、価格の上昇傾向は、長くなりそうだという予測が大勢を占めている。

半導体の価格が下がる時代が終わった

 メモリの価格の長期のトレンドを調べたところ、公的な機関による公表資料はほとんど見つからない。民間の調査会社による価格調査は行われているが、高額の料金を支払わないと閲覧できない。

 代わりに、米国のセントルイス連邦準備銀行が公表している「半導体および関連デバイス製造」の生産者物価指数というデータを紹介したい。メモリそのものだけでなく、かなり広いカテゴリで、CPUもGPUもパワー半導体も入る。1984年12月1日から毎月、セントルイス連銀が公表している由緒正しいデータだ。

 1984年の半導体と関連デバイスの製造原価を100とした場合、最新の2025年9月は59.8だ。長期のグラフをみると、1993年4月から下落傾向が始まり、2020年10月まで続いている。メモリ市場の長期の価格下落のきっかけは、日本勢から韓国勢への覇権の移行だと言われている。それまでNECや東芝が高品質・高価格の製品で覇権を握っていたが、サムスン電子を中心とした韓国勢が低価格攻勢を仕掛け、長期の価格下落のきっかけになったようだ。

 半導体と関連製品は、年を経るごとに性能が向上し、価格も下落するという時代が四半世紀以上続いていたが、2020年のコロナ禍をきっかけに、その時代は完全に終わった。セントルイス連銀の指数は2020年10月、53.8で底を打った。この時期は、コロナ禍で半導体の供給がストップしたことで価格上昇に転じた。

 さらに、2022年11月にOpenAIがChatGPTを一般公開したことで、本格的な生成AIの開発競争がスタートし、現在までの価格上昇に拍車をかけたと理解していいだろう。以下は、2019年から2025年のセントルイス連銀の指数をグラフ化したものだ。

 底値にあたる2020年10月と2025年9月の最新データを比較すると、11.1%上昇している。3倍とか2倍といった極端な上昇は反映されていないように見えるが、セントルイス連銀の指数にはメモリだけでなく、CPUから太陽電池まで幅広い製品が含まれるからだ。

高止まりが続く気配

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