半導体を巡り、米国と中国の対立が激しさを増している。
2025年6月21日のロイターの報道によれば、米国のトランプ政権は、いずれも半導体大手のTSMC(台湾)、サムスン(韓国)、SKハイニックス(韓国)を対象に、中国の工場で米国の技術や製品の受け入れを認めない措置を検討しているという。
ロイターの報道を引用した上記の文章は、一読でスッと理解するのが難しい。まず、この報道で名指しされた3社は、世界の半導体産業で極めて重要なポジションにある。
ボストン・コンサルティング・グループと米国半導体工業会(SIA)が2024年5月に公表したレポート『進化する半導体サプライチェーンの回復力』では、先端半導体のシェアを分析している。このレポートによれば、2022年の時点で、10nm未満の先端半導体の製造では、台湾が69%、韓国が31%のシェアを占めている。台湾、韓国を合計すると100%になる。
この100%の製造を担っているのが、おおむねTSMC、サムスン、SKハイニックスの3社ということになる。先端半導体の製造工程では、米国の技術や半導体製造装置などの利用が欠かせない。この前提に立つと、米政府は、先端半導体の製造において世界をリードする3社に対して、「中国で半導体をつくるな」と言っているのと、ほとんど同じだ。
ただ、米中は関税や貿易をめぐる交渉を続けていて、米中交渉の展開次第では、この規制は実施されない可能性もある。
「取引禁止」の企業リスト
半導体はAIや軍事、サイバーセキュリティなどあらゆる面で国家の浮沈を左右する「戦略物資」と考えられている。このため米国は、先端半導体の製造に使われる装置の中国への輸出を厳しく制限している。
さらに、米国の企業に対して取引を免許制とする企業のリストも公表している。このリストは「エンティティー・リスト」と呼ばれ、世界各地の企業がリストアップされている。半導体関連では、ファーウェイとその関連企業や、半導体の受託製造会社SMIC、メモリのメーカー、半導体製造装置メーカーなどが名を連ねている。日本国内にあるファーウェイの日本法人などもこのリストに掲載されている。
5月29日のフィナンシャル・タイムズは、トランプ政権が、半導体の設計に必要なソフトウェアを開発する企業に対して、中国企業にサービスを提供しないよう求めたと報じている。一連の流れを見ると、トランプ氏が2期目の政権を担う前から米政府は、中国企業が先端半導体の開発力を強化できないよう、さまざまな手を打っていることがわかる。台湾、韓国の大手3社を対象とした規制強化も、同じ流れに位置づけることができる。
TSMCの年次報告書を確認すると、地域別の売上のシェアが掲載されている。それによると、北米が70%、中国11%、日本5%となっている。TSMCにとっては、中国は、北米に次ぐ重要顧客ではあるようだ。しかし、6月15日のブルームバーグによれば、台湾政府もファーウェイとSMICを輸出規制対象の企業リストに追加している。
一方の中国政府も、米国のエンティティー・リストに相当する企業リストを公表しているが、いまのところ米国から台湾への武器輸出等に関わる企業が掲載されているようだ。
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