放送法の改正案が、2024年5月17日の参院本会議で可決された。インターネットを通じた番組の提供が、NHKの「必須業務」になる。
NHKが放送する番組のネット配信はこれまで、NHKにとっての「任意業務」とされてきたが、必須業務となることで何が変わるのか。身近で、大きな変化は受信料のあり方だ。最近、若い世代を中心に、スマホやPCは持っているがテレビは持っていない人が増えているという。
こうした人たちが、スマホやPCだけでNHKの動画を視聴する場合、受信料徴収の対象になるのだろうか。スマホだけで見る場合であっても、受信料の対象となるのが今回の放送法の改正がもたらす大きな変化だ。ただし、NHKはスマホやPCを持っているだけでは、受信料徴収の対象にならないとしている。
改正放送法は、遅くとも2025年の秋までには施行される。そうすると、最短で1年半以内に、スマホでNHKを見ていても、受信料を取られることになる。
テレビは持っているだけでNHKに支払い必須
今回の放送法改正の最大の注目点は、スマホやPCを「持っているだけ」の人が受信料徴収の対象になるかどうかだ。現在の受信料制度では、テレビについては持っているだけで、受信料徴収の対象となる。
NHK自身が、ネットで公開している「よくある質問集」にはっきり書いている。「テレビ等の受信機を設置しているすべての方」が、受信料徴収の対象になる。したがって、「テレビは持っているけど、NHKは見ないので払いません」と言っても、受信料は免除されない。
テレビと同じ理屈がネットにも適用されないか心配になるが、この点についてNHKは5月17日のプレスリリースで、「テレビをお持ちでない方について、スマートフォンやパソコンを持っているだけでは、負担の対象になりません」と明言している。
一方、アプリのダウンロードや、一定の操作をして配信を受けはじめた人については、受信料の支払いの対象になる。法改正はすでに国会で成立してしまったが、実際の制度変更が近づくにつれ、炎上しうる要素が満載に見える。
「世帯ごと」の受信料をどうする
現在、受信料は「世帯」が徴収の単位だ。世帯1軒に1契約とすると、例えばお父さんやお母さんが受信料を支払っていれば、子どもたちも、おじいちゃんやおばあちゃんも、NHKを見ることができる。つまり、同じ家であれば、テレビが1部屋に1台ずつあったとしても1契約分を支払う仕組みだ。子どもが大学に進学して、一人暮らしを始めたとしても、親から扶養を受けているうちは、受信料は免除される。
1世帯ごとに1契約という仕組みは、テレビが家の中に置かれているものだった時代に確立した制度だろう。問題は、この前提が大きく変化している点にある。
番組のネット配信がNHKの必須業務になると、NHKを受信することができる機器の台数は大幅に増える。スマホ、デスクトップPC、ノートPC、タブレット、動画配信用のストリーミングデバイスなどを想定すると、NHKを受信できる機器は1人1台どころでなく、1人2~3台ずつ持っているのが現状だろう。
NHKの訪問員は各家庭を回って家ごとに契約を促す仕事だ。しかし、動画を視聴できる機器の多くは家庭に「設置」されておらず、個人のポケットやカバンに入っているため、世帯を一つの契約主体と考える仕組みは維持が困難だ。
妻と夫の2人世帯の場合、例えばスマホはそれぞれが料金を支払っていることが多いだろう。スマホは電話番号ごとに1契約と整理することができる。
NetflixやAbemaのようなネット配信の場合、「1契約につき5台まで」といった形で動画を視聴できる端末の台数を制限している。NHKの動画配信サービス「NHKオンデマンド」は、1ID(1契約)につき5画面までという制限を設けている。
NHKの制度をスマホ時代に当てはめていくと、どうしても整理が難しいように思えてくる。上記の夫婦2人の世帯の場合、NHKにネットで住民票の写しを提出して「世帯です」という証明が求められるのだろうか。この場合、視聴者の手続き負担が増し、受信料制度への不満がさらに高まるかもしれない。
災害時、NHKの役割は大きい
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