5〜6年ほど前から、「なんとかテック」という言葉をよく目にする。
フィンテック(金融)、エドテック(教育)、ガブテック(政府)などがあるが、“テック”と特定の分野を組み合わせた言葉だ。
言葉の意味としては、特定の分野にIT技術を導入し、業務の効率化を目指すといったところで、その一つに「リーガル(法律)テック」がある。
リーガルテックをめぐって法務省が2023年8月1日、契約書をAIが審査するサービスについてガイドラインを公表した。
ガイドラインは、法的に争いがない取引に関する契約などについては「適法」とした。
法務省が、特定の事柄について法的な指針を示すのは珍しい。NHKは「法律に抵触しない目安を示すのは初めて」と報じている。
通常、法務省に問い合わせをして、特定の行為について「AIを使いたいんですが、適法ですか」と聞いても、基本的には「個別の案件についてお答えはできません」と言われるだけだろう。
今回、法務省がガイドラインの公表に踏み切った背景には、法的な線引きをある程度示し、企業活動の活性化を図るという、最近の政府全体の流れがある。
斎藤健法務大臣は、8月1日の記者会見で次のように話している。
「今般、リーガルテックの中でも比較的サービスが進展しております、契約書等関連業務支援サービスを取り上げ、これと弁護士法第72条との関係について、予測可能性をできる限り高めるためにガイドラインを公表したものです」
リーガルテックとは
リーガルテックは、それほど一般に浸透した言葉ではないだろう。
ネット上で契約を交わす電子契約や、行政機関への申請などをサポートするサービスなどがリーガルテックに位置づけられるが、契約書のレビューもひとつのジャンルを形成している。
通常、大企業であれば、契約書の準備ができたら、おおむね次のような流れで仕事が進むのではないか。
- 担当の部署が契約書を作成
- 法務部に持っていき、レビューをしてもらう
- 法務部だけでは判断がつかない場合、顧問の弁護士にも見てもらう
- 法務部が修正し、最終化
- 取引先と契約
レビューをする作業は、基本的には人力だ。
人間が契約書を読み、問題点を見つけ出し、リスクを軽減する文言に修正する。こうした作業をAIが支援し、例えば、契約書のひな形などのデータから、検討が必要となる文言を示す。
契約書のレビューを提供しているのはおもに、以下の企業だ。
- LAWGUE(ローグ)
- LeCHECK(リチェック)
- LawFlow(ローフロー)
- LegalForce(リーガルフォース)
- GVA assist(ジーヴァアシスト)
LegalForceは、有名俳優を起用したCMを流していることで、その名前がある程度浸透しているかもしれない。
ただ、こうしたリーガルテックについては、以前から弁護士法に抵触する可能性が指摘されていた。
弁護士法第72条にはこう書かれている。
「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」
システムで契約書をレビューすると弁護士法に抵触する可能性があるというのが、リーガルテック各社に対する批判だった。
AIは法的見解を述べられない
こうした議論を受け、法務省が公式の見解を示したのが、今回のガイドラインだ。
ガイドラインは、次の3つのポイントを分析している。
- 「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」(以下、「鑑定など」)
- 「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件」に該当するか
- 「報酬を得る目的」
AIが契約書をレビューする行為が「鑑定など」に当たるかがひとつのポイントだが、システムに登録されたひな形と契約書の文言を比べて、相違があるときは、「相違があるよ」と示してくれるといった場合には、鑑定などには当たらないとした。
一方で、法務省のガイドラインは、「個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合」については、「鑑定など」に該当すると判断した。
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