対話型AI「ChatGPT」の開発者が来日し、OpenAI社への注目が一気に高まっている。
来日したのは、OpenAI社のサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)。昨年末に一気に加熱した、AIブームの中心人物だ。
アルトマン氏は、2023年4月10日に首相官邸を訪れ、岸田文雄首相と会談し、自民党本部で国会議員たちの会議にも出席した。
これまで、ChatGPTの高度な対話機能には相当な注目が集まっていたが、CEOが来日し政府・与党と会談したことで、OpenAI社が今後、日本でどのようなビジネスを展開していくのかにも注目が集まる。
OpenAI社は、どんな会社で、どんな事業展開を視野に入れているのか。
「おおむね人間より賢い」
OpenAI社は2015年に設立され、米カリフォルニア州サンフランシスコ市を拠点としている。
イーロン・マスク氏、ピーター・ティール氏ら世界的な投資家・起業家らから巨額の投資を得たことでも知られる。
非営利の組織としてスタートし、「汎用AI」(Artificial General Intelligence)の確立を提唱している。
OpenAI社が提唱する汎用AIは「おおむね人間よりも賢く、全人類の役に立つAI」というものだ。そして、次のような考え方を掲げている。
「良いことを最大化し、悪いことは最小化し、汎用AIが人間性を拡大するものとしたい」
もともと、非営利組織として発足したのは、オープンソースのAIあるいは汎用AIを確立し、公共の利益としたいという意図があった。
背景には、GAFAを中心とする一部の「ビッグテック」各社が、利益を独占する状況に対する批判があった。
「オープン・非営利」を維持するのは難しい
非営利で「オープン」なAIを目指してスタートしたが、高い志を維持するのは困難が伴った。
AIは膨大なデータから学習し、その精度を高めていくが、学習にはコンピューターによる高度な計算が必要になる。
計算能力の高いコンピューターを使い続けるには、高額の資金がいる。
「非営利」の旗を掲げたままでは、高レベルの計算を続ける費用が賄えず、2019年に営利企業に移行した。
さらに「オープン」なAIを目指していたものの、この旗も下ろしている。
2023年3月には、自社の新システムとして「GPT-4」を公開しているが、大部分を非開示としている。
インターネット上にシステムのソースコードを公開すれば、瞬時にコピーされ、模倣され、改良される。
競合他社がコピー商品をつくり、結果としてOpenAI社のシステムが他社に遅れを取るリスクがある。
OpenAI社がこの8年間でたどってきた経過からは、AIを取り巻く激烈な競争環境の中で、「オープン・非営利」を貫くことの困難さが浮かぶ。
来日の狙いは
2022年11月に、OpenAI社がChatGPTを公開すると、自然すぎる対話の流れに絶賛が集まる一方で、高すぎる性能に対する懸念も一気に高まった。
イタリアの当局は、いちはやく2023年3月30日にChatGPTの使用を一時的に禁止した。4月10日のロイターによれば、フランスやドイツ、アイルランドなども禁止を検討しているという。
そうした中で、突如明らかになったのが、今回のアルトマンCEOの来日だった。ChatGPTのリリース後、アルトマン氏が最初に訪れた国が、日本だという。
岸田首相との面会後、アルトマン氏が打ち上げたのが、日本拠点の設置だ。テレビ東京が公開している動画によれば、首相官邸での「囲み」で、アルトマン氏は「日本語と日本文化を使って、日本人のためにより良いモデルをつくりたい」と述べている。
さらにアルトマン氏、自民党のプロジェクトチームの会合に出席した。塩崎彰久衆院議員のツイートによれば、アルトマン氏は、以下の7項目を提案したという。
- 日本関連の学習データのウェイトの引き上げ
- 政府の公開データなどの分析提供等
- LLM(※筆者注:大規模言語モデル)を用いた学習方法や留意点等についてのノウハウ共有
- GPT-4の画像解析などの先行機能の提供
- 機微データの国内保全のための仕組みの検討
- 日本におけるOA社のプレゼンス強化
- 日本の若い研究者や学生などへの研修・教育提供
この7項目から読み取れるOpenAI社側の狙いは、日本からの投資の呼び込みと、ビジネスの拡大、欧州における規制強化への牽制ではないか。
項目1「日本関連の学習データのウェイトの引き上げ」は、首相官邸でのアルトマン氏の発言とほぼ一致する。
ChatGPTの日本語での対話の精度を高めるにはやはり、膨大なデータの入力、資金の投入が必要になる。
そのために日本からの投資を呼び込み、日本でのビジネスの機会を拡大したいというのが、OpenAI社側の意図ではないか。
ドラえもんの国ニッポン
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