半導体をめぐる米中対立が深刻化する中で、日本国内の動きも加速している。
次世代半導体の量産を目指すとして設立されたラピダス社は2023年4月4日、ベルギーの研究機関IMECとパートナーシップ契約を結んだと発表した。
この契約は、次世代半導体の国内生産を目指すうえで重要なステップと見られている。
ラピダス社は国内の大手企業8社が出資し、8ヵ月前に設置されたばかりの新しい企業だ。
しかし、ラピダス社設立3ヵ月後の2022年11月には、政府が研究開発予算700億円の採択先とするなど全面的に支援している。
西村康稔・経済産業相は、次世代半導体の開発について、「米中の技術覇権が激化する中、経済安全保障、そうした観点からも一層重要性が増している」と述べている。
5兆円プロジェクトの危機感
キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、トヨタ自動車、NTTなど8社が計73億円を出資するラピダス社は、2027年の次世代半導体の量産開始を目指すという。
設立段階から、政府は同社を中心に、回路の線幅2ナノメートル(ナノ=10億分の1メートル)の次世代半導体の設計、製造基盤の確立を目指す姿勢を打ち出している。
11月に700億円の支援を決めたほか、12月には西村経産相がベルギーを訪れ、IMECとラピダス社の覚書の署名に立ち会った。
さらにラピダス社は2月末、北海道千歳市を製造拠点とし、工場を建設する方針を発表した。
2月28日付の日本経済新聞によれば、この工場建設を含め、研究開発から量産に至るまで、必要となる投資は総額で5兆円規模となることが見込まれている。
いまのところ、確たる報道はないが、この5兆円の大部分を政府が支援する前提で立ち上げられたのがラピダス社と考えていいだろう。
経済産業省が2022年11月に公表した説明資料には、「10年前にFin型の量産に至らなかった日本が改めて次世代半導体に参入するラストチャンス」「10年の遅れを取り戻す、これまでとは異次元の取組が必要」といった語気の強い言葉が並んでいる。
研究の柱は「技術研究組合」
この「異次元の取組」において、ラピダス社は製造拠点の役割を担うことが予定されている。
これまでのところラピダス社の動きが目立っているが、実はこの巨大プロジェクトにはもうひとつの柱がある。
物質・材料研究機構、理化学研究所などの研究機関、東大、東工大、ラピダス社などが参加する「技術研究組合最先端半導体技術センター」(Leading-edge Semiconductor Technology Center、LTSC)だ。
このLTSCを中心に研究開発を進め、ラピダスが量産化を担うという建付けだ。
ラピダスを中心とする次世代半導体の量産化計画は、経済産業省、国の研究機関、大学、産業界がひとつになり、巨額の資金が投じられる「日の丸半導体」プロジェクトだ。
「10年の遅れ」を取り戻せるか
このプロジェクトに対しては、あちこちから「すでに一度失敗したではないか」とのツッコミがあちこちから入っている。
1980年代後半には、日本の半導体は国籍別シェアで世界の過半を占めていた。
その後、米国や韓国、台湾勢が台頭し、現在の日本の立ち位置は、経済産業省が「10年の遅れ」と認めるまでになっている。直近の国籍別シェアは6%程度にとどまっている。
政府が巻き返しに本腰を入れることとなったきっかけは、コロナ禍によるサプライチェーン危機だろう。
グローバル化が進んだことで、日本の製造業は、次々に製造拠点を海外に移した。
しかしサプライチェーン危機を経て、日本の製造業が国内に製造拠点を再設置する動きが出始めている。政府も補助金などでこうした動きを後押しする施策を打ち出している。
ラピダス社は、2年後の2025年には試作用ラインの立ち上げを目指している。
現在の計画では事実上、2027年までの4年間で「10年の遅れ」に追いつかなければならない。
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