ロシア軍のウクライナへの本格的な侵攻で、ロシアの大手銀行が国際的な決済ネットワークから締め出される。
各国がロシアに対してさまざまな制裁を打ち出しているが、中でも最も厳しい経済制裁と言われているのが、決済ネットワークSWIFTからの排除だ。
世界200ヵ国以上、1万1千以上の銀行や証券会社などが加盟するSWIFTの名前は、この1週間ほど、世界中のメディアに登場している。
主要な銀行がSWIFTから排除され、海外送金ができない状態になると、ロシアの経済に何が起きるのだろうか。そして、日本への影響はないのか。
少なくとも、上昇を続ける物価をさらに押し上げる要因にはなりそうだ。
SWIFTとは
SWIFTは、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicaitonの略で、国際銀行間通信協会という日本語に翻訳されている。
世界中の銀行や証券会社、保険会社などをつないでいる。
たとえば、日本の銀行に口座を持っている人が、ドイツに移住した親戚にお金を送りたいとき、日本の銀行からSWIFTを介してドイツの銀行に送金されることになる。
SWIFTは「メッセージング・システム」だとも理解されている。日本のM銀行からドイツのD銀行に国際送金をする際、「M銀行からD銀行の口座に1万ドル送ります」といった送金についてのメッセージをやり取りする。
銀行などの金融機関が、金融業務だけに使うメールのような仕組みと理解しても差支えないだろう。
SWIFTに詳しい麗澤大学の中島真志教授は『SWIFTのすべて』(東洋経済新報社)の中で、その位置付けを次のように紹介している。
「今やSWIFTは世界の金融取引の社会的インフラとして不可欠の存在となっている」
ロシアの銀行がSWIFTから締め出されると、困るのは、その銀行に口座を持っている企業だ。
たとえば、日本の企業にウォッカを輸出しているロシアの企業は、SWIFT経由の国際送金でウォッカの代金を受け取れないことになる。
いまのところ排除されるのは7銀行だけ
2022年3月2日付のロイターは、EU(欧州連合)はロシアの大手・中堅銀行7行をSWIFTから排除すると報じている。
日本の岸田文雄首相もこの方針に歩調を合わせる意向を表明しており、以下の7行の名前が公表されている。
●プロムスヴャジバンク
●ロシア対外経済銀行(VEB.RF, Vnesheconombank)
●ロシア連邦中央銀行
●対外貿易銀行(VTB Bank)
●ソフコムバンク
●ノヴィコムバンク
●アトクリチエ
7行の中では、対外貿易銀行(VTB)がロシア国内で第2位の資産規模を有するという。
SWIFTの公表資料によれば、7行は3月12日にSWIFTのネットワークから切断される予定だ。
3月4日の時点で、最大手のズベルバンクがこのリストに入っていない。1位が制裁対象に含まれなかったことが、最大のポイントだと理解できる。
最大手行がリストから外れた大きな要因は、エネルギーだ。
欧州各国は、ロシアからの石油・ガスに対する依存度が高く、ズベルバンクなどを介した決済ができなくなると、石油・ガスの取引に大きく影響するおそれがあるからだ。
天然ガスの世界最大手ガスプロム系列の銀行もリストから外れている。
こうなると、疑問が残るのは制裁の実効性だ。
素人考えにはなるが、海外と取引のあるロシア企業の人たちは、ズベルバンクなどリストに載っていない銀行に行って、新たに口座を開設することで、制裁を回避できるということにはならないのか。
日本時間の3月2日には、資金流出が相次ぎ、ズベルバンクが欧州の主要な事業から撤退すると発表されたが、それでも銀行間の送金は当面継続されることになる。SWIFT以外の銀行間送金の手段も存在する。
さらに、大企業間のやり取りに使うことは難しいかもしれないが、SWIFTとは別にウェスタン・ユニオンなどの海外送金事業者や、仮想通貨なども、個人や中小企業間の取引では一定の代替手段にはなるだろう。
さらなる物価上昇の懸念
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