デジタル人民元(数字人民币) Wikipedia
北京冬季オリンピックの開幕を1ヵ月後に控え、中国でデジタル人民元のウォレットアプリ試行版の配信が始まった。
ロイターの報道によると、ウォレットアプリの配信が始まったのは2022年1月4日のことだ。
北京五輪の開会式は2月4日に予定されているため、五輪開幕から数えて、ちょうど1ヵ月前の試行版のリリースとなった。
米国の大手メディアなどでは昨年から、冬季五輪にあわせてデジタル人民元の存在を世界にアピールするのが中国政府の目標と予測されていた。
今回の試行版リリースは、こうした観測を裏付けるものと言えるだろう。
ただ、現時点では、中国の主要な国内銀行などの「サポート機関を通じて、一部のユーザーのみが入手できる」(1月4日付ロイター)という。
直近の報道からは、スケジュールが遅れ気味なのかともとれる動きだが、この分野において主要国の中で最も先行しているのは間違いない。
民間のデジタル決済はジリ貧に?
中国といえば、AliPay、WeChat Payなど民間企業による電子決済サービスが広く普及していることでも知られる。
今回のニュースを目にして、デジタル元のような中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC、Central Bank Digital Currency)の本格運用が始まったとき、民間の決済サービスは今後どうなっていくのかという疑問が浮かぶ。
日本の状況から想像を膨らませてみると、国内では現在、Suica、ICOCAなどの交通系電子マネー、PayPay、d払い、楽天ペイといったQR決済サービスが利用されている。
ここに、日本銀行が「デジタル円」を発行して、スマホ向けのウォレットアプリも配布しはじめたらどうなるだろうか。
中高年層を始めとして、多くの人がデジタル円に流れるのではないか。近年、その力の低下が指摘されてはいるものの、やはり「中央銀行」の信用力は絶大だ。
話を中国に戻すと、AliPay、WeChat Payといった中国系の電子決済サービスは現在、中国だけなく、東南アジア諸国なども含め圧倒的なシェアを得ているが、その市場に「デジタル人民元」が本格参入することになる。
そうなると、AliPay、WeChat Payは今後、じわじわと衰退していくのではないかと思えてくる。
2021年4月29日のブルームバーグによれば、AliPay、WeChat Payが優位にあるデジタル決済市場で、デジタル元が2025年までに9%のシェアを握るとのBloomberg Inteligenceの試算もある。
民間の決済インフラは残る
しかし、デジタル元とAliPay、WeChat Payなどは、必ずしもガチンコの競合関係にあるとは言えない。
中央銀行と民間企業の役割は異なり、民間企業側はすでに広大な決済インフラを構築しているからだ。
これから中国人民銀行(中国の中央銀行)の営業マンが、デジタル元の決済端末を持って、国中のレストランや商店を回るわけではない。
すでに存在する民間企業の広範なネットワークを利用することになるというのが、正確な予測に必要な要素だろう。
中央銀行は法定通貨を発行し、民間企業は決済インフラを提供するという構造自体は当面、維持されることになる。
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