2019年3月、著作権を侵害しているコンテンツのダウンロードを違法とする著作権法の改正案を、政府が国会への提出を見送った。
法改正が根本的な海賊版対策になるとみる関係者はほとんどいないが、現在も海賊版のマンガは、ネット上に出回っている。著作権法の改正を含め、何らかの対策が必要である点についてはほぼ異論がない状況と言っていいだろう。
4月23日には、「知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会コンテンツ分野」の会合が開かれた。著作権法の改正に向け、仕切り直しの議論が始まったと受け止めていい動きだ。
ダウンロードの全面違法化については、マンガ家たちや、ツイッターを始めとするSNS上で強い反発の声が出たため、つまづいた。
今度の改正は、いまのところ、3月に提出が見送られた法案の「微修正」で議論が進んでいくと考えられそうだ。
●手続きとしては「法案再提出」が濃厚
「手続き的には、もう一度提出をするということだと思う。マンガ家を含めて、反発の少ない形でダウンロードを違法化し、リーチサイト規制もセットでやるということではないか」
検証・評価・企画委員会の委員の一人はこう話す。
4月23日の会合には、当事者としてのマンガ家を代表して、日本漫画家協会(里中満智子理事長)が「今後の海賊版対策のあり方について」との資料を提出している。
「実行できる手立てとして、まずは広告出稿規制を即時、容易に発動できる事、そしてリーチサイト規制ではないでしょうか」
「また、違法とされる範囲が適切に設定されたうえでダウンロードを規制する方法を模索すると同時に、アップロードの方を重点的に取り締まる画期的な手立ても研究、開発されて欲しい、と思います」
同協会の資料は、今後議論が本格化されるであろう海賊版対策のあり方について、いくつかのヒントを示している。
●リーチサイト規制
1つ目はリーチサイト規制だ。3月に政府が提案を目指していた著作権法の改正案にもリーチサイトの規制が盛り込まれていた。
海賊版のマンガをウェブサイトにアップロードするのはすでに違法行為だが、アップロードそのものには関与せず「リンクを貼る」ことで規制の回避を狙ったものとみられるのがリーチサイトだ。
当時の改正案では、リーチサイトの運営者やリーチアプリの提供者については、5年以下の懲役、500万円以下の罰金と、刑事罰の対象された。
さらに、こうしたリーチサイトにリンク情報を掲載する行為についても、3年以下、300万円以下の罰金と、刑事罰の対象とされている。
●海賊版サイトへの広告をどう抑えるか
2つ目は、業界団体が主導する、広告の自主規制強化だ。
海賊版サイトやリーチサイトは、広告を掲載して得られる広告費を資金源のひとつとしている。
現在、ネット上の広告は出稿の多くが自動化されていることから、サイトに違法性のあるコンテンツが含まれていても、広告が掲載されてしまうなどの問題があるとされる。
こうしたサイトへの広告出稿を、業界団体で抑制していくという考え方だ。
2019年度前半には、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)と広告関連の3団体が、合同会議を設けるという。
●ダウンロード規制も再提出の流れ
3つ目は、「インターネット利用の萎縮を招く」との声で見送られたダウンロードの全面違法化だ。違法となる範囲に一定の制限をかけて、再提出される流れがありそうだ。
内閣府知的財産戦略推進事務局が23日の会合に提出した資料には次のような記述がある。
「著作権を侵害する静⽌画(書籍)のダウンロードの違法化のための法制度整備を速やかに⾏うこと」
「『深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること』と『国⺠の正当な情報収集等に萎縮を⽣じさせないこと』という2つの課題を両⽴すべく、国⺠の皆様の声をより丁寧に伺いながら引き続き法案提出に向けた準備を進める」
3月に自民党から待ったがかかったものの、政府の姿勢としては、ダウンロード違法化を進めていく方針については変更がない模様だ。
ただ、これまでの法案よりも、違法とされる範囲は狭くなる可能性が高い。
情報法制研究所や明治大学知的財産法制作研究所は、法案に「原作のまま」と「著作権者の利益を不当に害する」という要件を盛り込むよう提案している。
たとえば「原作のまま」を要件とした場合、マンガの1話分のファイルをネットからダウンロードすれば違法だが、引用のため1コマをダウンロードするだけでは違法にならない可能性がある。
マンガをパロディにしたものについても「原作のまま」にあたらない、あるいは利益を害する可能性はあっても「不当」とまでは言えない可能性もある。
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