ゲーミングデバイスの世界的トップブランドであるRazer。マウスやキーボードで圧倒的なシェアと認知度を誇る同社が、近年特に注力し、eスポーツシーンで実績を上げているのが「ゲーミングヘッドセット」の分野だ。
先日も「Counter-Strike 2(CS2)」における世界最高峰のプロフェッショナルeスポーツリーグである「BLAST Premier」との大型パートナーシップ締結のニュースも報じられたばかり。2026年後半から2028年にかけて開催される12大会にわたり、選手たちは公式パートナーであるRazer製ヘッドセットを着用してステージで対戦する。
ASCIIでは、そんなRazerのグローバルeスポーツディレクターであるジェフリー・チャウ(Jeffrey Chau)氏にオンライン・インタビューを実施。BLASTとのパートナーシップ締結の狙いや、ミリ秒単位の超低遅延を実現する同社の独自技術、そして世界トッププレイヤーらと共に歩む製品開発の裏側について詳しく話を伺った。
ゲームの勝敗を決める場であり、技術の優劣を競う場
ーーはじめに、Razerのeスポーツにおける取り組み、そして今回の主役であるゲーミングヘッドセットの全体像からお聞かせください。
ジェフリー・チャウ氏(以下、ジェフリー): まず、Razerにとってeスポーツは単なるゲーム大会ではありません。「技術そのものを競う場だ」と捉えています。だからこそ、私たちは自社を周辺機器メーカーではなく「テック企業」であると認識し、eスポーツをより高いパフォーマンスの領域へ持っていくことを常に目指しています。
eスポーツで使用するヘッドセットにおいては、マイク性能やノイズキャンセリング性能など重要技術がいくつかありますが、中でも特に重要視しているのが「レイテンシー(遅延)」の低減です。というのも、かつては有線接続が当たり前だったゲーミングデバイスにおいて、今やマウスもヘッドセットもワイヤレス接続が主流になったためです。快適性が向上する反面、プロが勝負で勝つためには、敵の足音や位置関係といったインゲームの音響キュー(合図)を瞬時に捉える必要があります。そのためにワイヤレス接続における低遅延性は何よりも重要です。
当社のヘッドセットは、ワイヤレスで10ミリ秒(100分の1秒)単位の反応速度を追求し、実現しています。これは業界最速クラスの先進的な数値です。1秒の遅れが勝敗を分けるプロの世界において、このわずかな差を実現することが決定的な競合優位性となっています。
キーボードやマウスで培ったワイヤレス技術で低遅延を実現
ーー有線から無線への進化は、eスポーツ業界の盛り上がりを語る場合に欠かせない画期的なポイントですね。Razerの低遅延化技術にはどのような特徴があるのでしょうか。
ジェフリー: Razer独自の「Razer HyperSpeed Wireless(第2世代)」というワイヤレス技術を採用しています。これは物理的な2.4GHz帯の活用、プロトコルの最適化、信号伝送速度の向上、データパケット処理や圧縮・バッファリングの最適化など、これまでのゲーミングデバイス開発で培ってきたあらゆる要素を突き詰めたものです。
Razerならではの強みは、eスポーツ向けギア全体で超低遅延を実現している点です。マウスとキーボードでは1ミリ秒未満、ヘッドセットのオーディオでは約10ミリ秒という高速な応答を実現しており、すべての製品が最大限の応答性能を発揮できるよう設計されています。
注:各周辺機器のレイテンシーは以下の通り:
「Viper V4 Pro」平均クリックレイテンシー 0.204ms、平均モーションレイテンシー 0.36ms
「Huntsman V3 Pro TKL 8KHz」キーボードレイテンシー 0.48ms
「BlackShark V3 Pro」ワイヤレスオーディオレイテンシー 10ms
ーー 確かにUIなども統一された「トータル体験」の提供は、単体デバイスメーカーではできないことですね。
ジェフリー: そうです。ヘッドセットもマウスもワイヤレスでコネクトする製品が増えた今、それぞれが低遅延で、信頼性高く繋がることが大事なのです。こうしてユーザーがRazerのエコスステムが築けることこそ、他社に対する最大の差別化要素だと考えています。
プロゲーマーがRazerを選んでいる点が何よりの証明
ーーその技術力の高さは、実際にどんな場面で評価されていると感じますか。
ジェフリー: 何よりの証明は「プロの選手が、勝ち抜くためのツールとして選んでいる」という事実です。サードパーティの統計データによると、当社のヘッドセット「BlackShark」シリーズは770名以上のプロ選手に採用されています。上位モデルの「BlackShark V3 Pro」単体でも約400名のプロが使用しており、「最も低遅延で、最もつけ心地が良い」からこそ、勝利をかけた本番のステージで選ばれているのでしょう。
ーープロ選手に選ばれる「BlackShark」シリーズの開発プロセスで、特に意識されたポイントを教えてください。
ジェフリー: 開発時には様々なプロ選手からのフィードバックを活かしていますが、今回は世界最高峰の「Counter-Strike 2(CS2)」メジャー大会(IEM Cologne Major 2026)で優勝した、ニコラ・コヴァチ選手(通称:Niko)を例にとりましょう。彼は実際にRazerのラボへ足を運び、エンジニアと共に徹底的なテストに参加しました。上位モデル「BlackShark V3 Pro」をはじめ、当社ヘッドセットの開発にはそんな彼の声が活かされています。
ーー世界トップゲーマーがRazerに要求したことは?
Nikoが要求したのは主に3点でした。
1つ目は「音の鮮明さ(クラリティ)」と「音の定位感(ポジショニング)」。敵の足音や銃声の位置関係が正確に把握できることが、そのまま試合の成績に直結するからです。
2つ目は「マイク性能」。以前、インゲームリーダー(IGL)を務めていた経験から、NiKoはチームメイトに明確かつ正確な指示を伝えるうえで、音声を正確に拾うことがいかに重要かを理解しています。当社のヘッドセットは、口元にエアポケット構造を設けた「Razer HyperClear カーディオイドマイク」や、12mmのフルバンドマイクを搭載し、クリアな音声を届けられるようにしています。
3つ目が「装着性」です。プロは練習も含めると、1日10〜12時間もヘッドセットを装着し続けます。途中で耳や頭が痛くなって集中力が切れるようでは意味がありません。そのため、「BlackShark」シリーズは徹底した軽量化を図り、長時間のプレイでもストレスを感じさせない設計を最重要視しました。
ーープロ選手からのフィードバックは、開発陣にとっても刺激的なものが多そうですね。
ジェフリー: 非常にエキサイティングです。Nikoはストレートに改善点を指摘してくれます。例えば「うっかり充電を忘れてしまうことがあるから、有線(オーディオイン)ケーブルも挿せるようにしてほしい」という意見は有線接続オプションの搭載につながりました。「イヤーカップの通気性を上げてほしい」という要望からデュアルフォームクッションの素材が改良されたのもポイントです。
特に印象に残っているのは、新しいマウスの初期プロトタイプをテストしていた際の出来事です。この段階では、問題を見つけて解決していくこと自体がテストの目的です。NiKoは、センサーの感覚にわずかな違和感があり、まるでマウスが少し浮いているように感じると指摘しました。最初に確認したデータ上では特に異常は見られませんでしたが、本人がその感覚に強い確信を持っていたため、さらに詳しく調査を進めました。
その結果、非常にわずかな問題を特定し、最終的にはファームウェアの修正によって解決することができました。この経験を通じて、トッププレイヤーの感覚がいかに繊細に研ぎ澄まされているかを改めて実感しました。
彼がCS2メジャーで勝った際には、ヘッドセットに「NEVER GIVE UP」の文字を刻んだカスタムモデルも作り、良い関係を築いています。
ゲームに勝てる音質は設定が命、プロ仕様のコンフィグを用意する
ーーヘッドセットの機能として、音質やノイズキャンセリングも重要な要素ですね。この辺りはプロ選手の声をどのように製品へ落とし込んでいるのでしょうか。
ジェフリー: まず音質に関しては、基本として周波数レンジやピックアップパターンなどを細かくチェックしながら調整しています。さらにプロ選手は、非常に繊細なファインチューニングを求めます。そこでNikoのようなトップ選手が好む設定をあらかじめプリセット登録しておき、アプリからプロ仕様のコンフィグを呼び出せる仕組みも用意しています。デフォルト設定だけでなく、ワールドチャンピオンが好むサウンドを反映させています。
もうひとつ重要なノイズキャンセリングに関しては、Razerのヘッドセットには「ハイブリッド・アクティブノイズキャンセリング(ANC)」が搭載されています。異なる周波数に対応した2つのマイク(フィードフォワード/フィードバック用)を配置し、背景ノイズなどプレイの支障になる不快な音に対し、逆位相の波を発生させて打ち消す仕組みです。プロ選手に様々な環境で試してもらい、不要な音をしっかりカットできるよう調整しています。
特に大会のアリーナ会場では、実況キャスターの大声や観客の歓声が飛び交います。そうしたライブ環境下でもプレイヤーが集中できるよう、ノイズキャンセリングの閾値を限界まで引き上げた仕様をRazer社内で設定していて、私たちはこれを「トーナメントグレード」と呼んでいます。また、マイク側のENC(環境ノイズキャンセリング)の閾値も高く設定し、周囲の雑音が集音マイクに乗らないよう厳密にチューニングしています。
なお、ノイズキャンセリング用のパーツを追加すると本体が重くなりがちですが、装着性を犠牲にするわけにはいきません。いかに軽量性を損なわずに、高性能なノイズキャンセリングパーツを組み込むかという点に苦労しながらこだわりました。こういったトーナメントグレードの技術力が評価され、BLAST Premierにおけるパートナーシップを結ぶことに繋がったのです。
エコシステムを広げ、ブランドへのエンゲージメントを育む
テクノロジーによる価値提供で「Razerなら勝てる」を証明したい
ーーBLASTとのパートナーシップ契約により、Razerの技術力を実証する場が広がるわけですね。
ジェフリー: その通りです。これまでもNikoやMouzといった選手・チームと協力してきましたが、BLASTはアジア・欧州・米国の主要リージョンを広くカバーしています。今回はCS2の大会プラットフォームの中でヘッドセット提供を行っていきますが、これはエコシステムやブランドへのエンゲージメントを大きく拡大する機会だと捉えています。
実は「Razerがマウスを作っていることは知っているが、高品質なヘッドセットを作っていることまでは知らなかった」という層もまだ存在します。
ぜひ今回の協業で認知を高め、「Razerなら勝てる」と製品の魅力をユーザーに知ってもらいたいですね。さらなる世界中のプレイヤーへ、Razerの優れた音声技術とエコシステムを届けていきたいです。
ーーちなみに一般のプレイヤーやストリーマー(配信者)の間では近年、「イヤホン+単体マイク(アンバンドル構成)」を使うスタイルも見られます。Razerとしてはこの流れをどのように捉えていますか?
ジェフリー: ストリーマーや動画クリエイターであれば、単体マイクを使って声質を変えたり、機材の見た目にこだわったりするメリットがあるので、良い選択肢だと思います。ただ、「大会で勝利すること」を最優先にするプロゲーマーの場合は、間違いなく一体型のゲーミングヘッドセットがベストな選択肢です。機材が細分化するとそれぞれが接続トラブルの要因になりかねず、大事な試合の前に気にするべき要素が増えてしまいます。
私自身もかつてプロ選手としてプレイしていましたが、大会で使用するヘッドセットに対しては「低遅延で、いかにクリアな音が聞こえ、味方に声を届けられるか」だけに集中したい。だからこそ現役プロの多くは、余計なことを気にしないで良い一体型ヘッドセット、その中でも「BlackShark」シリーズのような信頼性のある機材を選ぶのです。
ユーザーのライフスタイルに沿ったブランドとして、製品の魅力を育みたい
ーー本日は面白い話を聞かせていただきありがとうございました。最後に、この記事を読むASCII読者や日本のゲーマーに向けて、Razerブランドからのメッセージをお願いします。
ジェフリー: Razerは単なるゲーミングデバイスメーカーではなく、「ゲーマーを対象とした、世界随一のライフスタイルブランド」を目指しています。本日メインでお話しした「BlackShark」シリーズは競技用の「eスポーツライン」ですが、他にもRGBライティングやハプティクス機能でゲームの世界に没入できる「イマーシブライン」の製品、さらにはポケモンやロブロックス、フォートナイトといった人気IPとのコラボ製品など、ゲーミングデバイスで幅広いライフスタイル提案を行っている企業です。
私たちのミッションは「For Gamers, By Gamers(ゲーマーによる、ゲーマーのための製品作り)」。 eスポーツをブランドの根幹としつつ、あらゆるゲーマーのライフスタイルに寄り添うブランドとして進化し続けていきますので、今後の展開にご期待ください。
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