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業務を変えるkintoneユーザー事例 第339回

時間ばかりが取られる過去の商談記録を次に活かす

「その入力項目は次の売上につながるか?」 トップセールスの暗黙知まで取り込める商談記録アプリへのブラッシュアップ

2026年10月28日 09時30分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

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株式会社ベーカリーシステム研究所 営業部 渡邊拓也さん

 Excelでの過去の営業記録は1つずつ開いて探さなければならなかった。自分も含め、過去の営業記録が活かせない。kintoneを用い、商談情報を次の売上につなげられる仕組み目指した営業マンは、入力フィールドの見直しから商談記録アプリを作り上げる。

 kintone hive 2026 tokyoの6番手として登壇したのは、ベーカリーシステム研究所の渡邊拓也さん。プレゼンでは、探しにくかった過去のナレッジをアプリに置き換え、次の営業活動に活かせるアプリにまで磨き上げた課程について語られた。

kintone hive 2026 tokyoの6番手は株式会社ベーカリーシステム研究所

Excelで1件1ファイルの商談記録、開くたびに時間を奪われていた営業現場

 ベーカリーシステム研究所は、「本仕込」や「ネオバターロール」で知られるフジパングループの一員で、スーパーなどにある焼きたてパン売り場の運営を支援する会社だ。冷凍生地やミックス粉といった製パン原材料を提供するだけではなく、どんな商品を並べるか、どう売り場を作るか、生産量や人員配置をどう見直すかといったところまで踏み込み、売上や利益の改善を支えている。入社以来、営業一筋で歩んできた渡邊さんも、商品を提案するだけでなく、顧客の現場に入り込み、売り場や製造工程の課題解決まで担っている。

「厨房着を着て、粉まみれ、汗まみれになりながら現場に入り、どうすればもっと売れるか、どうすればもっとおいしいパンを作れるかという気持ちで、現場のプロセスを一緒に考えながら取り組んでいます。物を売るだけではなく、現場と一緒に課題を解決していくのが、弊社の営業の特徴かもしれません」(渡邊さん)

 こうして顧客の現場に深く入り込み、売り場や製造工程まで一緒に考える営業だからこそ、商談の中ではさまざまな情報が得られる。ところが、その情報を社内に蓄積し、後から営業活動に活かす仕組みには課題があった。

 当時、商談の内容をExcelファイルに記録していたのだ。商談1件につき1つのファイルを作成し、社内の共通掲示板に貼り付けて共有するという運用だ。日々の報告には使えるものの、過去の商談を振り返ったり、担当者が代わった際に以前のやり取りを確認したりするには、Excelファイルを1つずつ開いて探さなければならない。せっかく情報を残しても、必要なときに取り出し、次の営業活動に活かしにくい状態だった。

 そこで渡邊さんが目を付けたのが、すでに社内で広く使われていたkintoneだ。商談情報を探しやすい形で蓄積し、次の売上につなげられる仕組みにできないかと考え、営業分野の改善に自ら手を挙げた。

商談1件につき1つのExcelファイルを掲示板に貼り付けるスタイルでは、次の売上につながらない

リッチな機能を求めて泥沼にはまった開発、抜け道はSFA事例の研究とトップセールスの観察

 商談記録のkintone化自体は、Excelの項目をアプリに移すだけでテレビCMと同じようにシュシュッとできた。ところが、せっかくのkintoneならリッチな機能を入れたいと考えて進めるうちに、UIと入力したデータの活用という2点で泥沼にはまってしまう。

「商談記録を自由記入にするのではなく、レコード作成ボタンを押すと、必要な提案項目のひな形が自動で出てくるようにしたかったんです。しかし、なかなかうまくいかず、作っては消すことを繰り返していました。今だからこそ言えますが、開発時にスモールスタートしておけば、もっと簡単に気づけたと思います」(渡邊さん)

 行き詰まった渡邊さんが始めたのが、SFA事例の研究とトップセールスの観察だ。kintone hiveやCybozu DaysでSFAに関する講演を聞き、gusuku Customineを提供するアールスリーインスティテュートのサクセスミーティングでも情報交換を重ねた。その中で得たヒントが、「今入力しているフィールドは、次の売上につながるのか」という考え方だった。機能をどう作るかばかりに目を向けていた渡邊さんにとって、入力項目そのものを見直すきっかけになった。

 トップセールスに営業ノウハウを聞いても、出てくるのは言葉にしにくい勘や経験ばかりだった。そこで、商談時にうなずく回数まで細かく観察し、トップセールスが無意識にやっていることを洗い出して、アプリの入力項目に落とし込めないかと考えた。

SFA事例の研究とトップセールスの観察から、暗黙知を入力項目に落とし込む発想が生まれた

 フィールドの磨き上げと暗黙知のシステム化を経て、商談記録アプリは生まれ変わった。自由記入だった商談内容を細分化し、チェックボックスを多用することで入力の負担を抑えたほか、商談後に次に何をするかを書き込む「Next Action宣言」も追加した。

 さらに、入力した情報をその場限りの記録にしないため、gusuku Customineを使って、商談記録を保存するとデータが4つのアプリへ自動で振り分けられ、蓄積される仕組みを構築した。こうして情報を営業活動の中で動かし、次の売上につなげるエンジンにしたいという思いから、「セールスエンジン」と名付けた。

商談記録を会議資料に転用し、営業会議を「過去の報告」から「未来の宣言」の場へ

 アプリをリリースしただけでは、なかなか使ってもらえない。そうした経験を重ねてきた渡邊さんが、次に見直したのが営業会議だった。商談記録に入力した内容をそのまま会議で使い、会議自体もkintone上で進めることにした。それまでの営業会議は、結果の報告や資料の読み上げが中心で、その場で結論が出ず、持ち帰りになることも多かった。これでは、次に何をするのかという具体的な行動につながりにくい。

 そこで渡邊さんは、営業会議を「営業の未来に向けた戦略会議」と位置づけ直し、商談ごとにNext Actionを確認する形へ変えた。次の行動を決めるだけでは足りない。バイヤーが困っているからこの提案をする、現場が求めているからこの行動を取る、といった判断の根拠まで残すよう求めた。トップセールスが的確に捉えていたその視点を、営業全体で共有できるようにすることを目指した。

営業会議もkintoneアプリで実施し、商談内容にNext Actionをぶつける形に変えた

 マインドセットの面では、営業会議を過去の報告会から未来に向けた宣言の場へ変えるよう、ガイダンスで伝えた。ただ、それだけで動く人は一握りだ。そこで工夫したのがUI。それまで1人1つのExcelファイル、1人1セルに分散していた報告を、gusuku Customineの機能と関連レコードを使って、1人の営業担当者につき1枚の画面に集約した。

「こだわったのは、自分のアクションを見せびらかしたくなる画面にすることです。商談記録はリアルタイムに更新されるので、営業会議で話すときに文字がたくさん書いてある人は、それだけいろいろなことに取り組んでいる人だとわかります。自分が主役になれるような、意欲を刺激するUIにしました」(渡邊さん)

1人の営業担当者の報告が1枚の画面にまとまり、取り組みの量が一目でわかる

2023年入社の若手がデータを根拠に商品採用を勝ち取り、検索時間は1品10分に短縮

 セールスエンジンを活用する若手の事例として、渡邊さんが紹介したのが2023年入社の石川さんだ。石川さんは新商品「じゃがチュロ」を提案する際、過去の採用・不採用データから「おつまみ要素」が採用につながりやすいことを見つけ、さらに販促事例からセット販売という成功パターンを探し出した。そこで、父の日に向けて「ホットスナックセット」として販売する企画をバイヤーに提案し、採用を勝ち取った。

採用・不採用と販促事例のデータから生まれた「ホットスナックセット」の提案

 商品情報の検索時間は1品あたり10分と従来の3分の1になり、営業全体では月間約10万円相当のコスト削減につながっている。kintone上で情報交換が活発な商品は特に売上が伸びており、セールスエンジンが影響しているのではないかと渡邊さんは考えている。

Excelを1つずつ開く手間はなくなり、検索時間は1品あたり10分と従来の3分の1に短縮された

「私はセールスエンジンを推奨する立場ですが、同時に営業マンですから数字があります。数字を落としたら格好悪いので必死で、今はすごく売上を伸ばしております。生産性が上がって定時で上がれるようになり、毎日の夕飯は自分が作っています。大げさではなく、本当にkintoneにありがとうという気持ちでございます」(渡邊さん)

 渡邊さんが今後の展望に掲げたのが「AI×セールスエンジン」だ。パンの現場にはKKD、つまり勘と経験と度胸があり、最後は職人の勘が必ず入る。そこに抗っても仕方がないという前提に立ち、今この瞬間も入力されているレコードをDifyやkintone AIで磨いていく構想だ。最後に会場に投げかけたのが、現在入力しているレコードにどのような意味を持たせているか、という問いだった。

Difyとkintone AIで1件1件のレコードを磨く「AI×セールスエンジン」が今後の展望

「我々は、売上につなげ、会社のナレッジを作るものとしてレコードを定義し、アプリを作りました。定義してからアプリを作ると、精度がぐっと上がると思います。入力は面倒なものではありません。未来の自分を助ける行動です。パン屋さん風に言えば、未来へのレシピなのです」と渡邊さんは締めた。

質疑応答

セッション後、サイボウズの蒲原大輔さんから渡邊さんに質問が投げかけられた。

蒲原さん:トップセールスにとって、営業ノウハウは秘伝のたれのようなものだと思います。なぜ、ここまで教えてくれたのでしょうか。

渡邊さん:パン業界もInstagramやXの発展で非常に情報社会になり、いかに多くの情報を持つかが重要という営業スタイルになってきています。オープンにしないと会社が持たない、他社に負けてしまうというマインドが、先輩たちからあふれ出ているような気がします。kintoneの導入を後押ししてくれた先輩も、まずナレッジの共有を会社の文化にしよう、それを財産にしようという話を最初に持ってきました。

蒲原さん:営業会議を変えたいと思っても、本当にみんながアクション宣言をしてくれるのかという不安があると思います。どのようなアドバイスをされますか。

渡邊さん:我々も、まだ過去の報告から抜け出せない人がいます。ただ、1つの小さなアクションでも、まず褒めたたえます。今まで空欄だったところに1つ書いてあるといった小さな変化を見つけることで、若手やこれまで書かなかった人たちを勇気づけています。時間はかかると思っていたので、その意識で取り組んでいます。

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