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業務を変えるkintoneユーザー事例 第328回

業務改善に挑む事務局とkintoneが浸透しない社員との距離を縮める

IT用語がわからない自分だからこそ見えた 現場のIT抵抗感の正体と、それを払拭する方法

2026年10月19日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

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東急 デジタルプラットフォーム ITソリューショングループ 蕪木文香さん

 入社1年目でkintoneを中心としたデジタル業務改善を支援する組織に配属された、自称「非IT人材」は、元SEばかりのメンバーが何を話しているかもわからない中、成長も余裕も感じないと上司に相談した結果、案件リーダーを任せられることに……。そのとき、自分だからこその気付き、価値は「わからない」ことだと気付いた。

 kintone hive 2026 tokyoの5番手として登壇したのは、東急の蕪木文香さん。プレゼンでは、ITに詳しくなかった自分が体験したことを武器に、ITに抵抗感はあるが、業務改善したいという社員たちに寄り添い、アプリ開発ができるようになるまで育てていった課程について語られた。

kintone hive 2026 tokyoの5番手は東急株式会社

ルール作りとトラのキャラクターで、安全安心と「できそう」を同時に育てた

 東急は交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾート、国際を事業分野とし、東急線沿線を中心に長期視点でのまちづくりを手がける東急グループの中核企業だ。しかし、kintoneを導入する以前、社内には業務改善を妨げるいくつもの壁があった。

「実は当社は、kintone導入前に多くの課題を抱えていました。アナログ業務が多い、多忙な日常業務で業務改善まで手が回せない、そしてITに対してうっすらとした抵抗感。その課題解決の1つとして立ち上がったのが、市民開発事務局です」(蕪木さん)

 デジタル部署だけでは対応しきれないほど現場の課題が多いことも背景にあり、2025年2月に「東急グループ市民開発事務局」が立ち上がった。これはkintoneを中心としたデジタル業務改善を支援する組織で、グループ各社の社員を対象に伴走支援や教育、情報発信を担う。メンバーは現在7名で、うち5名は東急テックソリューションズからの出向者。支援実績は累計70プロジェクトを超えている。

 立ち上げ前に最も力を入れたのがガバナンスの策定だった。インフラを担う会社にとって、安全・安心は何よりも優先すべき事項。2024年8月から準備を始め、複数部門でトライアルを繰り返しながら利用ルールを整えていった。

 ポイントは、アプリの命名などを定めた独自の利用規約、事務局全員がアプリを把握して属人化を防ぐ野良アプリ防止、そして開発環境と本番環境を分けて任せる範囲を明確にすることの3つだった。

ガバナンスに注力し、安全安心な市民開発にチャレンジした

 2025年2月の社内ローンチ直後は3グループから申請が入り、体験会の参加者も10名を超えた。1ヵ月で2本のアプリがリリースされ、幸先のよいスタートに見えた。しかし、そこから社員への浸透が思うように進まなかったという。

「幸先の良いスタートに見えましたが、kintoneの簡単で使いやすそうというイメージとは裏腹に、社員への浸透は難航しました。社員は業務改善をしたいという思いはあるものの、見えてきたのは、ITに対して抵抗感を持っているということです」(蕪木さん)

 そこで始めたのが「デジタルフレンドリー活動」だった。1つは、イラストが得意なメンバーが内製したトラのキャラクター。難しそうなITの印象を少しだけ和らげ、親しみやすさを生み出した。そしてもう1つが、伴走支援の場で「とにかく褒める」というポジティブシャワーだった。

「このトラのキャラクターがいることで、難しそうという印象を少しだけ和らげることができ、親しみやすさを醸成してくれました。そして、私たちはポジティブシャワーを大事にしています。伴走支援をする際、とにかく褒めるのです。優しそう、できそうと思わせ、そしてアプリが作られるというループが回っていきます」(蕪木さん)

 事務局ではこれを「ポジティブループ」と捉えた。次第に社員から「よし、やってみようかな」という前向きな声が上がるようになったという。

内製のトラのキャラクターと、とにかく褒めるポジティブシャワーで抵抗感を和らげた

 活動が進むと、今度はフィールドの設定といった基本的な質問が事務局に集中するようになった。同じ説明を何度も繰り返す状況を減らせないか。そう考えていたところ、β版として提供が始まっていたkintone AIを知り、事務局立ち上げから半年ほどたったころ、AIを活用したeラーニングアプリの開発に乗り出した。

 完成したのが、通称「つまみ食いアプリ」だ。

「eラーニングと聞くと、どうしても重く堅苦しい印象を受けませんか? ということで、ここでもデジタルフレンドリーを意識し、気軽に見てほしいという思いから「つまみ食い」という名前を付けました。70以上の学習コンテンツを作成し、各機能別に操作方法がまとまっています。そして、検索AIもフル活用しました」(蕪木さん)

 1本あたり3分程度で学べるコンテンツを70以上用意し、機能別に操作方法を整理。検索AIも組み込んだ。

 ガバナンス策定で安全・安心な環境を作り、デジタルフレンドリーで社員の心理的なハードルを下げ、eラーニングで自学自習できる環境を整える。この3つがそろったことで、アプリのリリース数は右肩上がりになっていったという。

70以上の学習コンテンツを機能別にまとめたeラーニングアプリ「つまみ食いアプリ」

専門用語もわからないまま2ヵ月、新卒1年目の非IT人材が見つけた距離の遠さ

 そんな市民開発事務局に、2025年10月、蕪木さんが配属された。当時はまだ新卒1年目。大学時代にITを学んだ経験もなかった。

「私は非IT人材、そして当時、新卒1年目です。配属が発表された日、ノーコード、ローコード、市民開発。正直、聞いたことのない言葉ばかりで戸惑っていました」(蕪木さん)

 業務が始まると、さらに別の壁にぶつかった。相談テーマは財務や人事、不動産、メディアなど幅広く、そもそも何の話をしているのかわからない。事務局のメンバーは全員が元SEで、内部の打ち合わせでは専門用語が飛び交う。そのうえ、市民開発を推進する立場として、フィールドやレコードといったkintone独自の用語や機能も覚えなければならなかった。

「2ヵ月間、言われたままに取り組みましたが、取り組んでいるだけで成長を感じないし、余裕もない。私は上司の千野さんに『成長を感じないんです』と相談しました」(蕪木さん)

 すると、千野リーダーから返ってきたのは、予想外の答えだった。

「わかりました。では、蕪木さんに案件リーダーを任せましょう。2ヵ月間取り組んでみて、蕪木さんだからこその気づきって何かありましたか? そして、価値とは何だと思いますか?」(千野さん)

 自分だからこその気づきとは何なのか。蕪木さんは、配属からの2ヵ月間を振り返った。思い出したのは、ある打ち合わせでの光景だった。事務局メンバーがアクセス権について説明していたが、市民開発者は困惑した表情を浮かべていたのだ。

 一方、寮ではこんな相談を何度も受けていた。

「『私の部署、もっと業務改善できると思うんだよね。蕪木さん、どうにかしてくれない?』という相談をよく受けていたんです。『ああ、みんな課題感は持っているんだな。でも、この課題感は事務局には伝わっていないな』と思いました」(蕪木さん)

 2つの場面を並べてみると、共通点が見えてきた。それは、社員と事務局の距離が遠いということ。それもそのはずで、事務局メンバーは全員がSE経験者だったのだ。一方で社員は、ITに詳しくない人のほうが多い。そこで、蕪木さんは事務局と社員の距離を近づけることこそが、自分にできることなのではないかと考えるようになった。

事務局メンバーは全員がSE経験者で、社員との間には距離があった

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