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業務を変えるkintoneユーザー事例 第328回

業務改善に挑む事務局とkintoneが浸透しない社員との距離を縮める

IT用語がわからない自分だからこそ見えた 現場のIT抵抗感の正体と、それを払拭する方法

2026年10月19日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

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「レコードはExcelの1行分」と言い換える伴走支援で、3名の市民開発者が自走を始めた

 自分だからできることが見えてきた。1つは、非IT人材として初心者のつまずきポイントを把握し、解決すること。もう1つは、新卒社員ならではの同期とのつながりを活かして施策を実行することだ。

 案件リーダーとして最初に任された伴走支援先は、社員数50名規模のメディア系グループ会社だった。担当者は3名で、全員が非IT人材かつkintone初心者。不安そうな表情は、数ヵ月前の自分そのものだった。

「私は、つまずきとは何かを考えました。そして、大きく2つあると捉えました。1つ目はkintoneの専門用語、そして2つ目は情報収集の場所です。私は、それぞれに工夫をしました」(蕪木さん)

 まず取り組んだのが、専門用語を普段使っている言葉に置き換えることだった。

「kintone初心者にとって最初のハードルは、フィールドやレコードといった、普段使わない独特な用語を覚えなければならないことです。これらの用語が出てきて、市民開発者が困った表情を浮かべていたとき、私はすかさず「レコードって、Excelでいう1行分のデータのことですよ」と補足をしていきました」(蕪木さん)

 もう1つの課題である情報収集では、「つまみ食いアプリ」を積極的に紹介した。kintoneの情報はネットにはたくさんある。しかし、慣れていないと、検索・情報収集するのが大変だ。そこで、蕪木さんが注目したのは以前作った「つまみ食いアプリ」だった。機能別に操作方法がまとまっていて、AI検索をすることもできる。まさに初心者が求めているもので、支援先で紹介すると、「非常にわかりやすい」と好評だったという。

 結果として、このメディア系グループ会社では、次世代育成までできる市民開発者が3名誕生。10個のアプリが作られた。さらに、業務改善に対してもポジティブになり、今では事務局の助けなしにアプリを作成できる、自走の段階に至っているという。

支援先のメディア系グループ会社では市民開発者が3名誕生し、10個のアプリが作られた

同期のつながりから生まれた「デジタルなんでも相談会」と、年間5000時間の削減

 もう1つの武器が、新卒社員ならではの同期とのつながりだった。蕪木さんが考えたアプローチは2つ。同期がいる案件に積極的に入り込むことと、業務改善について気軽に相談できる機会を作ることだ。

「意外と業務改善の担当者は、新人や若手が任されることが多いんです。だから私は、同期がいると聞きつけた案件には、『とにかく顔を出させてください』と言って同席していました。同期は同じ寮に住んでいることもあり、相談しやすい関係性です。事務局には言えない、ちょっとした相談や本音を引き出すことができました」(蕪木さん)

 寮で生活していると、意外なことにも気づいた。業務改善したいという意欲を持つ社員は多い。しかし、「事務局に正式に相談する」となると、途端にハードルが上がるのだ。そこで作ったのが、デジタルに関することを何でも相談できる「デジタルなんでも相談会」だった。

「同期からは『そう、こういう何でも相談できる機会って欲しかったんだよね』と非常に好評でした」(蕪木さん)

 こうしたつながりを意識した取り組みから、同期の市民開発者はすでに6名誕生した。外注から内製へ切り替えたことで、コスト削減にもつながっている。kintoneを触った社員からは「もっとやってみたい」「発想が広がった」といった声も上がった。

同期と企画した「デジタルなんでも相談会」は2日間にわたって実施された

 一連の取り組みを通じて、蕪木さんが伝えたいことは3つあるという。ITに不安を抱える初心者の目線に立つこと、声を上げられずにいる人も多いため、まずは関係性のある身近な人から業務改善を広げること、そして課題に気づいたら行動に移すことだ。いずれもITの知識量そのものではなく、人と人との距離を縮めることを重視したメッセージだった。

 事務局の組成から1年半が経過し、相談数は右肩上がりで推移している。ライセンス数850の2026年7月時点で、稼働アプリ数は300以上、累計アプリ数は1000以上。業務削減時間は年間5000時間以上に達した。

 数字だけでなく、社員の反応にも変化が出ている。

「市民開発者は『業務改善を自分でできた』と自信を持っていますし、それを見ている部長からは、『みんながアプリ開発でキラキラしている』とコメントをいただきました。そして経営者からは、『良い取り組みですので、ぜひもっとやってみてほしい』と背中を押していただいております」(蕪木さん)

 振り返れば、ITの専門知識を持っていなかったことは、蕪木さんにとって不安の種だった。しかし、それまで弱みだと思っていた「わからない」という感覚が、市民開発者のつまずきを見つけ、事務局との距離を縮めるための武器になった。

「私たちは、従業員が目の前の業務にとらわれず、業務改善によって余白を作り、もっと新しいことに挑戦する、充実した従業員ライフを実現させたいと思っています」と蕪木さんは締めた。

稼働アプリ数は300以上、業務削減時間は年間5000時間以上になった

質疑応答

セッション後、サイボウズの蒲原大輔さんから蕪木さんに質問が投げかけられた。

蒲原さん:初めて支援した先で、次世代育成ができるレベルの市民開発者が3人誕生したとお聞きしました。最初のつまずきを回避した後、自走するレベルまで持っていくには、どんなアプローチをされたんですか。

蕪木さん:とにかく寄り添う姿勢が大事かなと思います。「こういうことをもっとできないですか?」と相談されたときに、とにかく優しく寄り添ってあげる。やっぱり、とことん伴走していくと、次第に手が離れていって、自走することができるんだろうなと思います。

蒲原さん:もう1つ面白いなと思ったのが、つまみ食いアプリです。kintoneにはウェブサイトやFAQなど、インターネット上にも情報がありますが、あえて東急さんのkintone環境上にアプリとして作ったのは、どういった狙いやメリットがあったのでしょうか。

蕪木さん:皆さんkintoneのスペースに入られるので、その延長線上でつまみ食いアプリを開いて見るというのは、操作としても簡単ですし、わざわざ別のウェブサイトを開かなくても学習ができます。一覧で操作方法がまとまっているところは、使いやすいのかなと私たち目線では思い、作成しました。

蒲原さん:蕪木さんご自身が最初、どう貢献したらいいんだろうかとモヤモヤしている中で、いきなり案件リーダーをやるというのは、結構ハードルが高いと思います。そこはどんなふうに受け止めて、どう乗り越えていったんですか。

蕪木さん:私自身、少し負荷を与えられるとやる気が出るタイプでもあったので。正直、戸惑いもありましたし、自分自身がそもそもkintoneを使いこなせていないのに、伴走できるのかなと不安になりましたが、周りのメンバーが支えてくれて、何とかできました。

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