日本オーディオ協会は4月13日、国内最大級のオーディオとホームシアターの祭典「OTOTEN 2026」の開催概要発表会を開催した。来年2027年に設立75周年という大きな節目を控える同協会が、変化する時代のなかでどのような未来を描こうとしているのか。その熱意を感じさせる発表会の模様をレポートする。
「OTOTEN 2026」は3日開催に、初のプレミアムデーも
今年の「OTOTEN 2026」は、2026年6月19日(金)から21日(日)までの3日間、東京国際フォーラムのガラス棟およびB棟で開催される。大きなトピックスと言えるのは、開催期間の拡大と一部有料制の導入である。
これまでのOTOTENは全日程・無料が通例であったが、新たに「プレミアムデー」が設定される。これは、初日(6月19日の13時〜)に用意された、入場料1100円(税込・人数限定)のプレミアム入場枠である(来場登録)。なお、20日と21日の2日間は、従来通り事前登録制による無料公開となる。

専務理事の末永信一氏によれば、近年のOTOTENは来場者が急増しており、2025年には8650人を記録。2026年は1万人を超える動員が見込まれている。一方で、「部屋に入れない」「落ち着いて試聴できない」といった課題も浮き彫りになっており、こうした来場者の要望に応える形で用意した枠になっているそうだ。
海外の展示会では1日3000円程度の入場料を払って熱心なファンが集まるスタイルが定着していることもあり、日本でも「満足度の高い視聴環境」を価値として提供するための挑戦に踏み切った格好だ。
プレミアムデーではOTOTENならではの“音体験”をより深く楽しめる特別イベントとして、ジャズシンガー「情家みえ」さんによるライブ演奏とトーク、「凛として時雨」のドラマー「ピエール中野」さんによるドラムス演奏を交えたトークの2つのイベントも楽しめる。
今年の出展社数は78社を予定しており、これは末永氏の知る限りで最大規模であるという。 本格的なハイエンドオーディオから、カーオーディオ、イヤホン・ヘッドホン、さらにはマイクやモニタースピーカーといった制作現場の機材まで、音に関わるあらゆるカテゴリーが集結する。
「感動の領域は譲れない」と小川理子会長
オーディオ文化の原点回帰を
日本オーディオ協会の小川理子会長による挨拶では、1952年の協会設立から続くビジョンの継承と、AI時代におけるオーディオの存在意義について、強い決意が語られた。
小川会長は、自身のキャリアの原点が1986年、アナログからデジタルへの大転換期にオーディオ業界へ飛び込んだことにあると振り返る。 当時の全日本オーディオフェア(OTOTENの前身)で、新製品の音に目を輝かせ、笑顔になる観客の姿を目の当たりにした経験が、今の活動の原動力になっているという。 「良い音で音楽を楽しむことが、人生に幸せをもたらす」という確信が、協会の歩みの根底にある。
現代はAIが音楽を作り、音を整えることが容易になった時代だ。 効率や「タイムパフォーマンス」が優先され、音楽が消費対象となるなかで、小川会長はあえて問いを投げかける。
「情報の処理はAIに任せられても、感動の領域は譲れない」
音楽とは、アーティストが人生をかけて絞り出したエネルギーであり、エンジニアが魂を削って調整した執念の結晶である。 オーディオ製品は単なる装置ではなく、その「魂」を伝えるための媒体でなければならない。 小川会長は、VTuberなどの新しいカルチャーを取り入れることで、10代・20代の若者がスピーカーの前で感動に震える光景が増えていることに触れ、こうした「本物の感動」を次世代へ、そしてこれまでオーディオに触れる機会の少なかった女性層へも広げていく変革の必要性を強調した。
75周年に向けた「FUTURE JAM」プロジェクト
次世代ファンの育成にも取り組む。来年2027年に迎える設立75周年に向けて、協会は「FUTURE JAM」プロジェクトを始動させる。 これは、単なる記念行事にとどまらず、100周年に向けてサステナブルなオーディオ文化を醸成するための育成事業である。
具体的には、以下のようなアプローチが示された。
幼少期へのアプローチ: スピーカーなどの工作教室などを通じて、自分で作ったものから音が出る不思議さや喜びを体験してもらう。 また、本格的なスピーカーでの試聴体験を併設することで、同伴する母親層にもオーディオの魅力を伝える。
青年期へのアプローチ: バンド活動などを行う多感な世代に対し、録音や作品制作をサポートする文化を推奨する。 自分の演奏が素晴らしい音で再現される喜びを知ってもらうことが、オーディオへの興味に繋がる。
「Rec ST」との連携: 10年以上継続している学生録音作品コンテスト「Rec ST」の受賞者たちとも連携しながら、次世代のクリエイターやリスナーを支援するサイクルを作る。
また、従来の「メーカーが用意した曲を聴く」スタイルではなく、ユーザーが日頃親しんでいる「好きな曲」でオーディオを体感できる試聴会も定期的に開催している。若者に限定することなく、アクティブシニアなどより上の世代も考慮し、よりライフスタイルに沿い、パーソナルで身近なオーディオ体験を提案していくという。
新インフルエンサーの安野希世乃登壇のトークショーも
発表会の後半には、「OTOTEN 2026」のアンバサダーに就任した声優・アーティストの安野希世乃さんが登壇し、小川会長とのトークセッションが行われた。 安野さんは昨年に続きアンバサダーを務めるVTuberのAZKiさんとともに、既存のオーディオファン以外の層へ魅力を伝える役割を担う。
セッションでは、プロの声優ならではの「音」への鋭い感性が光った。 安野氏は、日々の仕事でマイクやイヤモニ(イヤーモニター)を日常的に使用しており、また、スタジオにおいてはエンジニアとのやり取りの中で「今日はしっとり瑞々しく」「ハスキー成分を活かして」といった、音のニュアンスを言葉で伝えながら、作品作りに取り組んでいる。演者やアーティストからの主観的で微妙なニュアンスの要望を音として仕上げていく、エンジニアの手腕に驚く機会も多いと語った。
興味深かったのは、歌唱においても「演じ分け」の意識を持っていると語っていた点。楽曲ごとに「20代中盤で失恋した直後の女の子」といったキャラクターを構築し、年齢感や性格に合わせて声の色を変えていくという。これに対し小川会長は、「オーディオ機器を評価する際、ボーカルの再現性を分析的に聴くが、まさにその表現の機微をどう伝えるかがオーディオの醍醐味である」と応じた。
安野氏は「自分はプロフェッショナルな立場ではなく、1人の来場者としてワクワクしながらOTOTENを楽しみたい」と謙虚に語りつつも、メーカーの技術者から直接「製品や技術のホットな技術」を引き出したいと意欲を見せた。
小川会長が目指す「男性偏重の払拭」や「家族の幸せの真ん中にあるオーディオ」という姿に対し、安野氏のような発信力のあるアーティストが加わることは、大きな追い風となるだろう。 21日には安野氏のトークショーも予定されている。アニメや声優ファンが「推しの声」の真の魅力を知るためにハイエンドオーディオに触れる、という新たな導線が生まれるきっかけになりそうだ。
発表会全体を通して印象に残ったのは「音の情報処理はAIでもできるが、感動は人間にしか享受できない」という小川会長の言葉だ。
技術革新の波に洗われる現代のオーディオ業界において、非常に重い意味を持つ。OTOTENは、VTuberのAZKiさんをアンバサダーに起用して以来、40歳未満の参加が急激に伸びており、年齢の高い男性中心だった来場者層のバランスが年代を問わず均等になりつつあるという。
また、発表会では参加を予定している各社の製品の展示も実施されていた。
OTOTENはいわゆるハイエンドのオーディオを体験するだけのイベントではなく、クリエイターやアーティスト、制作者との出会いも考慮された内容になっている。今年はプレミアムデーの導入や多彩なアンバサダーの起用を通じて、より深い体験を得られる「人間力を磨く感動体験の場」へと進化することを期待したい。
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