登場からすでに30年
今でも中国のゲーマーはKOF97を愛している
中国では、SNKが1997年にリリースした対戦格闘ゲーム「KOF97(The King of Fighters 97)」の人気が今も続いている。KOFは「拳皇」という名で中国では呼ばれており、中国のSNSを見るといまだファンによる関連投稿がされている。
最近ではフィジカルAIの中国企業が、KOF97のオープニング動画を真似た動画を公開した例も。最新のヒューマノイド製品に30年前のそれはミスマッチにも思えるが、中国ではそれくらいの共通言語なのだ。
近年では中国発のフィットネスアプリ「KEEP」が、KOF97コラボでボクシング体験サービスをリリース。さらに非公認のエリアではさまざまな店舗やイベントで、昔を回顧することを目的にKOF97が稼働するゲーム筐体を置いていた。
中国の老舗SNS「百度貼吧」のKOF97フォーラムには、今もフォロワーが増え続け、その数40万、総投稿数1700万を記録する息の長すぎるコンテンツとなっている。モバイルアプリではSNK公認という「拳皇97 真人対戦」や「KOF97 OL」といったタイトルがリリースされ、中国で今もひっそりと人気を博している。ビリビリや抖音では「90年代アーケードの思い出」「KOF97連携技完全解説」などの動画が数千万回クラスで再生されている。
対戦型格闘ゲーム全盛期に登場したKOF97
日本での評価は他のナンバリングタイトルに比べると正直微妙
もう30年前のリリースなので、そもそも読者の中には生まれる前の話という人もいるかもしれない。そこで当時の状況について振り返りたい。日本では90年代に対戦型格闘ゲーム全盛期を迎え、「ストリートファイターII」で知られるカプコン製品と「KOF」で知られるSNKを始め、各社からタイトルが登場し、ゲームセンターでは見知らぬゲーマー同士がコインを投入しては対戦していた。
日本でKOFシリーズの最高峰と言われるのが対戦バランスの優れた98年リリースの「KOF98」で今も根強くファンの間で遊ばれている。一方その前作となるKOF97は、対戦バランスは悪く、バグもあり技は暴発しやすく、日本での評価は正直微妙。にも関わらず中国ではKOF97が人気なのだ。
その背景には香港・台湾経由での海賊版の流入がある。中国のアーケード筐体のコンパネの品質はよくなく、メンテナンスもされてないものが多かったが、それでもKOF97はガチャガチャ操作していれば技が暴発するのが、逆に初心者でも楽しく、ファンを増やした。
筆者自身もゲームセンターで多くの台で遊ぶプレーヤーを見たし、街の有名なゲームセンターによっては日本のようにギャラリー(観客)を集めていたのを見た。中国全土でKOF97が人気である一方、所得の高い上海や北京ではバランスがいいKOF98を導入するゲームセンターもあり、遊ぶ層も一定数いたがKOF97には及ばなかった。
上海で毎年開催される中国最大級のゲームの展示会Chinajoyをはじめとしたイベントでは、八神庵をはじめとしたKOFシリーズのキャラクターを演じるコスプレイヤーが多くいたのを見た。スト2のコスプレーヤーよりもKOFシリーズは圧倒的に多く、キャラクターの個性が中国人に刺さった。
主人公格の草薙京や八神庵の不良的なデザインが、若者の黒社会を描いた当時の香港映画「古惑仔(Young and Dangerous)」と似ていて闘って気持ちが良かったという意見や、KOF97のストーリーが良かったという意見はよく見た。そうした部分でもKOFは中国人に愛された。
インターネット環境はまだまだ遅れていた2000年前後の中国
口伝で攻略法が広まっていった
2000年前後の中国のインターネット普及は日本と比べて遅れていて、利用するにしてもネットカフェや学校のパソコン室がせいぜいだったのだ。そこで当時のプレーヤーは手書きの「コンボマニュアル」や「この組み合わせがいい」という同人誌が作り、また各都市にネットではなく“口伝”として伝えられていた。
中国のサブカルは昔からグループ内で先人が後輩に教える文化があり、ゲームセンターでも同様にプレイが広まったわけだ。また中国各地で楽しく遊ぶためのハメ技禁止などのローカルルールが誕生した。このあたりは検索するとでてくるし、かなりテクニカルな話なので本記事では言及しない。ちなみに広い中国で口伝で広まったゲーム攻略法としては、ファミコンの魂斗羅の攻略法や裏技もあり、KOFに限らない。
中国はその後に経済発展をしていき、所得が向上し、生活様式が改善していく。するとコインを投入して遊ぶスタイルはやがて古く貧乏くさく感じられるようになり、ゲーマーのヒエラルキーの中でもアーケードゲームはゲーム機よりもオンラインゲームよりも下の扱いになっていく。
とはいえ遊び続けたい人はいるもので、00年代になるとゲームセンターに変わってインターネットカフェが普及し、パソコン所有者が増えてくると、パソコン(エミュレーター)で海賊版KOF97を遊ぶ人が増えていった。電脳街のパソコンショップに行けば、ヒマを持て余した店員が展示機のキーボードで操作してKOF97を遊んでいるのを当時はよく見かけた。
動画配信サイトで「青春の思い出」としてリバイバル
今も他IPとのコラボが活発
減少が続くゲームセンターでもKOF97が遊ばれ続け、対戦格闘ゲームファンが別のゲームで遊ぼうとしなかった。さすがに2010年代になると、現在も稼働する上海のレトロゲームセンター「烈火遊戯机厅(LIEHUO Game Center)」などの例外を除けば、いい加減飽きられそうなものだが、「闘魚」などのゲーム向けライブ動画配信サービスが立ち上がり、ビリビリでも配信されることにより、懐かしさとともに上級プレーヤーが対戦し、再び人気が息を吹き返す。
さまざまな大会が開催され、昔遊んだプレーヤーが対戦し、画面では字幕とともに応援投稿が飛び交い、往年のように盛り上がった。さらにスマートフォンがでてくると、SNK公認の中国製ベルトスクロールアクションゲーム「KOF97 OL」が登場。それもまた思い出をくすぐる内容で中国でファンがプレイした。
2020年代になると中国企業はIPビジネスを重視するようになり、異業種のIPコラボを日常的に見るようになった。その中でKOF97が再び掘り起こされ、コラボ商品が誕生し、多くの人に刺さっている。生成AIが普及すればそこでもKOF97を再現した。
海賊版から始まったKOF97の文化は、それこそが最高の体験とばかりに他のゲームタイトルに行かなかったために、中国ITの様々なトレンドや新技術で息を吹き替えした。現在は「中年中国人の青春の記憶」となり、エモくてビジネスになるIPと変化しているわけだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)、「移民時代の異国飯」(星海社新書)などを執筆。最新著作は「異国飯100倍お楽しみマニュアル ご近所で世界に出会う本」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

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