「行政コストの削減」と「公共サービスの向上」を両立させるという難題
行政DXを超え、デジタルで市民の力を引き出す“地域社会DX”へ 兵庫県豊岡市の挑戦
2026年02月25日 09時00分更新
91の公共施設の予約をオンライン化、キャッシュレス決済や鍵管理の電子化も
オンライン化のひとつとして、2025年2月からは公共施設のオンライン予約申請もスタートした。現在は、コミュニティセンター、体育館、テニスコート、社会福祉施設など、91の公共施設が予約可能だ。そのうちの60施設では、スマートロックを採用して鍵の管理(利用者への受け渡し)もオンライン化しており、予約者にはメールで鍵となるURLを発行している。
出水氏は、都市部に比べて豊岡市には民間施設が少なく、人が集まる施設、体を動かす施設の公共依存度が高い一方で、「公共施設の使い勝手が悪い」課題があったと説明する。たとえば、施設の空き状況を知るには管理事務所が開いている時間に電話をするか施設に出向くかしかない、夜間や休日に利用するには事前に鍵を借りに行き、後日また返却に訪れなければならない――といった具合で、特に働く世代にとっては利用しづらい状況だった。
そこで豊岡市では、公共施設予約や鍵管理のオンライン化を実現するために、スペースマーケットの公共施設予約管理システム「Spacepad」と、Photosynth(フォトシンス)のスマートロック「Akerun入退室管理システム」を採用した(関連記事:面倒な公共施設の予約をスマートに! 兵庫県豊岡市がオンライン予約・施解錠システム導入)。
「各社の提案を選定する中で、Spacepadのインタフェースが使いやすい点、それからAkerunが多様な扉に対応できる点が評価されました。また、市の公共施設にはサムターン錠(レバーを回して施開錠する錠)や自動ドアが混在していますが、そのすべてに予算内で対応できるものはSpacepad+Akerunだけでした」
もっとも、施設管理者も施設利用者も高齢者が多く、予約や鍵のデジタル化に不安を感じる人も少なくなかった。そこで、運用開始前には「導入説明会」を何度も開き、現場の不安を解消していった。
運用開始後も、引き続き対面/紙による従来の予約方式を併用しているが、「高齢者の方もオンライン予約を積極的に使われていて、オンライン予約の比率がすでに60%を超えています」という。施設管理者側でも、予約管理がオンラインになり物理鍵の受け渡しもなくなって仕事が軽減されたこと、利用者の入退出状況がオンラインで確認できたり、利用者が鍵を閉め忘れてもオートロックがかかったりするのでセキュリティも強化されたことなどが評価されているという。
「個人的な話ですが、わたし自身も家族で体育館を利用する機会が増えました。これまでは、天気が悪い日に子どもをどこで遊ばせようかと迷うことがあったのですが、オンラインで空き状況がすぐ分かるようになったので、子どもに『体育館に遊びに行こうか!』と。市民の皆さんのそういう発見につながればいいな、という思いはあります」
豊岡市の第5次大綱では「すべての職員にとって働きがいのある市役所」づくりも目標に掲げている。2023年度から活動する「X-meeting」は、市役所の働き方、業務のやり方を革新し、浸透させるための、若手職員中心の組織だ。庁内アンケートで寄せられた職員の声から課題を抽出し、その解決に向けた挑戦を行っている。
出水氏は、部局横断型でメンバーが構成されているX-meetingの存在は、行政DXを市庁全体に浸透させていくうえでも役立っていると話した。“縦割り行政”の打破は、行政DXの推進においても重要であるようだ。
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文中で触れたとおり、豊岡市におけるDXの推進は、「行政コスト削減」を実現しながら「公共サービスの向上」も同時に進めるという、簡単ではない取り組みである。出水氏も、公共施設予約のオンライン化を例にとりながら、「これは市民が便利になるので導入したいと思っても、その導入で市のコストが減る見通しを示さないと、なかなか導入にこぎ着けられない」と、難しい実情を語った。同じ悩みを抱える自治体は多いだろう。
しかし、ここで出水氏は「市民側のコスト」に着目し、説得したという。
「公共施設を予約して利用するために、市民は2往復も3往復もしなければならない。そこでは交通費や拘束時間というコストがかかっています。その“市民側のコスト”についてもっと考えてもいいのではと訴え、理解してもらいました」
自治体のDXが組織の内から外へ、行政DXから市民参加型の地域社会DXへと拡大していく中で、このキーワードはさらに重要になっていくだろう。まだまだチャレンジ段階にある豊岡市の取り組みが今後どんな成果を生むのか、期待したい。













