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「行政コストの削減」と「公共サービスの向上」を両立させるという難題

行政DXを超え、デジタルで市民の力を引き出す“地域社会DX”へ 兵庫県豊岡市の挑戦

2026年02月25日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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デジタル活用で市民の力を引き出す、さまざまなアプローチ

 市民参加型で地域課題の解決を図る取り組みは、すでにさまざまなかたちでスタートしている。

 2025年11月にスタートした「シビックとよおか」は、“デジタルを活用した市民参加型合意形成プラットフォーム”と位置付けられている。市民がオンラインで市政運営に対するさまざまな意見を投稿/閲覧でき、市庁側ではそれをまとめて分析できる。たとえば、同市では現在、試験的に開庁時間の短縮を行っているが、その取り組みに対する市民からの意見募集も行っている。

オンラインプラットフォームを通じて市民の意見を聞く取り組み

 もうひとつの例は、地域住民の力を借りて宅配荷物を届ける「宅配ドローン」の実証実験だ(2025年11~12月実施)(関連記事:日本郵便、最大積載量がアップした物流専用ドローンで配送開始)

 これから人口減少が進むと、宅配事業者がすべての荷物を個人宅まで配送することが難しくなることが想定される。そこで、事業者の拠点から地域の公民館やコミュニティセンターなどへドローンで荷物を届け、その先の個人宅への配送は各地域の有志住民が担うという、新たな物流モデルを検討している。

 「持続可能な物流モデルを作ることに加えて、顔見知りの方が荷物を運ぶついでに体調を確認する、会話の相手になるなど、心と体の健康維持にもつながるのではないか。そうした点も含めた実証実験です」

“ラストワンマイル”を地域住民が支援する新たな宅配モデルを検討

 豊岡市にある財務資本、人的/知的な資本、関係資本、さらには自然資本と、さまざまな資本(リソース)を掘り起こし、有効活用していくことも不可欠だ。出水氏は、豊岡スマートコミュニティ推進機構(TSC)での取り組みを紹介した。

 TSCは、豊岡市と外部機関が連携して、デジタルを活用したスマートコミュニティをつくり出すプラットフォームと位置付けられている。トヨタ・モビリティ基金と豊岡市が2020年度に設立し、2024年度からは地元地銀の但馬信用金庫と豊岡市が運営主体となっている。

 TSCの活動は“2階建て”になっている。まず入り口の“1階”では、多様な人が集まる「みんな×エール」というイベントを開催し、共助を目的としたプロジェクトについて議論と交流を図る。そして、ここから生まれた有望なプロジェクトは“2階”へと進み、新たな市民活動/行政サービス/事業活動として社会実装が進むよう支援を行っている。

豊岡スマートコミュニティ推進機構(TSC)が定期開催する、住民参加型の共創の取り組み「みんな×エール」

 ここから社会実装に発展した事例として、福祉モビリティがある(実証実験を継続中)。移動手段を持たない高齢者が買い物や通院で出かけたいとき、デイサービス送迎車両の空き座席に同乗できる「ちょいのり」サービスだ。利用希望者と送迎車両のマッチングはデジタルで行う。

 人口の減少でバスなど公共交通の維持が難しくなる中、事業者側の人員/コスト負荷を低減させつつ、市民に安価な移動手段を提供できる。高齢者を対象とした実証実験では「外出意欲が高まった」という成果も得られている。

 そのほかにも、子育て中の市民が公園や飲食店、トイレ、地域イベントなどの情報を入力し、共有できる「Toyooka iDO(トヨオカ アイドゥ)」アプリ、市内小学生向けにデータを活用した「交通安全教室」などを展開している。

デイサービスの送迎車両を移動手段としてシェアするモデルの実証

高齢者の買い物や通院などに利用されている(画像出典:豊岡スマートコミュニティ推進機構

 市民参加型で公共サービスを創造し、担い手にもなってもらう取り組みは始まったばかりだ。そしてさまざまな地域課題を、市民が「自分事」として捉えるような意識を高めるのは簡単ではない。出水氏も、たとえば対面イベントへの参加者が少なければオンラインの場(シビックとよおか)を用意するなど「そのやり方を模索している段階です」と率直に語る。

「デジタル社会を前提とした市役所へ」行政DXも推進中

 ここまで説明してきた「地域DX」の一方で、持続可能な公共サービスを実現するには、市庁内の業務を変革する「行政DX」も引き続き重要だ。第5次大綱では、5つの柱の1つに「デジタル社会を前提とした市役所」づくりも挙げている。

 出水氏によると、豊岡市では2021年ごろから行政DXの推進を本格化させてきた。具体的な取り組みとしては、「kintone」を採用したノーコード業務アプリ開発、AI-OCRによる補助金交付事務の省力化、AI-OCR+RPAによる申請書類の電子化/システム自動入力、議事録等のAI文字起こしによる省力化などがある。

市庁内の行政DXの取り組みは2021年ごろから本格化

 市民や事業者の各種手続き(申請/届け出/報告手続き)のオンライン化も進めている。2025年度末までには手続き全体の3割強をオンライン化し、将来的には「2028年度末までに100%オンライン化」を目指す。

 「もちろん、すべての方がオンライン申請できるわけではないので、できる方にはオンラインでお願いしつつ、紙でもこれまでどおり対応する方針で進めています。申請を受け付ける側の担当課にも、ほかの課で生まれた成功事例も共有しながら業務が楽になることを説明して、無理強いはしないかたちで進めています」

2028年度末の「オンライン化100%」を目指している

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