このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点 第4回

日本におけるスタートアップの発展に向け、起業家とそれを取り巻く環境、知識や意識を強化する「Startup Business School」のインパクト

2026年03月05日 17時00分更新

文● ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 プラットフォーム学では、プラットフォームを「様々なアプリケーションが依存・共存する基盤」と定義している。基礎研究(シーズ)から短期間の成長とネットワーク効果の最大化を目指すスタートアップ企業は、産業において「必要とされる要素技術を生み出す源泉」という側面を持っている。

 同時にアカデミズムの知見を社会実装につなげるという観点でも注目すべき役割を担い、様々な立場の人々が集い、課題解決の規模と速度を早めるためのシステムともみなすことができる。

FoundersNation株式会社 代表取締役CEOの名倉 勝氏

 京都大学 プラットフォーム学卓越大学院プログラムで2026年1月に開催された「スタートアップとプラットフォーム」と題した学生向けのイベントでは、一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事の藤本あゆみ氏が登壇。スタートアップビジネスの現在地点が語られるとともに、(特に日本の)スタートアップの周辺にある多くの課題の指摘もあった。

 この春に開講する「Startup Business School(スタートアップビジネススクール)」はそんな課題に応えるため、海外の手法を取り入れながら、グローバル水準でスタートアップと支援者がともに学び、共に成長する共創型の教育プログラムだ。Startup Business Schoolを主催するFoundersNation株式会社の代表取締役CEOで、一般社団法人スタートアップエコシステム協会の副代表理事も勤めている名倉 勝氏にお話を伺った。

スタートアップの成長は、様々な立場を持つ人の相互作用によって成り立つ

 前述のイベントでも説明されたが、スタートアップのイノベーションが機能し、加速していくためには、単一の制度や組織に閉じず、複数の主体が相互に関係し合う構造が求められる。ステークホルダーとして具体的に考えられるのは、起業家、投資家、教育・研究機関、事業会社、行政機関などで、その関係性(特に資金や知財などの循環)はMIT(マサチューセッツ工科大学)在学時に携わったMIT REAP(Regional Entrepreneurship Acceleration Program)が提唱する「Innovation Ecosystem Stakeholder Model」においてシンプルに整理されている。成長を加速し、事業として継続していくためにはそれぞれの立場で取り組むべき課題があると名倉氏は指摘する。

MIT REAP(Regional Entrepreneurship Acceleration Program)が提示する「Innovation Ecosystem Stakeholder Model」

 例えば、起業家は単なる数の増加だけでなく、グローバルで勝てる「質」の向上が求められている。ディープテック領域では資金調達の多寡が研究開発の進展に与える影響が大きく、日米の資金規模の差が、成長スピードの差に直結しているとする。

 教育・研究機関は、知識を育み、人材を輩出する源泉ではあるものの、研究成果の知財化・国際出願や、グローバルで活躍できるビジネス人材の育成など、成果や人材をエコシステムへと送り出す機能がまだ不十分だ。

 事業会社はスタートアップ企業の顧客になるという側面があり、事業を継続するための資金や技術を活用するためのインフラを供給する役割を担う。しかしながら、日本の大大企業は意思決定に時間がかかることが多く、スタートアップが売上を得るために必要な「顧客としての機能」が日本では果たせないことも多い。これが成長を阻む要因になる。

 また、日本では行政機関によるスタートアップ向けの資金供給は進んでいるが、重点的な投資が苦手で資金を「薄く広く」配分してしまう傾向がある。政府主導の支援体制などにはまだ改善の余地がある状況だ。

 日本でスタートアップが根付いていくためには、こうした課題に対して個別の対応をしていくことが必要だ。エコシステム全体の機能向上を図っていくことが求められている。

高度なステークホルダーモデル

エコシステムという言葉の落とし穴

 スタートアップの健全な成長に対して、こうしたエコシステムが重要であることは日本でも少しずつ認知されつつある状況だ。しかしながら、ひとくちにエコシステムと言っても、ITやAI、バイオテックなど業種や分野が変われば、顧客構造や資金の流れ、エグジット形態などが大きく異なってくる。一括りにして語ると議論が噛み合わなくなるといった課題もある。

 また、特定の分野のみで完結するエコシステムは人材や資金の集中的な投入が可能になるため、一見効率的にも見えるが、資金や人材の流入を狭めてしまうリスクも持つ。特定の領域で突破力のあるプレーヤーがいる一方で、分野横断であるからこそ機能する投資家や支援者もいるため、日本全体あるいはグローバルな視点から俯瞰的に見る姿勢も求められる。各主体の役割や、その目的を見据えながら、それらがどのように作用し、どこにボトルネックが生じるのかを可視化していくことも必要だ。

 エコシステムは固定された設計物ではなく、各主体の活動によって常に更新され続ける構造である。名倉氏は「スタートアップそのものだけでなく、それを取り巻く環境全体をどう理解し、どう機能させていくかを考える視点が求められる」と語っていた。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事
  • 角川アスキー総合研究所

MSIが変える、未来のクリエイターを育てる教育環境

アスキー・ビジネスセレクション

ピックアップ