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柳谷智宣のkintoneマスターへの道 第119回

自治体の給付金業務が滞るのを事前審査自動化で救う トヨクモクラウドコネクトの申請補助AI

2026年02月19日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 日本の自治体は今、ピンチに陥っている。少子高齢化で職員は減る一方なのに、定額減税や物価高騰対策給付金といった突発的な業務が容赦なく降りかかってくるからだ。現場のキャパシティは限界寸前。さらには高市早苗首相も大規模な給付金を検討中という。このリソース枯渇の危機に対応すべく、2026年1月、トヨクモクラウドコネクト(TCC)は自治体向け審査業務支援ソリューション「申請補助AI」をリリースした。今回は「申請補助AI」について解説する。

1月6日、トヨクモクラウドコネクトがリリースした「申請補助AI」

トヨクモ製品だけでは解決できない現場の課題に特化して開発された申請補助AIの狙い

 まずは、開発元であるTCCの立ち位置について触れておきたい。TCCは、FormBridgeやkViewerといったkintone連携サービスで圧倒的なシェアを持つトヨクモ株式会社の子会社として2023年に設立された。親会社のトヨクモが汎用的な製品開発に注力する一方で、TCCはより現場に踏み込んだ役割を担っている。

 その設立目的は、自治体や大企業の「個別の事情」に深く切り込むこと。単にツールを売るだけでなく、kintoneを核としたパッケージシステムの構築や、時には業務そのものを請け負うBPO(BPaaS)まで手掛ける。今回の「申請補助AI」も、トヨクモ製品だけでは解決しきれなかった課題を拾い上げ、現場の悲鳴に近いニーズを汲み取り、ソリューションとして形にしたものだ。

 給付金業務で職員を大きく疲労させるのが、申請内容の審査プロセスだ。オンライン申請になっても、裏側ではモニター上の画像と入力データを目視で突き合わせるアナログ作業が続いている。画像がボヤけていたり、入力ミスがあったりすれば、職員は電話やメールで連絡し、再申請を促す。そして再申請データにまた不備があれば、再び連絡……。この不備修正のラリーこそが、給付遅延と長時間労働の元凶だった。申請補助AIは、このプロセスの「事前審査」を自動化する。

「私たちが提供している「申請補助AI」は、最終的な合否判定をAIが行うわけではありません。あくまで「事前審査」として、必要な資料が揃っているか、入力された住所や氏名が証明書と合致しているかといった基本情報の確認をAIが担当します。もし不備があれば、AIが自動でメール返信を行い、住民の方に再提出を促します。そして、全ての情報が正しく揃ったとAIが判断したものだけが、人間の職員に回ってくる仕組みです。これにより、職員は形式的なチェック業務から解放され、本来の審査業務に注力できるようになります」とTCC 代表取締役社長の田里友彦氏。

トヨクモクラウドコネクト 代表取締役社長 田里友彦氏

 一般的に、住民の多くは平日の昼間は忙しく、申請作業は夜間や土日に行われるケースが多い。福岡県須恵町の実証実験では、申請の約64%が夜間や休日の閉庁時間帯に行われていたという。

 従来ならこれらは週明けの「未処理の山」になっていたはずだ。さらに、そこから職員が内容を確認して「書類が足りない」と返すまでに数日がかかる。このやり取りを人間が何度も行うと、給付までに膨大な時間がかかってしまうのだ。

 この「事前審査」を24時間365日リアルタイムで働いてくれるAIに任せることで、職員が出勤したときには、すでに形式チェックと修正が済んだ「きれいなデータ」だけが並んでいる状態になる。住民にとっては「夜中に申請したのにすぐ手続きが進んだ」という神対応になり、職員にとっては「月曜の朝の憂鬱」が解消される。まさにWin-Winの関係と言える。

須恵町での共同実証実験のレポートが公開されている

 自治体がAIを導入する際に気にするのが、セキュリティとコストだ。「入力した個人情報をAIが勝手に学習して、どこかで漏洩するのでは?」という不安は根強い。そこで、本サービスでは、ユーザーが入力したデータは一切学習に使わず、解析が終わった瞬間にメモリ上から破棄する「使い捨て」運用を徹底している。これなら情報漏洩のリスクも軽減されるだろう。

 判定精度も文句なしだ。実証実験では本人確認書類で97.7%、口座情報確認で98.4%という、熟練職員の目視と変わらない、むしろそれ以上の精度を記録した。

 そして価格もお手頃。これだけのシステムをスクラッチ開発すれば数千万円はかかってしまいそうだが、「申請補助AI」はなんと月額10万円台から提供するという。非常勤職員1人を雇うコストの半分以下で、24時間文句も言わずに働くAIが手に入るのだ。kintone環境にアドオンする形なので導入も早く、緊急性の高い給付金事業にも即対応可能。限られた予算にも寄り添ってくれるのはありがたい。

実際の画面で見る申請からAIによる不備判定までの具体的なワークフロー

 では実際に「申請補助AI」の画面を触りながら、その使い勝手をレビューしていこう。まずは、給付金の場合は送付されてきたはがきなどに記載されているQRコードから、補助金の場合は自治体のウェブページのリンクなどから申請フォームにアクセスする。

 誓約事項などに同意したら、はがきに記載されている給付金受給者IDやパスワードを入力し、自分のメールアドレスや電話番号を登録する。すると、メールアドレスに確認用コードが届く。これは、認証用というよりは、書類の不備などの連絡を確実に届けるためだ。ちなみに、この機能はFormBridgeやkViewerには搭載されておらず、独自開発で搭載したとのこと。

申請画面を開いて操作を開始

メールアドレスの確認が済むと申請フォームに進む

 申請画面では、受給者IDなど既に入力済みのデータが入った状態で作業を進められる。イチから入力させるシステムが多い中、気配りがありがたい。

 住所や口座番号を入力するが、その際本人確認や口座確認のために身分証明書やキャッシュカードの画像をアップロードする必要がある。そして、申請用コードで再度メール認証をクリアすると確認画面が開き、申請できる。

本人確認書類をアップロードする

口座確認書類をアップロードする

メールに届いた申請用コードを入力する

申請作業が完了した

 申請者には自動返信メールが届き、申請データはkintoneに登録される。ここから、AIによる0次審査が自動的にスタートする。例えば、今回は免許証の画像はきちんとアップロードしたものの、口座確認書類に異なる画像を登録してしまったとする。

 AIは画像を分析し、書類が何なのか、必要な情報が書かれているかなどをチェック。問題がなければ、OCR処理をして氏名や住所、生年月日、有効期限などを抽出する。そして、本来はキャッシュカードの画像を入れるべきところに、運転免許証の画像をアップロードしたので、「キャッシュカード確認」が「不備あり」になっている。スコアは0.95とAIも自信をもって判断している。そのため、結果は「不備あり」となり、自動的に申請者にメールが送信され、修正を促される。

申請データがkintoneに登録された

AIの審査詳細はテーブルで確認できる

申請者に自動で修正依頼のメールが送信される

 トヨクモ製品を知り尽くしたTCCだからこそ実現できた、現場目線の「申請補助AI」。不備対応という精神的負担から職員を解放し、住民には迅速な給付を届けるメリットは大きい。リソース不足に悩む全国の自治体は、この仕組みを活用してはいかがだろうか。

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