短すぎる移行期間、バラバラすぎるシステム、コスト増、文字コードなど問題山積
「全国的に大変な状況になっています」 盛岡のSIerが見た自治体システム標準化のリアル
2025年12月18日 09時00分更新
戸籍のデジタル化にハードル 「行政事務標準文字」を扱うための3つの課題
齊藤氏は、自治体システムの特殊性として、文字要件について深掘りする。これはいわゆる戸籍に登録されている文字をあまねく扱わなければいけない自治体システムの宿命と言える課題だ。
ご存じの通り、戸籍は人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録するもので、日本国籍を公証する唯一の制度になる。昔は紙で台帳が作られ、住所や氏名の漢字が手書きだったため、誤字や俗字などもそのまま戸籍として正式な文字として扱われた経緯がある。戸籍が電算化された段階で、ある程度の文字は整理されたが、それでも膨大な文字を扱う必要があった。「もともと約163万字あったそうです。それを今回のシステム標準化の取り組みで約7万字まで減らしました」と齊藤氏。この約7万字は「行政事務標準文字」と呼ばれる。
ただ一般的なフォントは後述する通り、2の16乗である約6万5000字しか登録できない。行政事務標準文字をすべて扱うためにはフォントを2つ扱う必要があり、システムの複雑さが一気に増してしまう。しかも、戸籍のデータは、戸籍以外の自治体システムの帳票でも利用されるため、さらにハードルは高くなる。行政事務標準文字のために2つのフォントを扱うハードルが、文字要件における1つ目の課題だ。
行政事務標準文字を扱うための2つ目の課題は「Unicode(UTF16)のサロゲートペア問題」になる。Unicodeを簡単に説明すると、グローバルで利用される文字にあまねくコードを振り分けたいわゆる文字コードで、UTF16はコードを機械語に変換する規格だ。
当初、Unicode(UTF16)は「約6万5000文字もあれば、全世界の文字をすべてカバーできるだろう」と考えられ、1文字あたり16ビットの固定長(0000~FFFF)で表現する仕様で策定された。これがUTF16の第0面だ。ただ、日本や中国のような漢字を表現しようとするととてもじゃないがコードが足りないため、従来の第0面に多言語用の面を複数追加することになった。
とはいえ、UTF16では第0面しか表現できない。そこで第1面以降を表現するために追加された特殊計算が「サロゲートペア」になる。行政事務標準文字を扱うにあたって、このサロゲートペアに対応しているシステムが少ないというのが、ガバメントクラウドの課題だ。
そして、行政事務標準文字の3つ目の課題は、異字体セレクタの問題だ。Unicodeでは同じ文字に1つしかコードを振らないルールになっている。しかし漢字には、同じ字だが、異なる字形や字体が存在する。そこで、Unicodeは異なる字形や字体を判別する特別なコードを設定している。これが異字体セレクタだ。たとえば葛巻町の「葛」のコードは「U+845B」だが、異なる字形・字体の場合は異字体セレクタで任意に指定する必要がある。
異字体セレクタは、ある意味戸籍の文字を扱うため専用の仕組みであり、基本的に自治体システム以外では利用されない。そのため、こちらもUnicodeのサロゲートペアと同様、対応しているパッケージは少ない。アイシーエスでは、変更される可能性のある文字コードに関しては経過措置として認められるMS明朝+外字でいったん対応し、サロゲートペアと異字体セレクタの問題を自社開発でクリアしたという。
「なお、弊社は予定通り行きそうです」
多くのメディアに報道されているように、自治体システムの標準化は、全国的に大変な状況になっている。「デジタル庁への不満が出ています。まず間に合わない」と齊藤氏も恨み節だ(関連記事:デジタル庁が語る「自治体システム標準化」と「ガバクラ」の現状 運用コスト増大は解消するか)。当初引かれたスケジュールも増えて、対象業務も17から20に増えて、ますます混乱している状況に陥っている。「弊社もギリギリまで開発しています」(齊藤氏)。
齊藤氏が指摘したのは、「パブリッククラウドは『銀の弾丸』ではない」ということ。「AWSは素晴らしいサービスですが、国はパブリッククラウドを『銀の弾丸』扱いし、時間とノウハウがないまま突き進んだのでは? コストも3割減の計画が、逆にコスト増になっている。3割増はかわいいもので、2~3倍になった自治体もあります」と齊藤氏は語る。アイシーエスの場合は、基本ガバメントクラウドを利用しつつ、アプリケーション本体と自社データセンターで稼働させ、データ連携基盤のみガバメントクラウドで稼働させるハイブリッドクラウド方式も選択できるようにしている。
2025年も終わりに近づいてきたが、齊藤氏は「なにがすごいって、まだいろいろ協議中です(笑)」とコメント。登壇の前々日も、デジタル庁と協議したり、補助金関係で総務省に足を運んだりしたという。
最後、齊藤氏は全国で自治体システムの標準化やガバメントクラウド化が進んでいること、文字の標準化の過程でみなさんの生活に影響があるかもということ、そして全国的にうまくいっておらず、大変な状況に陥っていることなどをまとめとして掲出。「なお、弊社は予定通り行きそうです」とコメントに、会場からは「おおっ」という声が挙がった。その上で、「入社したら60%の確率で私の部下になります(笑)。社会インフラを支える責任ある仕事をぜひいっしょにやりましょう」ということで、新規採用の募集を行なって、講演を終えた。














