ユニバーサルコミュニケーション技術のショーケース「みるTech」レポート
音を見て、感じるテクノロジーが集結 デフリンピックから広がる“誰もがつながる世界”
2025年11月21日 11時00分更新
2025年11月15日から26日まで開催されている「東京2025デフリンピック(デフリンピック)」。国際ろう者スポーツ委員会が主催する、耳がきこえない・きこえにくいデフアスリートを対象とした国際スポーツ大会である。日本での開催は今回が初だ。
同大会の期間中、東京都は、国籍や障がいのあるなしを問わない交流を促す“ユニバーサルコミュニケーション(UC)技術”のショーケース「みるTech(みるテック)」を開催している。場所は、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターに設置された、大会運営機能や交流拠点などを担う「デフリンピックスクエア」である。
大手企業からスタートアップまで、国内25社のテクノロジーを体験でき、来場および体験費は無料(時間は9時~20時まで)。本記事では、みるTechで展示されている主要なテクノジーおよび、UC技術普及におけるデフリンピック開催の意義について紹介する。
音をからだで感じとるユーザーインターフェイス
富士通は、音の特徴をからだで感じるデバイス「Ontenna(オンテナ)」と駅の音を視覚化する装置「エキマトペ」を出展した。
Ontennaは、髪の毛や耳たぶ、えり元や袖口などに取り付けて、“光や振動”により音を感じとるデバイス。60~90dBの音を256段階の振動と光に変換することで、音のリズムやパターン、大きさを知覚できる。本体マイクがキャッチする音に反応するシンプルモードと、コントローラーのマイクやボタンで、複数のデバイスを同時制御するスマートモードを備える。
スポーツ観戦や音楽イベントなどで活用されており、ろう者(音声の聞き取りが困難な人)に限らず、聴者にとっても臨場感や一体感を生み出す新しいユーザーインターフェイスを提案する。デフリンピックでは、卓球やハンマー投げの観戦においても体験できる。
Ontenna(Webサイト)
エキマトペは、駅にあふれるさまざまな音を、文字や手話、オノマトペのアニメーションで表示する装置だ。AIを用いて、電車の発着音やドアの開閉音といった環境音、アナウンス音などを識別する。これまで実際の駅ホームにも設置され、2025年3月の上野駅での実証実験では、デフリンピックに向け英語のアナウンスを国際手話で表現する機能も実装した。
今後は、実証実験で得られた知見を基に、具体的な社会実装を検討していくという。
エキマトペ(Webサイト)
ろう者も一緒に演奏できるインクルーシブな打楽器
ソニーグループが出展したのが、PlayStation 5(PS5)の「アクセシビリティ機能」と、ろう者と聴者が合奏できる「ハグドラム」と「ハンドルドラム」だ。
さまざまなアクセシビリティ機能を備えるPS5で、2025年4月に追加されたのが「オーディオフォーカス機能」である。これは、ユーザーに合わせて音を聞き取りやすく調整する機能で、「低音」「声(中音)」「高音」「小さな音」の音域を強調できる。強弱や左右別で調整することも可能だ。
ゲーム機としては初めての実装となり、「細かい設定まではできないため、難聴者手前の人に、よりゲームを楽しんでもらうための機能」だという。
オーディオフォーカス機能(参考サイト)
インクルーシブな打楽器として生まれたのがハグドラムとハンドルドラムである。叩いた音を光と振動に変換し、それらが対となる2つの打楽器で連動する。ろう者と聴者が、互いのリズムを感じ取りながら合奏できる打楽器だ。
現在、抱えて演奏するハグドラムと、それを小型化したハンドルドラムの2種類がプロトタイプで開発されており、同楽器を用いたコンサートも開かれているという。
ハグドラム・ハンドルドラム(参考サイト)
コロナ禍の工場から生まれた字幕表示アプリ
大手自動車部品メーカーであるアイシンが提供するのは、会話をリアルタイムに画面表示するアプリケーション「YYSystem(ワイワイシステム)」だ。開発のきっかけとなったのは新型コロナウイルスだ。皆がマスクを付け始めたため、聴覚障がいの社員が口話(相手の口の動きから言葉を読み取ること)ができないのを解決するために生まれている。
声や音を見える化する独自のアルゴリズムを強みとしており、工場の騒音の中でも声だけを高精度に抽出。多言語(31か国語)翻訳にも対応しており、訪日外国人向け通訳のユースケースにも対応する。透明ディスプレイとセットで、ホテルや自治体、駅の窓口などで採用が進んでいるという。
YYSystem(Webサイト)









