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誰のためのブラウザー? オープンAI「Atlas」が残念な理由

2025年10月29日 05時56分更新

文● Mat Honan

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Sipa via AP Images

画像クレジット:Sipa via AP Images

オープンAI(OpenAI)の新ブラウザー「Atlas」は、Webサイト閲覧と自動タスク実行が可能だという。だが実際に使ってみると、このブラウザーは一体誰のためのものなのか?という疑問が浮かんだ。

オープンAI(OpenAI)は10月21日、新しいWebブラウザー「Atlas(アトラス)」を発表した。ChatGPT(チャットGPT)とエージェント機能が搭載されており、Webサイトの閲覧、質問への回答の取得、自動化されたタスクの実行などをすべて同時に進行できる。

私はここ数日間、Atlasをいじり倒してきた。通常のWeb閲覧はAtlasで済ませ、ChatGPT機能も活用してみた。さらに、厄介なエージェント・タスクもいくつか試して、性能を確認した。その印象は、悪くはないが——まあ、それなりだということだ。むしろ私が強く感じたのは、AtlasはオープンAIで働いている人以外にはほとんど意味のないものであり、ソフトウェアの仮面を被った単なる冷笑主義に過ぎないということである。

その理由を知りたければ、まずエージェント機能から見てみよう。これこそが、Atlasが他のブラウザーとの差別化のポイントだからだ。

まず、アマゾンを閲覧していた際、Atlasに事前設定されたプロンプト(指示内容は「ここでの閲覧履歴に基づいて、私が欲しそうな商品をカートに入れ、利用可能なプロモーション・コードがあればハイライト表示する。レジに進む前に私が確認する」)を使用して、買い物をさせてみた。エージェントが選んだのは、最近購入したばかりで必要のないノート、最近購入して不要な消臭剤、そして検討したものの高すぎると判断し、より安いものを購入したためもういらない掃除機だった。

これらすべての処理に10分程度かかったと思う。私はカートを空にし、勝手に購入されなかったことにホッとした。

すでにあらゆる種類のAIスロップで溢れかえっているフェイスブックにログインした際、Atlasに(近況を知らせる)投稿の作成を指示した。Atlasのエージェントは私の閲覧履歴を掘り下げ、信じられないほど長い投稿を提案してきた。あまりにも長文なのでそのすべてをここに掲載するのは控えるが、かいつまんで紹介すると以下のような内容だった。

「私はSmartsheet(スマートシート)とTeamSnap(チームスナップ)を開き(編集者だってタスク管理をするからね!)、Shopify(ショッピファイ)とアマゾンをちらっと見て(ホリデーギフトの買い物? 副業? ご想像にお任せします)、ニュースをチェック。その合間に、Slack(スラック)にログインし、Zoom(ズーム)会議の予定を組み、ニューヨーク・タイムズとテクノロジーレビューの記事をいくつか読むことも忘れませんでした。編集者の生活が華やかだなんて誰が言ったんだしょう?😊」

私は投稿をやめた。ほかにも同様にパッとしない例がいくつかあったが、だいたいこんな調子なのだ。

エージェント以外で、もう一つのユニークな機能は、ChatGPTがブラウザーに直接組み込まれていることだ。「ユニーク」と言ったが、「有用」とは言わなかったことに注意してほしい。単にWeb版のChatGPT(chatgpt.com)を使うのに比べて、Atlasに組み込まれたChatGPTを使う明確な利点を見つけるのに苦労した。場合によっては、内蔵チャットボットの方が使い勝手が悪く、使いにくく感じた。

例えば、読んでいたMITテクノロジーレビューの記事の要約を、Atlasに組み込まれたChatGPTに指示した。しかし、私が今、読んでいるページの要約をする代わりに、セッションを開始する一つ前のページを参照しに戻ってしまったのだ。つまり、役に立たないナンセンスを吐き出したのだ。ありがとう、AI。

ChatGPTのサイトにアクセスするとAtlasの宣伝が目につき、オープンAIはユーザーにダウンロードを促している。そして実際に、多くのダウンロード数を獲得するかもしれない。しかし、ChromeやSafariのようなすでに広く浸透しているブラウザーから乗り換える明確な理由をユーザーに示さなければ、新しいブラウザー戦争におけるむなしい空砲のように感じられる。

なぜAtlasが存在するのかを理解するのは困難だった。このブラウザーは一体誰のためのものなのか? 顧客は誰なのか? そして私がたどり着いた答えは、「AtlasはオープンAIのためのものだ」というものだった。Atlasの真の顧客、真のエンドユーザーは、Webサイトを閲覧している人ではなく、その人が何を、どのように閲覧しているかについてのデータを収集している企業なのである。

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