月給は約20万円 中国の工場労働者としては破格
当然のように人が多数集まってくる
具体的な額を見ていこう。8月から3ヵ月限定で、工場に通い詰めで最大月9800元(=日本円で約20万円)。日本ではそこまでの金額でもないが、これは中国の工場労働者としては、ものすごく魅力的。フォックスコンの臨時労働者への対価としても過去最高額だ。
なにせ鄭州の最低賃金は2000元(4万円強)なのである。フォックスコンの正社員の基本給でも2400元、残業代を足して月給4000元強という状況での月収9800元。中国の店舗や食堂、工場の労働者で月収1万元クラスの求人はまず見ることはない。まさに夢のような給料なのであり、フォックスコンに駆けこむのも当然だ。
というわけで、8月以降の鄭州には、人材急募の報を聞いた短期間・高所得狙いの人々が、荷物と毛布を抱えて、工場の門に列をなす。ピーク時には、毎日何万人もの人がやってくるため、拡声器の声が飛び交い、一方でそんな労働者を狙い、嘘の条件をぶら下げた詐欺師まで集まり、工場にたどり着く前に泣きを見る労働者もいたという。
普段の現場では、20万人の労働者が10万人ごとに2交代制で働く。これでもものすごく多いが、過去の量産時にはその倍の40万人が働いていたときもあった。
iPhoneはモデルごとに進化するが、ライン自体はさほど進化していない。1日中組立ラインに立ち、機械でネジを締め、フィルムを貼り、梱包をひたすら繰り返し、少しでもミスをすれば賃金が減額される世界に身を置く。iPhone 17には200~300個の部品からなり、一日中反復動作を繰り返す。同工場ではオレンジ/ブルー/シルバーの製品が作られているが、労働者は色ごとにノルマが違うか、給料が違うかしか関心がない。
勤務時間は、8時から20時までと示されているが、実際には22時、さらにそれ以降まで延長されることも少なくない。週末に休めるかどうかは指示次第で、目が覚めたらすぐに働き、仕事が終わるとすぐに眠りにつく生活を繰り返す。これで残業代出ればモチベーションもまだあがるが、「ミスの累積次第で出ないことも工場内でよくあった」と前述の論文では記されている。
そして延々に思えるほど繰り返される作業からくる体と心の疲れ、さらにはミスにより減額され希望額に届かなくなる給与に、人々は続々と工場から離れていく。それでも人海戦術でその数を埋めるほどの労働者が新たにやってくる。実際に3ヵ月間継続する従業員は30%にも満たないという。
金氏(仮名)は8月中旬に働き始めて、本体の隙間に防水と耐衝撃を兼ねる発泡材を付ける作業を担当している。ピンセットを使って規格に合ったフォームを拾い上げ、特定の位置に正確に配置し、機械を操作して圧縮・接着する。
「最初は1日に数百個だったのに、今では数千個貼るようになり、手が痺れて動かない」と不満を漏らす。寝て起きて繰り返すだけの過酷な環境下でも家族を思い、折れそうな心を抑えて働き続けたそうだ。ミスをせず1日10時間、1ヵ月28日、基本給の1.5倍の残業代、基本給の2倍の週末手当などを合わせて月9800元。ただ、時給換算すると20元(400円強)で、食堂でのアルバイトよりも安い。
鄭州工場はピーク時の量産を過ぎると、一部ラインを解体する。そのため労働者は居続けようと思っても居続けることはできず、どうしても数ヵ月間限りの期間労働になる。
なお、中国ではiPhoneは今も一定の人気があり、また河南省がフォックスコンによって支えられているという側面もあるのか、こうした現状について良い悪いと評価することなく、淡々と報じている。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

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