業務を変えるkintoneユーザー事例 第273回
NPO法人抱樸は“鍵付きSNS”で何気ないコミュニケーションを活性化
職員を孤立させないkintoneの「疑似オフィス」 “誰も見捨てない”理念はシステム開発にも宿る
2025年07月31日 09時00分更新
「“孤独”に寄り添うはずの支援員が“孤独”を抱えていました」 ―― 困難を抱える人々に対して、伴走支援を続けてきたNPO法人抱樸(ほうぼく)。kintone導入以前は、情報共有とコミュニケーションを担う基盤がなく、他部門の動きが不透明な中で被支援者と向き合っていたという。
サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 fukuoka」を開催。3番手で登壇したNPO法人抱樸の蔦谷暁氏は、“誰も見捨てない”という同法人の理念が反映されたkintone活用について披露した。
“孤独”に寄り添うはずの支援者が“孤独”に直面
NPO法人抱樸は、「誰もが見捨てられない社会」の実現を目指し、30年以上前にホームレス支援から活動を開始した。今では、子どもや高齢者、障害を持つ人、刑務所出所者など、様々な困難を抱える人々に対して、全29事業を通じた伴走型支援を展開している。
例えば、蔦谷氏が勤務する「地域生活定着支援センター」は、生活に不安がある刑務所出所者を、地域の福祉サービスにつなげる機関である。対象者には、親からの虐待、学歴や就労歴の不足、潜在的な障害など、様々な困難が複雑に絡み合い、犯罪に至ってしまった人々が含まれる。そして彼らを、単一の部署だけで支えることは難しいのが現状だ。
そのため抱樸では、地域を超え、多くの部署が専門性を活かしながら、対象者と密接に関わる支援体制を構築してきた。この体制においてもっとも重要なのが、“部署間の情報共有とコミュニケーション”だという。
しかし、kintone導入以前の情報共有ツールは、電話とFAX、そして全職員が所属するメーリングリストのみ。個人情報といった機密性の高い内容は、メーリングリストでは共有できず、他部署や法人全体の動きも不透明。この連携のしにくさが、対象者の不利益につながる危険性をはらんでいた。
「さらに、一人ひとりは必死で支援しているのに、『一人きりで対象者と関わっているんじゃないか』という気持ちに陥ってしまう。まさに“孤独”に寄り添うはずの支援員が“孤独”を抱えてしまう状況にありました」(蔦谷氏)
“誰も見捨てない”理念をkintone推進にも応用
抱樸は、こうした課題を解決すべく2020年にkintoneを採用。「コミュニケーション促進」「チームとコンサルの活用」「伴走支援」という3つの軸で導入を進めている。
第一の軸は「コミュニケーションの促進」だ。手軽に情報発信できるkintoneの「ピープル」機能を活用。何気ない日常の出来事を投稿するなど、職員同士の個人的なコミュニケーションを推奨した。アカウントを持つ職員だけが閲覧できる「鍵のかかった社内SNS」としてkintoneを運用することで、“個性や顔が見える関係性”を育み、対象者支援の土台にしている。
第二の軸は「チームとコンサルの活用」だ。kintoneを担当するチームは、デイサービスや総務など、部署横断的なメンバーで構成されている。「パソコンに詳しい」という理由で相談を受けることが多かった職員で結成され、蔦谷氏もその一人だ。チーム化、すなわちプロジェクト化することで、個々の職員が抱えていたIT関連の対応が、法人全体に貢献するIT施策に昇華。そしてkintoneは、孤独に対応する職員をつなぐ基盤となった。
さらに、プロジェクトの体制を強固にすべく、ITコンサルタントのAISICにサポートを依頼。対象者データベースのkintone移行において、伴走支援を受けた。このコンサルタント活用で、kintoneの拡張性や限界、最適なデータ蓄積の方法、そして伴走開発のエッセンスを学び、職員に展開していく。
第三の軸は「伴走支援」。これは抱樸が最も大切にしてきた理念でもある。どんなに便利なkintoneアプリを作っても、変化に対する抵抗感が生じる。抱樸では、その抵抗感を否定せずに、ひとつの価値観として尊重。「見つける。見捨てない」「相手の価値観を尊重する」「向かい合うのではなく同じ方向を向く」という伴走支援で心掛けていることを、kintoneの促進にも応用した。
職員からの質問を受け付ける「Q&Aアプリ」を作成し、寄せられた質問には必ず対応し、さらに、困っていることがないか“おせっかい”することでつながりを保った。他にも、イラストを活用して目的のページにたどり着きやすくするなど、利用者と同じ目線に立った改善も重ねている。
それでも根強い抵抗があったのが、紙からの脱却だ。そこで、kintoneの情報を帳票形式で出力できるプラグイン「k-Report」を採用。入り口はkintoneでも出口は慣れ親しんだ紙という形で、kintoneに触れてもらうことを優先した。短期的な結果ではなく、つながり続ける時間に価値を置くという、抱樸らしいアプローチが貫かれている。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第336回
デジタル
kintoneで変わったのは業務ではなく「当たり前」―― 超保守的な営業部隊がDX先進組織になるまで -
第335回
デジタル
辞めるつもりだった社員が挙げた3つの問題 社長が定例会から外れて動き出した社員の自主性とチームワーク -
第334回
デジタル
工場の“見間違い”ミスを完全ゼロに “現場ナイズ”なkintone実装から始まった意識改革 -
第333回
デジタル
クリーニング屋が人手不足を“人手以外で”解決 一度は手放したkintoneを復活させ、AIで販管費を半減するまで -
第332回
デジタル
本当のkintoneらしさとは? 紙文化、属人化、システムの進化に真正面から取り組んだキーコーヒー -
第331回
デジタル
開くだけで5分かかるExcelからの脱却 社長に直談判したパートスタッフがチャレンジしたアプリ開発 -
第330回
デジタル
最新版はどれだ!?が日常的だった業務をkintoneに置き換え、ヒーローになった情シスが陥った落とし穴 -
第329回
デジタル
「ツールは入れて終わりじゃない」 香川の建設コンサルが利用率1割だったkintoneを全社基盤に育てるまで -
第328回
デジタル
「筋斗雲って、ラーメン屋ですか?」 60歳以上が44%を締めるビルメンテナンス企業が挑んだ土台作り -
第327回
デジタル
まずは動かしてみる。沖縄の中小企業を支える支援機関のプロジェクトチームが守った3つのルール -
第327回
デジタル
市役所の当たり前が市民の負担 その罪深さを痛感した職員が推進する自治体DX - この連載の一覧へ








