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第15回衛星放送協会オリジナル番組アワード ドキュメンタリー部門「『はだしのゲン』の熱伝導 ~原爆漫画を伝える人々~」コラム原稿

「戦争は絶対しちゃいかん」。戦後80年のいま、漫画「はだしのゲン」作者・中沢啓治の思いを次世代へ

2025年07月07日 11時00分更新

文● 原田 健

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 戦後80年という節目を迎えた2025年。全国各地で不戦・平和人権イベントが開催されており、世界で唯一原爆が投下された広島、長崎では特にその動きが活発となっている。そんな中で、戦争や核爆弾の恐ろしさを漫画で発信している漫画「はだしのゲン」が、そのセンセーショナルな内容から「教育現場にふさわしくない」との理由で、小中学校の図書館から撤去する動きもある。

 児童教育の観点では同作の目を覆いたくなる内容は“あまりにも刺激が強過ぎる”という考えは分からなくもない。しかし、世界で唯一の被爆国である日本でありながら、同作のタイトルを知っていても読んだことがない人や存在自体知らない人も増えてきており、戦争や核爆弾がもたらす悲劇への感度が薄れてきているという一面もある。

 昨今の不安定な世界情勢の中、戦争や核爆弾に対する恐ろしさが薄れている今だからこそ、同作が訴えるメッセージを多くの人に受け取ってもらいたいという思いが込められた番組が、ドキュメンタリー「『はだしのゲン』の熱伝導~原爆漫画を伝える人々~」(BS12 トゥエルビ)だ。6月9日に発表された「第15回衛星放送協会オリジナル番組アワード」では、番組部門ドキュメンタリー最優秀賞を受賞した。

作者・中沢啓治の被爆体験を描いた感涙大作

 漫画「はだしのゲン」は、作者である中沢啓治が実体験を基にした自伝的な作品で、広島の原子爆弾に被爆して家族を失った少年・中岡元が、貧困や偏見に苦しみながらも力強く生きていく姿を描いたもの。現在25カ国で翻訳出版されており、世界中で原爆の恐ろしさを伝えている。また、戦争の悲劇だけでなく、家族愛や兄弟愛、人間の醜さ、人間の力強さも描かれており、中沢は2024年に、手塚治虫(※塚は点ありの塚)や宮崎駿も受賞している“漫画界のアカデミー賞”といわれているアメリカのアイズナー賞の殿堂入りを果たした。

戦争のリアルを伝える「はだしのゲン」。その熱を伝える人々を通して不戦を訴える

 番組では、過去のインタビュー映像から中沢の「戦争は絶対しちゃいかん。核兵器は特にそうだ。『これは絶対になくしていく』という世代を育てていかなくちゃいけないんじゃないかなと。それには漫画も一つの役目を果たしているんじゃないかと」という思いを伝える他、38年前から講談で「はだしのゲン」を広めている講談師・神田香織さんや、「はだしのゲン」の初代英語版を作成した書籍編集者・大嶋賢洋さんと翻訳者のアラン・グリースンさん、広島で不戦活動を続ける渡部久仁子さんの思いにも触れつつ、戦争と核、平和への思いをストレートに伝えている。特に、現在の世界の核弾頭保有数(※2023年当時)を公開し、「人類はまた悲劇を繰り返すのでしょうか」と結ぶラストは、頭をガツンと殴られたような強い衝撃を受ける。

 時代による道徳的価値観の違い、表現の過激さなどを理由に、学校での閲覧制限、教材からの削除など社会問題になった漫画「はだしのゲン」を逆風の中でも世界中に広げていこうとする人々の“熱”を感じつつ、今一度、戦争や核兵器について考えさせられる、戦後80年の節目にふさわしい作品だ。

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