PwC Japanグループは、2025年6月23日、「生成AIに関する実態調査 2025 春」の結果を公表した。日本における直近1年の生成AI活用の進展を明らかにすると共に、今回初めて5カ国(日本、米国、英国、ドイツ、中国)間での比較も行われた。
同調査では、日本企業における生成AIの「推進度」は5カ国中で平均的な水準であるものの、「効果創出」で大きく後れをとっていることが浮き彫りになっている。
PwCコンサルティングの執行役員 パートナーである三善心平氏は、「日本は生成AI推進では悪くない位置にいるが、効果の刈り取り方では劣後している。効果が出ている企業は生成AIを業務に組込み、代替する割合もが高いため、この格差が指数関数的に広がる恐れがある」と強調した。
生成AI活用に手ごたえがある企業は横ばい
PwC Japanグループの実態調査は、2023年春からスタートし、今回で5回目。売上高500億円以上の企業で生成AI導入に関与する人物を調査対象としている(日本は945名を対象に、2025年2月に実施)。まずは、1年前の調査(2024年4月調査)と比較した、日本企業の進展を紹介する。
PwCは、前年の調査において「生成AIで成果を得られている」企業の割合に注目。成果が「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業は9%にとどまり、米国の33%に大きく水をあけられる結果となった。
今回の2025年春の調査でも、「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業は10%で、前年とほぼ変わらず。一方で、米国は45%と10ポイント以上増加しており、両国の差は広がっている。
ただし、生成AIを「活用中」の日本企業の割合は、2024年春が43%だったのに対して、2025年春には56%に上昇。生成AI登場時の勢いは落ち着いたものの、実用化に進む企業は着実に増えている。
この1年で大きく変化したのが、生成AIがもたらす「脅威」への認識だ。
生成AIで「ビジネスの存在意義が失われる脅威」があるとする回答は12ポイント減少(27%から15%)、「他社(者)より相対的に劣勢に晒される脅威」という回答も16ポイント減少(43%から27%)した一方で、「コンプライアンス・企業文化・風習などにおける脅威」があると考える回答者が23ポイントも急増(21%から44%)している。
この要因を三善氏は、「生成AI活用を試した結果、業務のやり方や組織、人材評価などが根本から変わる不安、ハルシネーションによる倫理面での不安を感じる企業が一定数増えた」と推察する。
また、業界ごとの推進度についても変化があった。引き続きテクノロジー業界や通信業界がリードする中で、「サービス/接客業」「運輸/物流」「小売」での活用が急増。いずれも人材不足が深刻な業界であり、業界の課題に沿ったユースケースの構築が進んでいると考えられるという。
生成AIの“効果創出”、日本は5カ国中断トツの最下位に
また、今回は初の試みとして、グローバル5カ国間で調査比較を実施している。最も生成AIの活用が進んでいると思われる米国、欧州の「EU AI Act(AI法)」対象国のドイツ、非対象国のイギリス、アジアから中国を選定している。
前述の通り、ここ1年で生成AIを推進する日本企業は増えた一方で、成果を得られている企業の割合は横ばいのままだ。
そんな日本を他国と比較すると、生成AI活用企業の割合はドイツを上回り、米国や英国と同水準の「3位」。ただし、そこから期待を上回る成果を得ている企業の割合(64%)は、他国(いずれも9割を超える)と大きく差をつけられ「最下位」だった。
三善氏は、日本の現状について、「現場のカイゼン文化が強いが、制度的支援や法的抑止力がなく、企業独自のリーダーシップや経営層の実行力に依存している」と分析する。
その他の項目でも、生成AI導入の「推進部門」の有無について、すべての選択肢で日本は最下位だった。特に「社長直轄」や「CoE組織」が関与する割合が他国の半分以下の水準であり、経営のコミットメントや専門組織の活用に課題が見られる。
生成AIを業務プロセスの一部として正式に組み込んでいる割合も、米国や中国、ドイツが5割を超える中で、日本は24%と最下位。「業務担当者の判断で、任意であったり、試験的に使ったりしている段階の企業が、5カ国の中で圧倒的に多い」(三善氏)
また、活用の土台となる、情報のキャッチアップを十分にしている割合も、他国が5割を超える中、日本は20%と大きく引き離されている。AIガバナンス体制の整備状況についても、第一線あるいは第二線で構成された中央組織を整備している割合は最下位だった。
日本が最下位である「社長直轄の推進体制」や「業務プロセスへの組込み」「活用の土台(十分な情報キャッチアップやガバナンス)」などの項目は、実は、生成AIで高い成果を挙げている“成果創出企業”に共通する成功要因になっているという。
