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柳谷智宣の「簡単すぎて驚く生成AIの使い方」 第21回

世界の最新情報をいち早くキャッチアップ! 英語で書かれた最新論文・白書から重要ポイントを抽出・理解するテクニック

2025年07月11日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第21回は生成AIを用いて、海外の最新論文・白書から重要なポイントを抽出して理解を早める方法について解説する。

世界の最新の動向をいち早くつかむには生成AIが有効

 グローバル化が加速する現代において、ビジネスシーンでは海外の最新動向をいち早く掴むことの重要性は増している。特に、専門的な知見が凝縮された学術論文や各国の政策の根幹をなす白書は、未来を予測し、次の一手を考える上で欠かせない情報源となる。

 しかし、多くのビジネスパーソンにとって、これらを読み解くには言語の壁と時間の制約という大きなハードルがある。現在は、無料の翻訳サイトもあるので読むことはできるが、時間がかかるし、その直訳の文章から重要なポイントを抽出するのにはさらに手間がかかる。

 そんな悩みを解決する強力な武器が生成AIだ。今回は、生成AIを活用して海外の論文や白書を効率的に読み解き、情報キャッチアップを加速させるための具体的な方法を、実践的なプロンプト例と共に解説する。

#01 生成AIに論文を代わりに読んでもらい、やさしく解説してもらおう

 生成AIであれば、機械翻訳とは一線を画す、自然で文脈を捉えた翻訳が可能になる。日本人に読みやすくしてくれるうえ、噛み砕いてもらうこともでき、専門用語の理解度も飛躍的に向上する。AIにもよるが、大きなコンテキストウィンドウを利用できるなら、数十ページ、時には数百ページに及ぶ長大なドキュメントでも、その要点や結論をわずか数秒で抽出することが可能。さらには、単なる要約に留まらず、「この技術の背景は?」「この政策の目的は何?」といった質問を投げかけることで、対話形式で内容への理解を深められるのだ。

英語による論文の重要ポイントをまとめてみる

 まずは、Appleが2025年5月28日に発表した「The Illusion of Thinking」という研究論文を読んでみよう。今注目されているAIの推論能力は課題に宣伝されている、というものだ。

 しかし、AIが嫌いだから脊髄反射で「ほら見ろ、だから言わんこっちゃない」というのも、AIが好きだから「AppleはAIで遅れているから難癖をつけている!」と過剰反応するのもよくない。まずは、一次情報である論文の内容をチェックし、理解することが第一歩となる。

 最初は基本の使い方から試してみよう。PDFをドラッグ&ドロップでアップロードし、ドキュメント全体の概要を掴むためのプロンプトを入力する。一言、「要約して」だけでもある程度はニーズに応えてくれるが、自分が欲しい形式を指定すると理解を深めやすい。例えば、「以下の論文について、重要なポイントを3つピックアップし、わかりやすく要約してください」とするのだ。

今回は、Geminiを利用した

●プロンプト
以下の論文について、重要なポイントを3つピックアップし、わかりやすく要約してください

●出力
この論文は、近年の高性能なAI(大規模推論モデル、LRM)が、本当に人間のように「考えて」問題を解いているのか、その能力と限界を、パズルを使って体系的に調査した研究です。

論文の重要なポイント3選
1. 高性能AIにも越えられない「複雑さの壁」が存在する

最新の推論モデル(LRM)であっても、問題の複雑さがある一定のレベルを超えると、正解率が急激にゼロになる「性能の崩壊」が起きることが明らかになりました。これは、AIがまだ汎用的な問題解決能力を獲得できていないことを示唆しています。

さらに興味深いのは、AIが問題の複雑さに応じて費やす「思考の労力」(思考に使われるトークン数)のパターンです。最初は複雑になるほど思考量が増えますが、性能が崩壊する直前の最も難しい領域では、十分な計算時間が与えられているにもかかわらず、逆に思考量を減らしてしまう傾向が見られました。これは、現在のAIの推論能力に根本的なスケーリングの限界があることを示しています。

2. 問題の難易度によって「思考するAI」と「しないAI」の得意・不得意が分かれる

この研究では、「思考プロセス」を持つ推論モデル(LRM)と、持たない標準的なモデル(LLM)を同じ計算量で比較し、問題の複雑さによって3つの異なる性能領域が存在することを発見しました。

~略


 高校生でもわかるように、きれいに要約してくれた。ここからが生成AIの本領発揮。わからない単語があったら、チャットで聞き返そう。単に単語の意味を聞くのもいいのだが、知りたい方向性を指定するのもお勧めだ。

 例えば、LRMという単語が出てくるので、LLMと何が違うのかを聞いてみよう。

●プロンプト
LRMとは何ですか?LLMとの違いを500文字のパラグラフで高校生向けに解説してください。

●出力
LRMは「大規模推論モデル(Large Reasoning Models)」の略で、皆さんがよく知るLLM(大規模言語モデル)が進化した、特に「考える」ことが得意なAIです。普通のLLMが質問にすぐ答えるのに対し、LRMは最終的な回答を出す前に、人間のように「思考のプロセス」を文章で詳しく書き出すのが大きな違いです。例えば、数学の問題を解くときに、途中の計算式や考え方、さらには「一度見直してみよう」といった自己反省の過程まで文章で示してくれます。この「考える」ステップを挟むことで、複雑なパズルや論理的な問題において、より正確な答えを導き出すことを目指しています。つまり、LRMはLLMの中でも特に推論能力を強化された、問題解決の専門家のような存在だと言えます。


 他にも、目的に応じて色々なプロンプトを使い分けて、PDFの情報を絞りつくそう。その研究や政策が、なぜ今重要なのかを理解したいなら、背景や文脈を尋ねるプロンプトが有効だ。

●プロンプト
この研究が注目されている背景には、どのような社会的・技術的な課題がありますか?また、関連する重要な先行研究があれば教えてください。

●出力
背景にある社会的・技術的な課題

技術的な課題

LLMの推論能力の限界: 初期のAI(LLM)は、文章生成は得意でしたが、数学や論理パズルといった複雑な推論を必要とするタスクでは性能が低いという課題がありました 。

AIの「賢さ」への疑問: 近年、AIの性能は飛躍的に向上しましたが、それが真の理解や推論能力によるものなのか、あるいは単に膨大なデータから学んだパターンを巧妙に組み合わせているだけなのか、科学的な議論が続いています 。

~略


 得られた情報を自身のビジネスや業務に引きつけて考えるなら、自分ごと化して示唆を得るプロンプトが役に立つ。

●プロンプト
この論文で述べられている内容は、ビジネスにおける生成AI活用にどのような影響を与える可能性がありますか?ビジネスチャンスとリスクの両面から考察してください。

●出力
1.タスクに応じたAIの「適材適所」コンサルティング

論文では、問題の複雑さによって「思考しない標準モデル(LLM)」が効率的な場合と、「思考する推論モデル(LRM)」が優位に立つ場合があることが示されました 。この知見は、企業の業務プロセスを分析し、各タスクの複雑度に応じて最適なAIモデル(およびコスト)を割り当てる「AIポートフォリオ戦略」のコンサルティング事業につながります。例えば、定型的な顧客対応には安価な標準モデルを、複数の条件が絡む製品の不具合分析には高性能な推論モデルを、といった使い分けを提案することで、企業のAI投資対効果を最大化できます。

~略


多角的な理解を得るために課題を抽出させる

 情報の良い面だけでなく、限界や課題も把握することで、より多角的な理解ができるので、批判的な視点で問いかけるプロンプトを使うのも忘れずに。

●プロンプト
この論文で述べられている主張の限界や、著者が見落としている可能性のある論点は何ですか?また、今後の研究で検証されるべき課題は何だと考えられますか?

●出力
この論文の限界と見落としている可能性のある論点

著者自身が述べている限界

タスクの多様性の欠如: この研究で使われたパズル環境は、論理的な推論能力を測るのに適している一方で、あくまで推論タスクの「狭い一部分」しか代表していません 。現実世界のビジネス課題や科学的研究のように、膨大な知識を動員して行う複雑な推論タスクにおいて、同様の結果が見られるかは不明です 。

~略

見落としている可能性のある論点

訓練データの影響に関する考察の深さ: 論文では、AIが「タワー・オブ・ハノイ」は得意だが「川渡り問題」は苦手な理由を、Web上の訓練データの量の違いの可能性として示唆しています 。しかし、どのような種類のデータ(例えば、特定のアルゴリズムに関する解説記事やコード)が、AIの特定の論理構造の学習にどう貢献するのか、より踏み込んだ分析の余地があります。

「思考の質」の評価: この研究は「思考の量(トークン数)」や「正解の位置」には注目していますが、「思考の質」そのもの(例:思考の効率性、戦略の巧妙さ、創造性)については深く分析されていません。同じ正解にたどり着くにも、力任せの非効率な思考と、洗練された思考があり、その質的な違いを見極める視点がさらに必要かもしれません。

~略

上記の限界や論点を踏まえ、今後の研究では以下のような課題に取り組むことが期待されます。

より多様で現実的なタスクでの検証: パズル環境だけでなく、法律文書のレビュー、医療診断支援、ビジネスコンサルティングといった、専門知識を要する現実的なタスクにおいても、同様の「性能の崩壊」や「3つの領域」といった現象が見られるかを検証すること。

~略


 読むのさえ難しい最新の英語論文も、生成AIにアップロードし、プロンプト攻めすれば、深く理解することができる。ポジティブとネガティブの両面から内容を理解できるので、フェアな視点を持つことができる。

 生成AIの登場により、特に他言語が苦手な日本人も世界中の膨大な知識へ手軽にアクセスできるようになった。海外の最新論文や白書をAIで読み解くスキルは、もはや一部の専門家だけのものではない。すべてのビジネスパーソンにとって、情報格差を乗り越え、変化の激しい時代を勝ち抜くための必須スキルとなることは間違いない。ぜひ、明日からチャレンジしてみることをお勧めする。

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GoogleドライブのPDFプレビューがGeminiで知的に進化

 2025年6月12日、Googleはクラウドストレージサービス「Googleドライブ」に保存されているPDFファイルに対し、生成AI「Gemini」を活用した新機能を導入したと発表した。ユーザーはPDFを開くだけで、Geminiが自動生成した要約や、内容に基づいた次の行動案を受け取れるようになり、文書の読解や活用にかかる時間が大幅に短縮されるようになる。

 この新機能は「PDF要約カード」と呼ばれ、Googleドライブ上でPDFファイルを開くと、画面のプレビューパネルに自動で表示される。従来のようにサイドパネルで手動でGeminiに指示を与える必要がなく、よりシームレスで直感的な操作性を実現した。長文の報告書や複雑な契約書や研究論文などの内容を瞬時に把握し、次の作業へとスムーズに移行できる。

「展開する」をクリックすると要約の全文が読める。「Geminiに相談」をクリックするとチャットが開く

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