米国のトランプ政権が、米国人のSNSを”検閲”する外国の政府職員にビザを発給しないとの方針を示した。
この方針は、米国務省のマルコ・ルビオ長官が2025年5月28日、国務省のウェブサイトで声明として発表したものだ。ルビオ氏は、声明の中で大ざっぱに2つのことを述べている。
まず、外国の政府が、米国人や米国で暮らしている人に対して、SMSでの言動を理由に、逮捕状を発行したり、逮捕をちらつかせたりすることは受け入れられない。次に、外国の政府が、米国のテック企業に対して、SMSの投稿の内容を検閲するよう求めるのは受け入れられない。こうした「目に余る検閲行為」について責任を負う立場の政府職員については、米国に滞在するためのビザの発給を制限するという。
「目に余る検閲」とは
ルビオ氏の声明を読むと、2つの国と地域の存在が頭に浮かぶ。
1つめの記述については中国だ。中国政府を批判し、中国から米国に逃れた反体制派や、米国で暮らす中国人がSNSで中国政府を批判するケースなどが念頭にあると考えられる。
2つ目の記述については、偽情報や差別を助長する投稿、性的虐待に当たる投稿などに対して、SNSの運営事業者に対処を義務づけたEUのデジタルサービス法(DSA法)が念頭にあると見られている。
外国の政府が、米国で暮らす人を対象に、SNSでの発言を理由に逮捕状を取るのは、言論弾圧の一種だ。
2月22日のロイターの報道によれば、ChatGPTを開発・運営するOpenAIが、中国のグループのアカウントを停止した。アカウントの停止は、このグループが、AIを使ってSNSを監視し、中国政府に批判的な投稿をしたり、反体制派の集会に参加したりする中国人を政府に報告するアプリを作ろうとしていたことが理由とされている。
このアカウントと中国政府の直接的なつながりは明らかではないが、この行為がルビオ氏の言う「目に余る検閲」であるのは、理解できる。一方で、EUのDSA法のどこが、トランプ政権にとって「目に余る検閲行為」なのだろうか。
米テック企業を名指しにするDSA法
DSA法は、大規模オンラインプラットフォーム(Very Large Online Platforms、VLOP)を指定し、VLOPに対して、違法なコンテンツや偽情報の拡散への対策を義務づける内容だ。違法なコンテンツには、ヘイトスピーチ、差別的なコンテンツ、子どもへの性的虐待、オンラインストーカー、テロリストによる発信などが含まれる。
こうした違法コンテンツや偽情報が拡散する主なプラットフォームは、SNSだ。EUは5月27日時点で、17社が提供する22のサービスをVLOPに指定している。この22サービスのうち、SNSに当たると思われるのは、以下の8つのサービスだ。
- Snapchat
- TikTok
- X (旧Twitter)
- YouTube
サービスの顔ぶれを見ると、TikTokのみ中国系の企業が提供するサービスだが、残る7サービスは米国の企業が運営するSNSだ。つまり、米国から見れば、EUはほとんど米国の企業を名指しにして、違法コンテンツや偽情報の拡散に対処を義務付ける法律をつくったと受け止めることができる。
関税巡るディールの一部

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