――――現在オフィスが入っている国際ビルは2025年3月末に閉鎖が予定されていますよね。今後新しい拠点で取り組んでいきたいことなどはありますか?
金森「今後、YAUは『北有楽町ビル』に移ります。これまでのスペースよりも狭くなってしまいますが、築いてきたコミュニティを大切にしながら、活動を継続していきたいですね。今年度は35ぐらいのプロジェクトが動いているんですよ。
発足から3年程度で出来上がったこのコミュニティが、アーティストと一緒にどのように継続しながら街に出ていけるのかは課題です。アーティストにとっては、このエリアにYAUがあって、それを通じてこのエリアで仕事をすること自体がプラスになると思っていて。そんなに多くのプロジェクトはできないかもしれませんが、我々が謳っている“アーティストがいる街“がどれだけ実現できるのか、引き続き頑張って取り組んでいきたいですね」
中森「移転後はこれまでのように大規模な展示スペースではなく、スタジオのような機能がメインとなる予定です。ですが、空間の制約にとらわれず、『場』を超えて、街のさまざまな場所で展開できるよう工夫していきたいと考えています。プログラムの頻度や内容も見直しながら、アーティストと街の人が自然に交わり、新しい価値が生まれる場を目指していきたいですね。
また、有楽町エリア全体としても今後再構築が進んでいく中で、これまでの経験やつながりを活かし、さらに活動を広げられるよう柔軟に展開していきたいと思っています。場所が変わることで、これまでのような広いスペースは確保できませんが、だからこそ密度の濃い活動を行い、アーティストと地域の人々がつながる場をつくることを大切にしていきたいと考えています」
――――最後に、お二人それぞれが丸の内エリアでお気に入りの場所やお店があれば教えてください。
金森「丸の内仲通りから馬場先通りに行く途中に見る、夕方の景色が好きです。皇居側の景色はここでしか見られないなと思いますね。『搬入プロジェクト』を担当したときに、丸ビルから有楽町まで高さ11メートルの物体を持って歩きました。そのときに景色が見られたらいいなと思っていたんですが、当日はゲリラ豪雨でそれどころではありませんでした(笑)」
中森「私はビルとビルの間にある小さな公園のような空間の『Slit Park』がお気に入りの場所です。丸の内仲通りから1本裏に入っただけで静かな空間が広がっていて、落ち着いて過ごせるのでリラックスしたいときにピッタリです。あとは新東京ビルの地下にあるスリランカカレーのお店『ARALIYA LANKA』が好きですね。野菜もたくさん食べられるし、ランチのボリュームがすごくて、2食分に分けて食べる人もいるくらいなんですよ(笑)。特に火曜と木曜限定のビリヤニがとても美味しくて、ぜひオススメしたいですね!」
「アーティストがいる街」を目指して活動を続けるYAU。大丸有エリアの企業とアートが組み合わさることで、企業の取り組みが分かりやすくなり、見る人にとっては身近に感じられる。そしてアーティストにとっても、作品の素材や見せ方、そしてあり方など新しい発見と成長が得られることになるのではないだろうか。拠点を移したYAUがこれからどんな活動をしていくのか、これからも注目していきたい。
金森千紘(かなもり・ちひろ/写真左)
●1981年生まれ。大学で建築を学んだ後、美術書の出版営業、ポラロイドの再生産プロジェクトに従事。2012年よりハシモトアートオフィスに勤務し、合併後のANOMALYに2021年まで在籍。その後はフリーランスで、アートプロジェクトの運営、演劇制作、自身企画の展覧会開催など。近年は青木野枝のスタジオマネージャーとしても活動。
中森葉月(なかもり・はづき/写真右)
●1993年生まれ、奈良県出身。出版社でカルチャー雑誌の編集などに携わった後、2021年に三菱地所に入社。丸の内開発部、まちづくり推進部マネージャー、大丸有エリアマネジメント協会アートアーバニズムマネージャー。コミュニティスペース「SAAI Wonder Working Community」、好奇心が交差する市場「有楽町 micro FOOD&IDEA MARKET」ほか有楽町エリアにおける既存ビルでの企画業務を担当し、「ソノ アイダ#新有楽町」や「有楽町アートアーバニズムYAU」といった大丸有におけるアーティストとの取り組みを推進する。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)
●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・戦略推進室。丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。産経新聞~福武書店~角川4誌編集長。
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