「通信×AI」が解き放つ未来! KDDIが描くこれからのAIとモビリティ
2025年03月07日 16時00分更新
現在開催中のMWC Barcelona 2025では、さまざまな企業が未来を見据えた革新的な技術や戦略を発表しています。日本企業のKDDIブースもそのひとつ。
AIが中心に展示の中に、KDDIが描くモビリティの将来像と、それを実現するための具体的な取り組みがあったので、自動車担当でもある筆者が、モビリティのお話を同社のビジネス事業本部 モビリティビジネス本部 副本部長の相澤忠之氏に聞きました。
未来のモビリティ社会「つながるモビリティ」という核
――まず、KDDIが描く未来のモビリティ社会とは、どのようなものなのか教えてください。
相澤忠之氏(以下敬称略) 核となるのは「つながるモビリティ」です。私たちは通信事業者として長年培ってきた技術と、近年注力しているAI技術を掛け合わせることで、あらゆるモビリティがつながり、協調し、より安全で効率的な社会を実現したいと考えています。
――現在、KDDIは通信事業を基盤としていますが、モビリティ分野においては、具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか?
相澤 現在、私たちの社会ではさまざまなものが通信によって支えられています。 MWCの名称もかつては「Mobile World Congress」でしたが、今ではMWC Barcelonaとなり、モバイルという言葉が使われなくなっています。これは、通信がもはやモバイルの領域にとどまらず、社会全体の基盤となっていることの表れだと考えています。
モビリティにおいても同様で、通信はあらゆるものの基盤となると考えています。 たとえば、自動車やドローン、ロボットといったさまざまなモビリティが、通信ネットワークを通じて情報を共有し、連携することで、これまでには考えられなかった新しいサービスや価値が生まれると期待しています。
展示ブースでもご覧いただいたかと思いますが、私たちは通信そのものを大きくアピールするのではなく、モビリティの基盤として通信が不可欠であるということを示唆する展示を行なっています。
AIが軸となる未来のオペレーション環境
――ブースはAIが中心でしたが、モビリティ分野において、AIはどのような役割を果たすと考えていますか?
相澤 2030年代には、AIが社会のあらゆる領域で重要な役割を担うことは間違いないと考えています。これはモビリティ分野においても例外ではないでしょう。私たちは、AIを軸とした未来のオペレーション環境を構想しています。
たとえば、あらゆるモビリティがネットワークに接続され、AIによって最適に制御・管理されることで、交通渋滞の緩和や物流の効率化、さらには新しい移動サービスの創出などが期待できます。またAIは、モビリティの安全性向上にも大きく貢献すると考えています。自動運転技術においては、AIがセンサーからの情報を解析し、リアルタイムに状況を判断することで、より安全な走行が可能になります。
自動運転へのアプローチは基盤技術の提供と支援
――自動運転技術の進化は目覚ましいものがありますが、KDDIは自動運転に対してどのようなアプローチを取るのでしょうか?
相澤 私たちは自社で自動車を開発したり、自動運転システムそのものを開発したりするのではなく、通信基盤やAIコンピューティング基盤を提供することで、自動運転技術の開発を支援するという立場を取っています。ブースに展示してあるモビリティ「ティアフォー(Tier IV)」は、私たちが資本出資させていただいている企業のひとつですが、彼らが開発する自動運転アルゴリズムに対して、私たちの通信基盤や計算基盤を活用いただいています。
MWCのデモでは、ティアフォーの自動運転バスを展示し、私たちの技術がどのように貢献できるかを紹介しました。また自動運転においては、遠隔監視や緊急時の遠隔停止制御といった機能が法的に義務付けられる可能性があります。 こうした領域においても、私たちの高品質な通信ネットワークと運用ノウハウが活かせると考えています。
――車だけでなく、ドローンやロボットの活用も視野に入れているのですね?
相澤 自動車は依然としてモビリティの中心であることは間違いありませんが、ドローンは物流や監視、点検といった分野で、ロボットは配送や介護など、あらゆる分野での活用が期待されています。特に私たちが注目しているのは、ヒューマノイド型のロボットをはじめとする、自律的に動作するロボットの世界です。これらのロボットが社会で活躍する際には、高度な通信ネットワークだけでなく、自律的な動作を支えるAIアルゴリズムが必要となります。自動運転技術で培われた知見は、これらのロボット技術にも応用できると考えています。
――KDDIは、通信とアプリケーションの関係をどのように捉えていますか? スマートフォンのように、通信が下位レイヤーで、アプリケーションが上位レイヤーというイメージでしょうか?
相澤 基本的なイメージとしては、おっしゃるとおり通信が最も下の物理的なレイヤーにあると考えています。 そのうえで、さまざまなアプリケーションが動作するイメージです。ただし、重要なのは必ずしも特定の通信キャリアのネットワークに依存する必要はないということです。 たとえば、Wi-Fiだけでもアプリケーションは利用できますし、状況に応じて最適な通信手段を選択できるマルチパス通信も重要になると考えています。
一方で、特定の用途においては、通信とアプリケーションがより強く結合するケースも出てくると考えています。5Gのネットワークスライシング技術を活用することで、スタジアムのような特定のエリアにおいて、高画質の映像伝送に特化した専用の通信パイプを構築することができます。 これは主にB2Bの領域での活用を想定していますが、高品質・高信頼な通信とアプリケーションを組み合わせることで、新たな価値を提供できると考えています。
グローバル展開は現地の最適環境との連携とIT企業としての成長
――グローバル展開においては、日本国内でのライセンスという強みが活かせない状況もあるかと思います。海外市場におけるKDDIの強みとは何でしょうか?
相澤 日本国内では通信キャリアとしてのライセンスが強みになりますが、グローバルに見るとそうではありません。海外においては、必ずしも自社の通信ネットワークに固執するのではなく、現地の最適な通信環境と連携していくという戦略を取っています。
ヨーロッパでは、オレンジ(Orange)やボーダフォン(Vodafone)といった有力な通信キャリアが存在しますが、私たちは必ずしもこれらのキャリアに依存するのではなく、条件の良い事業者と柔軟に連携していく考えです。特に、自動車のような緊急時の通信が求められるケースでは、単一のキャリアに依存するのではなく、複数の通信経路を確保するマルチパス通信が重要になります。その際、キャリアを意識せずに最適な経路を選択できることが、私たちの強みになると考えています。
また、通信キャリアとしての側面だけでなく、IT企業としての成長を目指していることも、グローバル展開における重要なポイントです。通信は依然として重要な基盤ですが、その上のレイヤー、つまりアプリケーションやプラットフォームの領域を強化していくことで、グローバル市場での競争力を高めていきたいと考えています。
モビリティを活用した新サービス
移動式コンビニの例と自動配送への展望
――MWCのデモでは、移動式コンビニの展示も注目を集めました。これは将来的にKDDIのビジネスとして展開していくことを視野に入れているのでしょうか?
相澤 移動式コンビニのデモは、将来のモビリティを活用した新しいサービスの一例としてご紹介しました。 必ずしも私たちが直接コンビニエンスストア事業に参入するという意味ではありません。むしろ、私たちが目指しているのは、移動式コンビニのような新しいサービスを実現するための基盤を提供することです。自動配送ロボットがオフィスに飲み物を届けたり、郊外の住宅に日用品を届けたりするような世界観を想定しています。
間もなく移動する高輪ゲートウェイのKDDI施設内では、4月から実際に自動配送の実証実験を開始する予定です。こうした実験を通じて、さまざまな課題を洗い出し、解決していくことで、校内から公道、そして将来的にはより広いエリアでの自動配送サービスの実現に貢献していきたいと考えています。
この取り組みは、必ずしもローソンさんとの連携に限ったものではなく、ほかのコンビニエンスストアや小売業者、さらには海外の事業者とも連携できる可能性を秘めています。私たちは、共通の基盤を提供することで、さまざまなパートナーとともに新しい価値を創造していきたいと考えています。
災害時におけるモビリティサービスの機能維持と
都市部と地方、異なるニーズへの対応
――災害時など、通信インフラが使えなくなった場合、これらのモビリティサービスはどのように機能するのでしょうか?
相澤 災害時における通信インフラの途絶は、常に考慮すべき重要な課題です。 基本的には通信に100%依存しないという前提で、システム開発を進めています。自動運転車には遠隔監視が義務付けられる可能性がありますが、通信が途絶した場合でも、車両自体が一定の自律的な判断・制御をできるように設計されると考えています。 また、無線によるソフトウェアアップデートなども、通信が回復した際に迅速にできるように備えています。
常に通信が利用できるとは限らないため、エッジ側(車両やロボットなど)での情報処理能力を高めることが重要になります。
――都市部と地方では、モビリティに対するニーズが異なってくると思いますが、それぞれの地域でどのような取り組みを進めていくのでしょうか?
相澤 たしかに都市部と地方ではモビリティに対するニーズは大きく異なります。都市部では高度な自動運転技術や、効率的なオンデマンド交通システムなどが求められるでしょう。一方、地方では高齢化が進み、買い物に行くのも困難な方が多いため、自動配送のようなラストワンマイルの課題解決がより重要になると考えています。
現在でも、地方では人が運転する車両による配送サービスは存在しますが、自動配送を導入することで、より効率的で持続可能な配送システムを構築できる可能性があります。 地方のほうが、自動配送ロボットが走行しやすい環境であることも考えられます。
将来的には、都市部で培った高度な技術やノウハウを地方に応用したり、逆に地方での実証実験を通じて得られた知見を都市部でのサービス展開に活かしたりといった、相互に連携した取り組みを進めていきたいと考えています。
――KDDIは、自らモビリティサービスを提供するだけでなく、プラットフォームとしての役割も重視しているようですね。
相澤 私たちは、自らすべてのモビリティサービスを提供するのではなく、あらゆる事業者が新しいサービスを開発・展開するための共通基盤を提供するプラットフォーマーとなることを目指しています。自社ですべてを完結させるよりも、パートナーとの連携を通じて、より大きな社会的な貢献を実現できると考えています。
たとえば、スマートフォンの世界ではGoogleのAndroidが共通基盤となることで、さまざまなメーカーが多様なスマートフォンを開発・販売できるようになりました。 モビリティの世界でも、私たちが共通基盤を提供することで、さまざまな事業者が革新的なモビリティサービスを創出できるようにしていきたいと考えています。そのために、AIコンピューティング基盤やグローバル通信プラットフォームといったアセットを強化しています。
V2X(Vehicle-to-Everything)への取り組み
安全性と効率性の向上
――V2X(Vehicle-to-Everything)に関する取り組みについてもお聞かせください。自動車といろいろなものが通信でつながることで、どのようなメリットが期待できるでしょうか?
相澤 V2Xは、自動車の安全性や効率性を向上させるための重要な技術の一つで、交差点での衝突防止などが期待されています。見通しの悪い交差点で、車両と自転車がお互いの存在を検知し、注意を促すといったことが可能になります。KDDIとしても、V2Xの標準化動向を注視し、この分野での貢献を検討しています。特に、安全・安心という観点から、自動車メーカーをはじめとするパートナーとの連携を強化していきたいと考えています。
自動運転においては、V2Xはさらに重要な役割を果たすと考えられます。 車両がほかの車両やインフラと通信することで、より広範囲の情報をリアルタイムに把握し、より安全でスムーズな走行が可能になります。
KDDIモビリティ戦略の展望と注力分野
「つながるモビリティが未来を創る」
――最後に、KDDIのモビリティ戦略全体の展望と、今後の注力分野についてお聞かせください。
相澤 私たちのモビリティ戦略の根幹は、「つながるモビリティが未来を創る」という信念に基づいています。 通信とAIを掛け合わせることで、あらゆるモビリティがつながり、協調し、より安全で効率的で持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
今後は、グローバル通信プラットフォームの拡充、AIコンピューティング基盤の強化、そしてさまざまなパートナーとの連携に注力していきます。特に自動車メーカーとの連携においては、GPU基盤の提供やクローズドループ開発の支援、遠隔監視業務の可能性などを検討していきたいと考えています。また、移動式コンビニをはじめとする、モビリティを活用した新しいサービスの創出にも積極的に取り組んでいきます。
そして、これらの取り組みを通じて得られた知見を、ほかの分野にも展開していくことを目指します。KDDIは通信事業者として培ってきた技術と、新たなAI技術を融合させ、未来のモビリティ社会の実現に向けて、これからも挑戦を続けてまいります。
――大変貴重なお話、ありがとうございました。

この連載の記事
-
第33回
トピックス
uCloudlink、衛星通信対応のモバイルルーターや、5Giルーターのどこでも通信化キットを発表 -
第32回
トピックス
Windowsのような世界へ! 楽天、MWCでOpen RAN戦略とAIスーパーアプリの進化を語る -
第31回
トピックス
ドコモ、OREXとオープンRANでグローバル展開加速! インドネシアとの契約が大きな一歩 -
第30回
トピックス
京セラが通信インフラ事業に本格再参入 スペインからその意気込みを語る -
第29回
スマホ
Orbicがキャタピラーの頑丈スマホを日本の工場で製造&日本展開予定 -
第28回
トピックス
NTTの宇宙ビジネスは成層圏から静止衛星、通信からデータ活用まで全方向 -
第27回
トピックス
MWCの富士通ブースは2nmの次世代プロセッサから、AIソリューションまで最新技術を展示 -
第25回
スマホ
ウワサのMマウント対応レンズ交換式スマホを見てきた! -
第24回
トピックス
KDDIはデータセンターやネットワークの障害対応に生成AIを最大限活用! コンビニの未来化も -
第23回
トピックス
iPhone 16e搭載のApple C1に対する優位もアピール MWCクアルコムブース - この連載の一覧へ