現在の“AI時代”において、ストレージベンダーのNetAppは、自社を“インテリジェント・データ・インフラ”ベンダーと位置付けている。同社CEOのジョージ・クリアン氏は、「AIがロケットなら、データは燃料だ」と、データおよびデータインフラの重要性を強調する。
2025年1月28日、都内で開催されたイベント「NetApp INSIGHT Xtra Tokyo」に出席するため来日したクリアン氏が、1月30日に記者会見を行い、現在のビジョンや戦略を語った。
“インテリジェント・データ・インフラ”とは何か? なぜ必要なのか?
NetAppに入社して14年、CEOに就任して10年目を迎えるクリアン氏。テクノロジー業界をよく知るクリアン氏は、現在を「データとインテリジェンスの時代」と定義する。そこで必要となるのが“インテリジェント・データ・インフラ”だ。
データ管理を巡る進化は、現在「第三の波」を迎えていると、クリアン氏は説明する。第一の波は「デジタル化」、第二の波は「特定のビジネスプロセスにおけるデータの時系列管理」、そして現在の第三の波は「顧客、従業員、パートナー、サプライヤーなど、すべてのデータの統合」という段階に当たる。
「企業が顧客を理解するためには、CRM、発注管理システムなどにある取引データ、さらにメールやビデオ会議、インターネット上にある情報など、あらゆるデータを統合する必要がある」(クリアン氏)
一方で、インテリジェンスの側も進化している。従来は、トランザクションデータの文責にはSQLを、フォームやテキストデータの分析にはOCRをといった具合に、データの種類ごとに分析ツールを用意する必要があった。だが現在は「マシンベースのツールが高度化されたことで、組織内のすべてのデータを分析できるようになった」という。
これを実現するのが“インテリジェント・データ・インフラ”だと説明するが、具体的にはどのようなものなのか。クリアン氏は、次の3つの構成要素を挙げる。
●共通のデータストレージプラットフォーム … あらゆる種類のデータを、どのようなアプリケーションやクラウド環境でも利用できる
●セキュリティとガバナンスの統合 … プライバシー保護、データガバナンス、不正利用の監視などのセキュリティサービスが統合されている
●エコシステムへの統合 … ユーザーが利用するアプリケーションやエコシステムに統合することで、使いやすさを実現する
特に、AIの“燃料”となるデータについては高い品質の担保が必要となるため、データの管理とガバナンスが鍵を握るとする。
AIについては、過去10年にわたってコンピュータビジョン、自然言語処理、不正検知アルゴリズム、レコメンデーションエンジンなどの分野での取り組みを続けてきたという。現在の注力分野としては「高性能インフラの構築」「インテリジェントなデータエンジンの構築とデータインフラへの組み込み」「データ向けのインテリジェントなサービス」の3つを挙げた。
「高性能インフラの構築」とは、GPUなどの新たな技術進化に対応するインフラを指す。たとえば昨年(2024年)秋に開催した年次イベントでは、オールフラッシュストレージ「AFF A90」をNVIDIAのAIサーバーインフラ「DGX SuperPOD」と組み合わせて検証テストを開始すると発表した。
「インテリジェントなデータエンジンの構築とデータインフラへの組み込み」は、データの探索を簡単にするほか、バージョニングの機能を利用して、AIモデルと関連データセットのバージョンをリンクさせることを可能にするという。
「データ向けのインテリジェントなサービス」については、高度なデータ保護機能、メタデータ管理機能、マスキング機能などを実装していることを紹介した。
製品における今後の注力ポイント、日本市場における戦略
NetAppの競合ベンダーとの差別化ポイントのひとつが、AWS、Microsoft、Google Cloudといった、ハイパースケーラーのAIプラットフォームとの連携だ。「自社のデータを安全かつプライベートな環境で、コンプライアンスを担保した形で活用できる」とクリアン氏はメリットを説明する。
また、AIエンジンのアルゴリズムを補完するために必要となるデータマネジメントの機能、機密データのマスキング、生成AIに企業のデータを組み合わせる作業を簡単にする機能などに取り組んでいることも明かした。
製品側では「エンタープライズストレージ」「クラウドストレージ」「サイバーレジリエンス」「AI関連」を今後の注力ポイントとする。
特に、エンタープライズストレージでは、新たに展開した高性能、高密度、エネルギー効率に優れたオールフラッシュストレージの強化を継続する。「我々はオールフラッシュで高い市場シェアをとっているが、これをさらに伸ばしていく」(クリアン氏)。
クラウドストレージでは、主要クラウドにおいて幅広い価格帯で展開していくという。Google Cloudの「BigQuery」「Vertex AI」、Microsoft Azureの「OpenAI」、AWSの「Amazon Bedrock」「Amazon SageMaker」など、各社のAIプラットフォームとの統合に触れた。「NetApp史上最も速いペースで技術革新を進めている」とクリアン氏。
日本市場については、「世界で最も成長率が高いアジア地域において鍵を握る市場」と述べ、新規開拓にも前向きな姿勢を見せた。日本法人を統括する代表執行役社長の中島シハブ・ドゥグラ氏は、注力分野として「データの増加に伴うエネルギーやデータセンター不足」「データを活用したイノベーション」「サイバーレジリエンス」を挙げた。
クリアン氏は最後に、「データとインテリジェンスの時代で成功するためには、自社のビジネスを深く理解する必要がある。そして、すべてのデータを統合していく能力が求められる。顧客がこれを達成するのを、NetAppはインテリジェント・データ・インフラを通じて支援する」と述べた。










