政府が、半導体と人工知能(AI)分野に「10兆円以上」を支援する方針を決めた。
2024年11月11日に開かれた特別国会で、石破茂氏があらためて首相に選出された。その日の記者会見で石破首相は、2030年までにAI・半導体分野に対して10兆円以上を支援し、今後10年間で、官民合わせて50兆円を超える投資を創出するとの考えを明らかにしている。11月中に取りまとめる経済対策に盛り込む方針だ。
11日の記者会見は、新首相の就任会見という位置づけだけに、石破首相はほとんど具体的な中身に踏み込んでいない。ざっくり「10兆円」で半導体とAIを支援するという大方針を示しただけだ。ただ、会見の内容を報じた日本経済新聞ははっきりと、「ラピダス(Rapidus)念頭」という見出しをつけた。
翌12日には、武藤容治経済産業大臣の記者会見があった。武藤氏は「半導体は別にラピダスに限っているわけじゃなくて、次世代半導体市場として、これからどう我々が考えていくかという形でのプロセスになっていくのだろうと思います」と述べ、やはり具体的な内容には踏み込まなかった。中身については、これから本格的に検討するというところだが、あらためて、日本政府の半導体政策の現在の姿を確認したい。
公的支援頼みの先端半導体開発
現在、国がもっとも力を入れているのは、2022年8月に設立されたラピダスへの支援だ。同社は、キオクシア、ソニー、ソフトバンク、トヨタ自動車などが出資した半導体メーカーだ。日本を代表する大企業8社と個人による出資の総額は2022年11月の時点で、約73億円とされている。
同社が目指すのは、2ナノメートル(ナノ:10億分の1)の先端半導体の量産化だ。経済産業省が公表している資料によれば、同社は、2027年の事業化を目指している。政府はすでに、ラピダスに対して異例なほどに手厚い支援を提供している。2022年度から2024年度の3会計年度で、ラピダスの次世代半導体の研究開発に対して、総額9200億円規模の支援を決めている。
すでに1兆円近い公的資金が投じられたことになるが、2ナノ半導体の実現には、さらに多額の資金が必要になる。10月29日のNHK北海道は、「追加で4兆円の資金が必要と見込まれるなど、さらなる資金調達が課題」と報じている。
10月18日の日本経済新聞によれば、設立時に出資した8社すべてが追加出資に応じる意向で、総額1000億円程度の出資を見込んでいるという。さらに、メガバンク3行と日本政策投資銀行が250億円程度を出資するという。
本稿執筆時点までの報道を総合すると、ラピダスの資金は、民間企業による出資と政府支援を合計しても1兆円を少し超える程度になる。必要とされる5兆円程度の資金には遠く及ばない。石破首相が、総選挙後に首相に再選されて最初に打ち出した「10兆円以上」の公的支援のうち、大部分がラピダスの「2ナノ実現」への追加支援だと考えて間違いないだろう。
2ナノの現実味は
実際、経産省プラス大企業の「日本勢」による、2ナノ半導体の開発プロジェクトはどの程度の実現性があるのだろうか。2023年6月に経済産業省が公表した「半導体・デジタル産業戦略」という文書が参考になる。この文書に掲載されている2022年の実績値で、日本は40ナノメートルから90ナノメートルの半導体製造で約18%のシェアがある。この分野の半導体は、最先端ではないものの成熟し、安定性が求められる自動車や家電製品などの用途に使われることが多い。
一方で、最先端の9ナノメートル以下の半導体は、台湾、韓国、米国、アイルランドの4カ国のみで製造されている。この分野では、台湾が60%と圧倒的なシェアを占め、韓国(24%)と米国(16%)が追っている。おおむね、台湾積体電路製造(TSMC)とサムスンが競い合っている分野と理解していいだろう。用途として分かりやすいのは、アップルのMシリーズのチップや、AMDのRyzenシリーズが5ナノ半導体を採用している点ではないか。
要するに、選ばれし限られた企業のみが量産化に成功している先端半導体に、「これからがんばって参入します」というのが、ラピダスの現在地だ。多額の公費を投じている経産省はどう思っているのだろうか。経産省商務情報政策局の野原諭局長が、同省のオウンドメディア「METI Journal」の3月8日付の記事でインタビューを受け、次のように述べている。
「世界の大手半導体事業者も、まだ2nmについては量産できていません。大変チャレンジングな技術課題であるのは確かですが、ラピダスで十分実現可能であるとみています」
残る「博打」感
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