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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第295回

マイナンバーカードの用途拡大、本当に大丈夫か

2024年08月06日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 マイナンバーカードの使い道が拡大している。

 2024年8月には、国家資格を持っている人がマイナカードを「デジタル資格者証」として使えるようになった。8月以降順次、医師、看護師、調理師、美容師、社会保険労務士、行政書士など計84資格をマイナンバーとひもづけることができるようになる。国家資格を取得すると、「資格者証」というカードが交付されることが多いが、こうした資格者証をマイナンバーカードに統合できることになる。

 4月には、金融機関で新たに口座を開設すると、窓口の担当者が「口座とマイナンバーを紐づけますか?」と意思確認をする制度がはじまっている。12月には健康保険証とマイナカードが一体化される。さらに2024年度中(2025年3月末まで)に運転免許証とマイナカードの一体化も予定されている。

 端的に言って、あらゆる情報がマイナンバーカードに集約されることで、個人もある程度便利になると期待できるが、いまだに「本当に大丈夫か」という思いも残る。筆者の感覚は古いのだろうか。

国家資格の資格者証

 国家資格の資格者証とマイナカードの一体化を取り上げたニュースを読んでいて、飛行機で急病人が出た場面が頭に浮かんだ。ドラマや映画で見たことのある人が多いだろう。客室乗務員が「お医者様はいらっしゃいますか」と呼びかける場面だ。

 現実にこうした事態が起きたとき、医師は周囲に有資格者であることを示すため、財布から医師資格証を取り出して見せるかもしれない。これがマイナカードに代替されることになるのだが、マイナカードには「医師資格証」というわかりやすい表記はない。スマホでカードを読み込み、本人が暗証番号を入力してはじめて、医師であるとの情報が端末に表示されることになる。急病人が目の前にいるのに、丁寧な本人確認を行っているヒマはない。

 いまのところ資格者証の一体化のリストに弁護士は含まれていないが、仮に弁護士の資格者証もマイナカードに一体化されたとしよう。警察に逮捕された被疑者と接見するため、弁護士は警察を訪問するが、資格者証の提示を求められる場面があるだろう。これまでは資格者証を見せれば済んでいたのに、マイナカードをリーダーに読み込ませ、暗証番号を入力することになるかもしれない。

 医師、弁護士の事例はいずれも今のところ、おおむね筆者の妄想だが、制度が実施された後、「紙の方が早い!」という声が、様々な有資格者から出てくる気がしてならない。

情報統合とリスクの拡大

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