こんにゃく料理研究家・和田久美さん/横浜っ子が京都の老舗店に嫁いで見つけた「料理家」という天職

文●山野井春絵

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メゾンブランド勤務の後、湘南でアパレルユニットを展開して人気を集めていた和田久美さん。老舗こんにゃく店の女将として京都へ、現在は唯一無二の「こんにゃく料理研究家」として関西を中心にメディアでも活躍している。結婚当初はまったく想像もしていなかった現状に、「不思議な縁に導かれた」と話す。和田さんのライフシフトのきっかけとは。

こんにゃくを使ったアイデア料理を提案する和田久美さんは横浜&湘南育ち。はじめは京都で言葉と文化の壁に苦しんだというが、「今は京都が居心地いい。心から好きな街です」。
©山田愛弓

「こんにゃくは買わない食材」の一言に奮起

神奈川県出身の和田久美さん。長くアパレル業界で働いていたが、結婚した相手は、都の中央卸売市場にある老舗こんにゃく店を継いだ3代目だった。

料理が大好きだった和田さんは、家業を手伝うかたわら、レストランや加工業のキッチンで働き、有名シェフや発酵料理研究家らと交流を深めていく。自宅では、毎日店のこんにゃくを使って、さまざまな料理を作っていた。

「私にとってこんにゃくはいつも身近な食材で、あって当たり前の存在でした。ところがある時、ママ友たちと話していたら、『こんにゃくはわざわざ買わない食材』という一言を聞いて。『和食で何かに入っていたらふつうに食べるけど、料理のバリエーションがないから、自分では買ったことがない』と言われて、もうびっくり。そこから、こんにゃくのおいしさをもっと知ってもらうためには、どんな料理をしたらいいのかと考えるようになりました」

料理本やネットで調べ、既存のこんにゃくレシピをいろいろ試してもみたが、今ひとつピンとくるものがない。オリジナルの試作を繰り返している間に、切り方やゆで方など、下準備にひと手間加えることで、和食だけでなく、あらゆる料理に展開できる可能性を見つけていったという。

冷麺を糸こんにゃくで。こんにゃくとは思えないほど満足感のある一品。

京都の有名料理店で使われている「和田商店」のこんにゃく。市販はされていないが、料理教室では特別に販売もしている。©山田愛弓

ふつうの主婦から、「こんにゃく料理研究家」へ

こんにゃくは煮物や炒め物というイメージを一新したかった、という和田さん。開発したレシピには、こんにゃくの唐揚げ、ドライカレー、パエリヤ、さらにスイーツなど、和洋中、驚くほどのバリエーションがある。その味が評判をよび、あちこちから料理教室を開いてほしいという声がかかるようになった。

「あるとき、友人のライターから、『WEB記事で紹介したいので、こんにゃくレシピを提供してほしい』と依頼されました。それが初めてのメディアの仕事です。彼女は私のプロフィールに『こんにゃく料理研究家・和田久美』と書いて、『あなたは今日からこんにゃく料理研究家だよ』と太鼓判を押してくれたんです。そこからですね、そうか、私は一つの肩書きを持ったんだ、と襟を正して仕事に取り組むようになったのは」

今は百貨店の文化サロンで毎月レッスンを持っているほか、不定期で出張料理教室を開催し、キャンセル待ちが出るほどの人気ぶりだ。また、ラジオやテレビの情報番組にも出演して、その名は広く知られるように。

最近は、江戸時代の料理本『蒟蒻百珍』の再現や、昔から伝わる地方の郷土料理にも注目して、こんにゃく料理の幅をさらに広げようとしている。

「こんにゃくは下処理、切り方によって無限の可能性があると思います。まだまだ新しい味を探していきたい」と和田さん。©山田愛弓

こんにゃくが結んだ不思議な縁に導かれて

アパレルの仕事が長かった和田さんだが、料理研究家になる未来を想像したことはあっただろうか?

「まったく、想像もしていませんでした(笑)。でも実は、私の亡くなった母は、群馬県出身で、こんにゃくの粉屋さんの娘なんです。実家にはいつも冷蔵庫にこんにゃくがあって、小学生の時自由研究で『こんにゃくの作り方』を発表したこともありました。だからこんにゃくとは、切っても切れない不思議なご縁があったのかな、と思います」

プライベートでは3人の子のお母さん。子育てと家事をこなしながら、撮影や教室があれば日帰りで東京に行くなど、とにかくバイタリティがある。はじめはなかなか慣れることができなかったという京都での生活も、すっかり馴染み、たくさんの友人たちにも恵まれた。

「人生は、何が起こるかわかりません。でも、流れに逆らうことなく、身をまかせてみる。そしてチャンスがきたら、逃さずに。いつも前を見て、楽しみながら進んでいきたいなと考えています」

こんにゃくで作る前菜。シンプルな食材だからこそ、さまざまな料理へと変化する。
©山田愛弓

Profile:和田久美さん

わだ・くみ/こんにゃく料理研究家、京都の老舗こんにゃく店「和田商店」女将。1974年、横浜生まれ。ラグジュアリーブランドの販売員として10年勤務。京都の中央卸売市場にある老舗こんにゃく店に嫁ぐ。レストランや惣菜の工房など、さまざまな飲食業でも働きながら料理を学び、こんにゃくレシピを独自で開発するようになる。2018年から料理教室をスタート。現在は、こんにゃく料理研究家として、テレビやラジオでも活躍。

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