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3Dプリンターだからできたハイエンドヘッドホン

KuraDaの新機軸ヘッドホン「KD-Q1」発売、超軽い本体と軽快なサウンドの両立が魅力!!

2024年07月19日 08時00分更新

文● ASCII

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側圧の軽さがポイント、軽量な本体だからできた

 2番目のポイントとなる音響設計は、ドライバー、イヤーパッド、筐体設計の3点がポイントとなる。

 音質の肝となるUltra-Responsive Diaphragmは、PET素材の振動板を薄く仕上げ、OFCボイスコイルで駆動する方式だ。もともとはKD-P1用に開発したもので、ハウジングによる音響調整ができない全開放型のヘッドホンでもしっかりとした低域を出すためには、ユニットから新しく開発しなければならないと考えたことがきっかけだという。低域が減衰しない点に特に配慮し、裸特性の高いドライバーを作れた。

 低域が出せる技術的な理由としては、まず53mmと大口径で振動板の面積を広く取っていること、さらにf0の値を下げるために振動板自体の質量を上げて共振周波数を低くすること、ただし振動板を重くしてしまうとレスポンスが悪くなる原因となるため、CCAWよりも伝導率の高いOFCのボイスコイルを用いることで重さによる悪影響を排除するようにしている。振動の弾性設定を、厚みと質量のバランスを取って最適化した形だ。低域が深く沈みこむとともに、応答性の高さも確保した性能の高いドライバーに仕上げた。KD-Q1のドライバーもこれをベースにしている。背面フィルターの処理などは異なるが、膜厚、形状、コイルなどユニット自体の仕様は同一だという。

 3次元形状立体縫製イヤーパッドは、3次元カットしたウレタンを立体縫製のプロテインレザーで包んで作られている。イヤーパッドには耳の周辺の頭部にピッタリとフィットし安定性や快適性を確保するとともに、耳と振動板の間にある空間を密閉し、適切な圧力の伝搬をする空気室を作る“音響特性維持”の役割もある。

 特に耳の後ろ側は空気が漏れやすいので、適切な形状の追い込みが不可欠だ。KD-Q1ではこの課題に応えるため、特に耳たぶの後ろあたりを高くする3次元的な形状を作り、エアー抜けを防ぐ構造にしている。結果、設置厚が均一になるため、装着性も優れている。これらの改善について飯田氏は「これまでのKuraDa製ヘッドホンを超えるブレイクスルーになった部分だ」と自信を示す。

 最後の筐体設計には、いろいろな要素が絡むが、特に重視したのは側圧の軽さだ。そのためにはヘッドホン自体の重量を軽くする必要がある。ヘッドホンが重いと自重を支えるために両サイドがから強い力を加えなくてはならず、側圧が高くなる。結果、長時間の利用が負担になったり、装着時にイヤーパッドが変形するといった弊害を招きやすい。つまり、装着の快適性の面でも、音質(密閉度)の面でも重要なポイントになるということだだ。KD-Q1では3Dプリンターを使用した複雑な構造を追い込めるということもあり、音響透過性ダンパーを吟味。耳の前、ユニットの背面の圧力の伝わり方を整え、振動板のピストンモーションを最適化したという。

 結果、周波数特性はフラットで低域もしっかりと出るようにできた。インピーダンス特性もきれいな測定結果で、インピーダンスもほとんどの周波数帯で均一(インピーダンス変動が少ない)。位相変化がしにくい優れた特性となっている。

オーディオ・ビジュアル評論家、麻倉怜士氏の感想

 発表会にゲストして招かれたオーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏は「最初にびっくりしたのは軽さ。重そうな見た目に反して、飛ぶように軽い。質感も良く、爽やかに耳にフィットする。こうした物理的な良さに気に入った」とコメント。

KD-Q1

麻倉怜士氏

 KD-Q1では、音像間をチェックするため自身のレーベル(UAレコード)で録音した女性ボーカル曲(情家みえ『エトレーヌ』)、音場感を知るため、オーケストラ作品(ドゥダメル指揮、ロサンゼルスフィルの『くるみ割り人形』)を試聴したそうだが、音の面でも好印象を持ったようだ。例えば、エトレーヌの1曲目「チーク・トゥ・チーク」では、ベースが奏でるF、Dm、Gm、C7の主音が量感深く、切れ良く聞こえる。ベースの音階がハッキリわかるのはいいオーディオ機器の条件のひとつだが、それが明確に聴こえ、「すごくよく分かる」と大絶賛。

 この楽曲はピアノとボーカルの掛け合いも見事。冒頭「ヘブン……」と始まって少し休み、そこにオブリガードが入って、またボーカルが入る。このピアノ伴奏による引き立ては現場のスタジオで目の当たりにしたが、その感じが非常に良く出ていたとする。一方で、ピアノがソロを取る際にはピアニスト(Tsuyoshi Yamamoto)自らの世界の表現、リリックで抒情的な部分が良く伝わってくるとした。つまり、バイプレーヤーとしての実力、そして自身が前に出る際のテクニックと表現力の両方を存分に味わえたということだろう。

 もちろんボーカルの明瞭感も素晴らしく、情家みえの声が持つ情感と感情表現が伝わってきたとする。麻倉氏は「ここには微小信号の立ち上がり、立下りの再現がないとダメ。そこが優れているところ」とし、「単に物理的な軽いだけではなく、音楽が軽妙に気持ちよく流れてくると思った」と述べた。

 一方、オーケストラ作品はウォルト・ディズニー・コンサートホールでの演奏を収録したライブ作品となるが、響きに加えてディティールも出ている素晴らしい録音。その録音が持つ「オーケストラ演奏の響き、ソノリティ、潤いをすごく感じられた」とし、「感情の広さ、オケの音像、奥行き感が感じられる」と表現した。花のワルツの冒頭では、隣り合った場所に座るトランペットとホルンの音の位置関係、そしてその音が左側の壁に反射してホールに広がるさまなどが非常に良く伝わってきたという。

 こうした試聴体験を踏まえ、麻倉氏はKD-Q1の魅力を3つの言葉でまとめた。第1に質感がとてもナチュラルでいい意味での中庸性があること。特に清潔な感じのする音で、作為性のある音作りや「これを聴け」という押し付け感がない。第2に時間的なレスポンスがすごくいいこと。情家みえさんのチーク・トゥ・チークのベースで感じたように、低域の立ち上がりがよく、立下りも鋭い。これには内部損失などオーディオ的な特性も絡んでいるが、それが音楽的な表現として出ている。最後が微小信号がすごくよく出ること。これは見通し感や感情に影響する要素。大振幅はもちろん出るが、微小信号もしっかり再現できる。

 これらの内容をまとめて麻倉氏は「音楽に長時間浸れるヘッドホンである」とKD-Q1を評価した。

 これに記者としての感想を少し加えるなら、全体にとがり感がなく滑らかな音のつながり。高域のとがりや特定の周波数帯の強調、歪み感などがほぼなくスッキリと爽快感を感じる音調。そして開放型ながら十分な量感の低域が出る点などが魅力に感じた。

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