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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第290回

LINEヤフー「資本関係の見直し」は難航必至

2024年07月02日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 この数年、日本の大企業のサイバーセキュリティのぜい弱性が次々に明らかになっている。最近では、出版大手KADOKAWAの大規模なシステム障害と取引先などの情報流出で、サービスの停止を含む大きな影響が出た。

 2024年6月28日には、LINEを運営するLINEヤフーが、約52万件の個人情報が流出した事案の再発防止策として、韓国のNAVERとのシステム分離を2026年3月に前倒しする計画を個人情報保護委員会に報告した。

 LINEは、2024年3月末時点で月間9700万人が利用する、日本国内でもっとも重要な情報インフラの1つだ。それだけに、LINEヤフーがどのように再発防止策を進めていくかについては、政府からも注視されている。ただ、再発防止策のうち進ちょくが各方面の注目を集める課題については、いまのところ具体的な動きは見えてこない。LINEヤフーの親会社にあたる、NAVERとの資本関係の見直しだ。

3ヵ月に1回の定期報告

 今回、LINEヤフーが発表した計画の柱はシステムの分離の前倒しだ。現在、LINEヤフーのシステムはNAVERや、関連会社NAVER Cloudとシステムを接続している。当初、こうした「ネットワーク的なつながり」は2026年末までに分離を完了させる計画だったが、新たな計画では、9ヵ月ほど前倒しして2026年3月末までに分離を完了させるという。また、LINEヤフーと、NAVERやNAVER Cloudは業務を委託する関係にあるが、最短で2025年12月末までに委託関係を終了させるとしている。

 こうした措置はいずれも、総務省と個人情報保護委員会からの指導や勧告に対して、LINEヤフーが打ち出した対応だ。総務省はLINEヤフーに対し、2024年4月1日を起点に四半期ごとに、再発防止策の進ちょくを報告するよう求めている。このため、LINEヤフーは6月28日に個人情報保護委員会、7月1日に総務省に進ちょくを報告している。3ヵ月に1度の定期報告であると考えると、次回は9月末から10月初めにかけて、再び同社の進ちょく報告が明らかにされるだろう。

最大の課題「資本関係の見直し」は難航必至

 総務省が求める再発防止策の中で、もっともハードルが高いのが、NAVERとの資本関係の見直しだ。連載第283回「LINEヤフーの情報漏えいで、日韓関係にヒビ?」でも紹介したが、LINEヤフーとNAVER、ソフトバンクの資本関係は、少し複雑だ。LINEヤフーの親会社として中間持株会社にあたる「Aホールディングス」がある。AホールディングスがLINEヤフーの6割超の株を保有し、ソフトバンクとNAVERがAホールディングスの株を50%ずつ持ち合う関係だ。

 総務省は、LINEヤフーとNAVERがこれまで、子会社が親会社に仕事を発注する関係にあったため、業務の委託先の仕事ぶりを適切に管理できない、いびつな関係であったと指摘している。このため、ソフトバンクとLINEヤフーは、NAVERからソフトバンクに資本を移動し、ソフトバンクが経営権の過半数を握りたいとの意向をNAVER側に要請している。

 しかし、韓国側のメディアや世論の受け止めから、この問題は極めて複雑になっている。韓国側は、もともと韓国のスタートアップとして誕生したLINEの株式を、韓国のNAVERが保有し続けるのは当然だと考えているようだ。

 これに対して、日本政府側の立ち位置は、次のようなものだ。日本政府は、月間約9700万人が利用するLINEは、欠くことのできない日本の情報インフラだと考えている。多くの国の機関や地方自治体も、情報発信にLINEを利用している。安全保障の観点からも、開発と管理を日本で行うことのできる態勢を整備する必要がある。

 日本側は、ソフトバンクが経営の過半数を握ることが必要と考えているが、韓国側は日本政府の意向を受けたソフトバンクがLINEを「侵奪」しようとしていると受け止めている。韓国の首都ソウルにある日本大使館前では、「侵奪」に抗議する集会まで開かれている。

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