音を知る企業による自社ブランドの第一弾製品
一生使いたいヘッドホンを見つけた。その名は「The Industrial-ist Wired」だ!
2024年05月18日 11時00分更新
パッケージは「レギュラーパッケージ」と「ビーガンパッケージ」の2種類。それぞれの違いは付属するイヤーパッドにある。
「Layfic Toneオリジナルイヤーパッド」はパッケージを問わず同梱するが、レギュラーパッケージにはDekoni Audio製のパンチ加工されたシープレザー(羊の本革)製のものが、ビーガンパッケージにはDekoni Audio製のベロアタイプがそれぞれ付属している。
高級路線というよりも、必然的なハイエンド
使われている素材も、スペック的にも、“いかにもハイエンド”といった様相だが、プロ仕様をうたいながら、本物のカーボンやグレードの高いアルミといったコストのかかる素材を外装に使っている点が“実は”ユニークだと思う。
……どういうことかというと、プロの現場におけるヘッドホンは、一般的なリスニング用途と比較して使用する時間が著しく長いし、使い方もハードになりがち。そんな使い方の中で、長期にわたって変わらないパフォーマンスを発揮できるかどうかが、音質と同じかそれ以上に重要な指標になる。
したがって、いくら音質にいい影響があったとしても耐用年数を下げる仕様は製品の評価を落とし兼ねないし、開発時には(故障時の換装の費用など)長期的にかかるコストを考慮に入れる必要がある。結果、最高の素材よりもコストパフォーマンスに優れた素材が選定されることもある。
プロ向けといってもさまざま、スタジオの資金力もさまざまだから、高価な素材をふんだんに使っているハイエンドな製品も存在する。だが、平均的なプロの現場で普及している多くの製品は、単に品質が高いだけでなく、品質と価格のバランスが取れていて、壊れても直しやすく、買い換えやすく、手に入りやすく、どちらかというと素材というよりは設計に特徴があるケースが多いといえるだろう。
長くなったが、上述のようなことを熟知している企業が自社の製品に採用するのは、音質と堅牢性、両方のメリットを追求した結果、必然的に選定された素材であると推測できるし、それらが、比較的コストのかかる素材たちである点がおもしろい。
ようやく価格に触れると、The Industrial-ist WIREDの実売価格は16万9800円である。高級機には違いないが、仕様と比較して考えてみるとどうだろう? 私は今回、先入観を持たないために価格を見る前に実物に触れ、予想を立ててから実売価格を調べたが、予想を大きく下回っていた。
というのも、いつからかプロ向けで、かつオーディオファイルの購入も想定したイヤホンやヘッドホンの価格は上昇傾向にあって、ここ数年では、数十万円という価格の製品もたくさん見られるようになっているからだ。そういう事情もあって、直感的には「30万円くらいじゃないかな?」と私は思った。というわけで、The Industrial-ist WIREDの価格は、仕様の割には比較的抑え気味だと感じる。
というか正直なところ、なぜこの価格なんだろう?(もっと高くしても不自然ではないのでは?) と思った。
なので、同社の開発担当者に「使われている素材とはスペックの割には、販売価格は抑えられているような気がしますが」と伝えてみた。そうしたところ、「この仕様でこの価格というのはなかなかないと思います。主に理由はふたつで、これ以上高くすると、スタジオに導入してもらいにくくなるということ。もうひとつは、(大手でなく)このブランドだからこそ実現できることを考えた結果、惜しみなく高い品質を追求して、価格面でも頑張るという選択が自然でした」と教えてくれた。
「相場から考えれば、やや価格が抑えられている」という感想は、大きく誤ってはいないようだ。