自然言語によるクエリや分析が可能、経営層や部門リーダー層をターゲットに提供
テラスカイが「mitoco AI」提供開始、生成AIがSalesforceやERPの情報を使い回答
2024年04月09日 15時00分更新
テラスカイは2024年4月9日、生成AI技術を用いた新たなクラウドサービス「mitoco AI(ミトコ エーアイ)」の提供を開始した。
提供開始時点(Ver.1.0)では、Salesforceに格納された自社保有データ(標準オブジェクト、カスタムオブジェクト)から、自然言語によるユーザーの質問に応じた適切な回答を行う。Salesforce Platform上に構築された同社のERP「mitoco ERP」や、グループウェア「mitoco」などからも横断的なデータ取得が可能。経営層や経営企画/営業/財務の部門長といった層をメインターゲットに据えている。
生成AIの実行環境には「Azure OpenAI Service」を採用しており、さらにSalesforceに格納された業務データは生成AIに渡さない仕組みをとっているため、同社では「セキュリティ面での懸念がなく、安心して利用できる」としている。
Salesforceやmitoco ERPなど、業務システムの情報を生成AIが質問応答
mitoco AIは、生成AI技術を用いたチャットボット形式のAIアシスタント。自然言語によるユーザーの質問に対して、業務システムに格納されたデータから適切な情報を回答する。回答内容に応じて、テキスト形式だけでなく表形式やグラフ形式での回答が可能だ。
Salesforce Platform上に構築されており、「Sales Cloud」のようなSalesforce製品だけでなく、mitoco ERPやmitoco、サプライチェーン管理の「Fujitsu GLOVIA OM」といった業務システムにあるデータにもアクセスし、回答することが可能だ。
テラスカイ 取締役専務執行役員 製品事業ユニット長の山田 誠氏は、mitoco AIの特徴としていくつかのポイントを挙げて説明した。
大きな特徴は、Salesforceのオブジェクト(データベースのレイアウトや構造、シナリオ)を自動的に学習し、すぐに利用がスタートできる点だ。Salesforce製品が標準で備えるオブジェクトだけでなく、mitoco ERPやmitocoなどが使用するカスタムオブジェクトにも対応している。
「mitoco AIをインストールしたら、使いたい(オブジェクトの)項目のチェックボックスにチェックを入れるだけで、あとは生成AIがその項目に対する質問に回答をしてくれる。設定が非常に簡単で、生成AIを使うまでのスピードが圧倒的に速い」(山田氏)
また、mitoco AIはSalesforce Platform上に構築されているため、マーケットプレイスの「Salesforce AppExchange」で提供されているサードパーティ製業務アプリケーションにあるデータも自然言語で呼び出すことができる。
そのほか、UIがシンプルであり直感的に操作ができる点、mitoco AIの回答を“お気に入り”に保存したりCSVファイルとして出力したりできる点、Salesforceのデータアクセス権限設定が適用されるため機密情報などが保護できる点、日本語以外の言語(多言語)にも対応している点なども紹介した。
なお、生成AIは質問の文脈(コンテキスト)も把握しており、たとえばある回答に対して「○○の条件でさらに絞り込んで」といったかたちで質問を続けることもできる。
山田氏は、自然言語による問い合わせだけで必要な情報を柔軟に引き出せるmitoco AIは、Salesforceやmitoco ERPの操作に習熟したスキルの高いユーザーよりも、経営層や経営企画/営業/財務などの部門長をターゲットユーザーとしていると説明した。
また、実際に導入プロジェクトを開始している事例として、Salesforceにある取引先情報、商談データ、さらにサードパーティデータである企業情報を組み合わせて、mitoco AIが見込み顧客のアタックリストを抽出する用途での利用が検討されていると語った。
生成AIには業務データを与えないアーキテクチャを採用
前述したとおり、mitoco AIはAzure OpenAI Serviceを利用して構築されている。ただし、Salesforceオブジェクトに含まれるデータは、生成AIには渡さずに処理を行う仕組みだ。テラスカイ AI・LINE開発部 部長でプリンシパルスペシャリストの岩井哲郎氏が、そのアーキテクチャを説明した。
岩井氏は、mitoco AI側に構築された「オーケストレーター」の仕組みがポイントだと語る。オーケストレーターには、さまざまな目的に対応したプロンプトやデータの前処理/後処理を定義した「プラグイン」が用意されている。オーケストレーターは、このプラグインをどう組み合わせればユーザーのリクエストに応えられるかという「実行計画」を自律的に作成したうえで、Azure上の生成AIにSOQL(Salesforce Object Query Language、Salesforceのクエリ言語)の生成を指示する。あとは、生成AIが出力したSQQLに基づいてSalesforce Platformでクエリを実行し、出力された結果をユーザーへの回答とする――といった流れだ。
「(Azure側の)生成AIに対しては、あくまでもクエリ(SOQL)の生成や分析用のPythonのコーディングといった部分だけでリクエストを送っており、戻ってきた結果を実行するのはオーケストレーター側。したがって現状では、生成AIに(Salesforceオブジェクトにある)データを渡すことはしていない」(岩井氏)
なお、今回リリースされたVer.1.0に続いて、今年(2024年)10月にはVer.2.0を、また来年(2025年)移行にはVer.3.0を順次リリースしていく計画。
mitoco ERPなどにあるデータは、Ver.1.0でも単純に参照することはできるが、Ver.2.0では、たとえば会計独特の用語などを学習させることで連携を強化するなど「よりビジネスシナリオとして強化していく」(山田氏)と説明した。また、Salesforceオブジェクトにある情報だけでなく、社内規定文書や製品マニュアル、契約書といったファイルや、外部APIをコールして取得した情報を回答に用いる「RAG対応」も、Ver.2.0で実装予定としている。
mitoco AIの利用ライセンスは月額制となっており、50万円(1社、30ユーザー)から。オプションサービスとして、初期導入支援や導入後の定着化支援なども提供する。導入目標として「2029年までの5年間で300社の導入を目指す」としている。