CRMアプリケーション間をまたぐ対話型AIは今夏以降に日本展開
セールスフォース、生成AIの顧客データ活用を支える「Einstein 1 Platform」強化を着々と
2024年03月25日 07時00分更新
セールスフォース・ジャパンは、2024年3月15日、企業の生成AI活用支援の最新動向に関する説明会を開催した。
同社は、2023年12月から順次“Customer 360”の各CRMアプリケーションにおける生成AI機能を日本市場で投入してきた。加えて今年(2024年)3月には、BIツールのTableauでAIを通じたインサイトを自然言語で提供する「Tableau Pulse」を、4月にはSlackで生成AI機能を展開予定だ。
3月8日には、CRMアプリケーションの生成AI機能をカスタマイズするためのローコードのツールセット「Einstein 1 Studio」を日本市場で提供開始した。プロンプトをカスタマイズできる「プロンプトビルダー」や、ユースケースに合わせて大規模言語モデル(LLM)を選択できる「モデルビルダー」といった機能が利用可能だ。
セールスフォース・ジャパンの専務執行役員 製品統括本部 統括本部長である三戸篤氏は、「セールスフォースの歴史を振り返ると、まずアプリケーションとして機能を展開して、それをプラットフォームとしても提供し、ユーザー自身にもアプリケーションを作ってもらうという流れをとってきた。生成AIでも同様に、アプリケーションにAI機能を搭載して、さらに業務で利用できるプラットフォームとして展開する流れを踏む」と説明する。
企業内コンテンツや顧客データをすべてのプロンプトにグラウンディング
セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 プロダクトマーケティングシニアディレクターである松尾吏氏は、ここ一年の企業の生成AI活用におけるヒヤリングを踏まえて、「企業が生成AIを使用するためには、日常的に業務の中で使えなければいけない」と語る。
CRMの場合でいうと、日々の業務の中で利用でき、さらには自社のデータが反映され、自社のブランドにも配慮がなされ、自社に最適化された生成AIであること。そして、それが安全性や信頼性の中で利用できることが理想だと松尾氏は説明する。
一方で、実際の企業では、営業やカスタマーサポート向けなどアプリケーションが分断された中で、それぞれで生成AIが利用され、企業データも別々のデータ基盤に格納されている。「この中でさらに安全性や信頼性も踏まえて、日々のワークフローに生成AIを統合していかなくてはいけない」と松尾氏。
企業の生成AI活用におけるこうした課題に応えるのが、セールスフォースのAI活用のためのプラットフォーム「Einstein 1 Platform」だという。企業が持つ顧客に関わるデータを、独自の顧客データプラットフォーム(CDP)である「Data Cloud」に蓄積。そのデータを営業やカスタマーサポート、マーケティングなどの顧客接点のアプリケーションを利用する中で、自然に生成AIで活用できる。
その裏側にはData Cloudに蓄積された顧客データがあり、さらに、信頼性を確保した上でAIモデルを利用できる「Einstein Trust Layer」というレイヤーが支える。
Einstein 1 Platformにおける生成AI活用の特徴は、このようにData Cloudに蓄積された顧客データや企業内のコンテンツを、グラウンディング(生成AIに根拠づけとして特定の知識や情報を与えること)の処理によって、各CRMアプリケーションをまたぐすべてのプロンプトに反映させることだという。
対話型AI機能の「Einstein Copilot」を2024年夏より提供
CRMアプリケーションで提供する生成AI機能は、業務内でシームレスに利用できる“組み込み型AI”と、自然言語で支援を依頼できる“対話型AI”の双方で実装される。
組み込み型AIとして、日本市場では現在、営業向けのSales Cloudで「セールスメール」や「通話サマリー」「通話探索」の機能を、サービス向けのService Cloudで「サービス返信」と「会話サマリー」の機能を展開中だ。
今後も、Sales CloudやService Cloudに生成AI機能が追加され、マーケティングやコマース、IT部門向けにも拡充されていく。
Sales Cloudのセールスメールは、顧客データをグラウンディングして、顧客にパーソナライズされたメールをワンクリックで作成できる機能だ。よく送付するメールの種類を事前に設定するだけで、挨拶やフォローアップ、スケジュール変更といった営業メールが自動生成できる。
通話サマリーは、ワンクリックでオンラインミーティングの内容を要約してくれる。議論の中でよく使われたキーワードを抽出することも可能だ。
Service Cloudのサービス返信は、カスタマーサポートにおけるチャットやメールでの問い合わせに対して、パーソナライズされた返信を生成する機能。会話サマリーは、顧客とのやり取りを要約してくれる。
一方の対話型AIである「Einstein Copilot」は、日本では2024年の夏以降に展開予定だ。Einstein Copilotは、すべてのCRMアプリケーションで利用でき、かつアプリケーションにまたがり各部門の業務を支援する。例えば、サービス部門がCopilotに質問を投げかけた場合にも、営業やマーケティング部門のデータを加味した回答を生成してくれる。
これらの生成AI機能は、各CRMアプリケーションのアドオンライセンスや最上位エディションにて提供される。
顧客データの生成AI活用を支える「プロンプトビルダー」「モデルビルダー」
ここまでで紹介されたのは、セットアップ不要な、CRMアプリケーションですぐ利用できる生成AI機能だ。セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャーである前野秀彰氏からは、次のステップである、個々の企業の業務に合わせた生成AI活用の“カスタマイズ”を支える機能が披露された。
生成AI活用を強化するために用意されているのが、Einstein 1 Studioで提供される「プロンプトビルダー」だ。管理者が作成したプロンプトのテンプレートを、従業員がプロンプトだと意識することなく、CRM内でクリックするだけで呼び出せる仕組みを実現する。
「従業員が業務に合わせて自らプロンプトをカスタマイズするのは現実的ではない。一方でプロンプトのテンプレートを作成しても、使えない人が出てきてしまう」と前野氏。
プロンプトのテンプレートはノーコードで実装でき、CRMやData Cloud、MuleSoft APIのデータを容易にプロンプトへ埋め込むことができる。加えて、従来から提供する“フロー”などによる動的なアクションをプロンプトに追加することも可能だ。
利用するAIモデルを選択できる「モデルビルダー」も用意している。Einstein Trust Layerによって保護された形で、既に契約していたり、独自にファインチューニングしているLLMを利用できる「Bring Your Own LLM」の機能も提供している。現在はOpenAI / Azure OpenAIに対応済みで、順次対応モデルを拡張していく。
また、プロンプトに埋め込むデータに関しても、データフェデレーションの機能として「Bring Your Own Lake」を、3月中旬より国内で提供開始する。SnowflakeやBigQueryにあるデータを、実データのコピーやETLの処理なしで、Data Cloud上からシームレスにアクセスできる。例えば、Snowflake上の顧客データを、データのコピーなしで、Data Cloudからプロンプトに埋め込むことが可能だ。
生成AI活用で重要となる非構造化データを扱えるようになる「Data Cloud Vector Database」も、3月中旬より国内でパイロットテストを開始する。議事録のメモであったり、商談の録音データといった非構造化データを、構造化データとあわせてData Cloud上に蓄積。さらに「Einstein Copilot Search」と組み合わせることで、Einstein 1 Platform上で“RAG(検索拡張生成)”の実装も可能になる。
ワンチームで生成AI活用を推進する「製品統括本部」の設立
セールスフォース・ジャパンでは、これらの生成AI機能の展開に合わせて、2024年2月からの新年度より、日本独自の「製品統括本部」を設立した。日本市場に対してより製品フォーカスで事業を推進していく方向性だ。
製品統括本部 統括本部長の三戸氏は、新組織設立のポイントを3点挙げる。ひとつ目は“Integrated”だ。これまでセールスフォース・ジャパンは、機能軸で組織化されていた。それを改めて製品軸でまとめる統括本部を設け、マネージメントやマーケティング、スペシャリスト営業、これらの製品に関わる機能を統合する。
2つ目は、“Innovation”。AIを中心に製品のイノベーションのスピードが上がっていく中で、製品に関わる機能をワンチームとすることで、日本のユーザーの声に応えるスピードも上げていく。
3つ目は“Customer Success”だ。複数製品間での戦略を統一させ、ユーザー視点で一貫性のある活動を展開する。
三戸氏は、「ユーザーの期待はますます上がっており、一枚岩になった組織で、ユーザーの成功に貢献していきたい」と語る。