UPDATE EARTH 2024 ミライMATSURI@前橋レポート 第28回
生成AIを使えば“今”を表現した映画が作れる? 三池崇史監督「AIと共に最高の映画を創る会」発足
2024年03月27日 09時00分更新
3月2日に開催された「UPDATE EARTH 2024」では、映画監督 三池崇史氏による「AIと共に最高の映画を創る会」のキックオフイベントが開かれた。登壇は三池崇史監督と、三池氏とともに映画を作ってきたCG・生成AIのスペシャリストの小畑正好氏。そしてイベントの司会を務めたのは、株式会社AI-Acts 代表取締役の坂 慎弥氏の3名で、映画制作と生成AIの出会いによる可能性が語られた。
「AIと共に最高の映画を創る会」ついに始動!
すでに生成AIを活用した映像作品はどんどん生まれている
「AIと共に最高の映画を創る会」とは、三池崇史監督が立ち上げたプロジェクトで、日々進化するAIを使って、映像作品を作るクリエイターを集める企画だ。三池監督はこの会について、「僕が映画を作るのではなく、作るのは会に参加してくれるみなさんです。僕はそのための場所を用意したい」と語る。
その三池監督は「映画は究極の総合芸術」とする。映画制作には、脚本や照明、演技、美術、VFX、編集など、さまざまな技術を備えた人間が必要。これらの技術を持った人たちとAIの技術を掛け合わせ、いままで不可能だった映像作品を世に送り出すのを目的としている。
「AIと共に最高の映画を創る会」のキックオフイベントは、三池監督の自己紹介からスタートした。三池監督は会場に集まった参加者の前で、自身のキャリアを振り返った。
三池氏が監督デビューしたのはVシネマ。当時の日本では一般的な映画とVシネマは区別されており、なかなか認められなかったそうだ。そのころの三池監督は、「いったい誰が見ているんだろう?」と自問自答していたとのこと。
創作活動を続けていたあるとき、海外から注目されるようになった。海外では映画とVシネマに違いはなく、同じ映像作品として見てもらえた。そして三池監督作品が海外で大きく評価されるようになると、日本の映画業界からも注目されるようになったそうだ。三池監督は当時を振り返り、「やっと映画の仕事ができるようになったんです」と笑いながら話していた。
そんな人生の大半を映画制作に捧げてきた三池監督は、「今、映画業界に、大きな波が来ている。それが生成AI」と語る。映画は技術とともに進化する業界。無声映画に声がつき、白黒映画に色がついた。フィルムもかつてはアナログだったが、いまではデジタル。時代によって持ちられる技術は変わっているのだ。しかし、生成AIはこれまで映画業界で起こった革命のなかで、「桁違いの大きな波」と三池氏は語った。
ここで紹介されたのが、三池監督作品にVFXで携わってきた小畑正好氏。3DCGアーティストの小畑氏は、生成AIの研究も取り組んでおり、すでに業務で活用している。紹介された小畑氏は、「映像作品のなかで、堂々と生成AIを使えるチャンスを作れたらいいなと思い、三池監督の会に参加させてもらいました。これから先、多くのクリエイターにも参加していただきたい」とあいさつした。
■生成AIを知り尽くす小畑氏による
■15分でわかる最新AI事情
ここからは小畑氏による生成AIの解説コーナー。最新の生成AIやトレンド、事例などを紹介した。わずか15分だったが、実に内容の濃い講座だった。
なかでも来場者が興味を示していたのは、アパレル業界での活用法。小畑氏は「洋服はデザインと制作に時間がかかります。なのに、季節によって商品が変わるので、3ヵ月しか販売時間がありません。洋服のカタログを作るときは、すぐにでも画像を用意しなければいけないんです」とアパレル業界の事情を紹介。ここで最近、重宝されているのが生成AIだそうだ。
小畑氏は用意したスライドで、アパレル用の写真を生成AIで作る過程を紹介した。生成AIを使うと、制作に時間とコストのかかる衣装を一瞬で作れる。しかも柄の変更や、生地(素材)の変更は思いのまま。何パターンの画像も作れるので、カタログ制作にはもってこいだ。
なお、衣装を着ているモデルも生成AIで作られていた。モデルは事前にスタジオで撮影するのだが、360度ありとあらゆる角度から撮影しておく。その画像データをAIに学習させれば、実際に撮影した写真と遜色ない画像を生成できるそうだ。
小畑氏は「生成AIなので、たまに大きな間違いをしていたが、もっと学習させればものすごくきれいな画像を出力できます」と経験を語った。
■ネット広告の短い動画も生成AIに向いている業種
生成AIが得意なもうひとつの事例として挙げたのは、ネットでよく見かける動画広告。小畑氏は、「これまで映像制作会社が作っていたが、今後は誰でも簡単に作れるようになる」と予測する。
しかし自身も映像クリエイターである小畑氏は、すべてを生成AIに任せればいいわけではない……という持論も同時に話す。小畑氏は「食べるため(生活費を稼ぐため)の作品にはAIを使う。そして自分で作りたい作品は自分の手で作る。そうしたほうが生きがいを感じられる」とした。
それを聞いた三池監督は、「あと20年も経ったら、自分はベッドの上で寝たきりになっているかもしれない。そんなときに生成AIを使えたら、寝たきりでもおもしろい作品を作れるかもしれない。それは夢がある」と言う。しかし一方で、「そうやって作った作品に、価値はあるのだろうか? 魅力を感じてもらえるのだろうか?」とも考えるそうだ。
その問いに小畑氏は、「生成AIを使っても、プロとアマチュアに違いはあると思う」と答えた。その理由は、プロは撮影現場で、多くの人とコミュニケーションをとりながら映像を制作する。一方、アマチュアは1人で卓上で制作する。
小畑氏は「スタジオにプロが集まり、そこから生まれた言葉を生成AIに入力するのと、1人で考えた言葉を生成AIに入力するのは、違う結果になるはずです。出力される作品は、完成度がまったく違うはず」と語った。
■投稿された5本の動画作品を見ながらディスカッション
■なんと40分で制作された作品も
キックオフイベントの最後は、事前に募集した映像作品のなかから、優秀な作品を上映した。すべてなんらかの形で生成AIを使った作品だ。上映された映像作品は、どれも商業作品のような完成度。三池監督も真剣に見入っていた。
ある作品の感想で三池監督は、会場に参加していた作者に制作期間を質問した。すると作者は「40分くらいです」と答えた。これには来場者も驚いたようで、今日一番の歓声が上がった。
三池監督もまた、「ほんとに? 我々が3~4ヵ月かけて作るような映像なのに、たった40分で作ったの?(笑)」と、目を丸くしていた。
すべての作品を見終わった三池監督は、作ったクリエイターを称賛しつつ「映画の一番の欠点は、企画があがってからお客さんに公開するまで、3年くらいかかってしまうことです」と言う。それは今回紹介された映像が、すべて短時間で作られているのを知らされた率直な意見だろう。そして最後に三池監督は、「AIで最高の映画を創る会」のキックオフに参加したすべての来場者に感謝を述べ、第1回イベントは幕を閉じた。
三池監督「映画は3年前のアイデアが、やっと公開されるんです。だから映画は“今”を打てません。でもAIを使えば“今”を表現できます。この強みを活かして映像を作ってほしいです。AI業界はこれからも信じられないことが起こるでしょう。その変化をみんなで楽しみながら、映像制作をしていきましょう」
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