自宅にレーザー加工機が届いた
ただいま、レーザー刻印にハマり中です。今回、購入したレーザー加工機は、gweike cloud社の「G2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraver」。金属加工に向いた1064nmの波長のレーザーを用いるのが特徴です。
このマシンが自宅に届くまでのドタバタは、前回の記事(「24万円を払ったのに音沙汰なし? レーザー機器の個人輸入が大変だった」)をご覧ください。
G2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraverでどんなふうにレーザー刻印されるかを短い動画にしましたので、下記をご覧いただければ幸いです。
レーザー加工は下準備が成功の鍵
動画では数秒で終わりますが、レーザー刻印を成功させるには「面倒くさい」プロセスがいくつかあります。主な流れは以下の通りです。
・Illustratorでデザインを作る
多くのレーザー刻印機では、写真などの画像データを取り扱うことができます。しかし、刻印は金属などの表面を「削る」「削らない」の二択で表現するため、カラーやグレースケールが苦手です。そんな理由から、デザインが美しく表現されやすい、Illustratorを使ったベクターデータのみを使うようにしています。
筆者はトランプのデザインをするので、自分のロゴやサインなどのベクターデータ(AIデータ)を持っています。おかげで、レーザー刻印のプロセスを短縮できました。
また、金属面に彫刻されると削った部分が黒色に暗くなることもありますし、逆に白や銀に明るくなることもあります。紙にインクで印刷したり、モニターで見たりするイメージと異なり、彫刻を繰り返してデザインを調整することも必要になります。
これからレーザー加工機を導入しようと考えていて、Illustratorが未経験なら、操作を習得する時間も考慮しておくと良いでしょう。
・真鍮、アルミ、ステンレスなど、材料にあわせてパラメーターを試行錯誤する
レーザーの特徴は、刻印する素材ごとに反応が異なること。レーザーが金属の表面に触れる瞬間の温度変化により酸化の度合いが異なることや、金属によってレーザー吸収率の違うことなどが影響しているのでしょう。
たとえば、鉄は温度が上がることで、茶色、紫、青、紺、銀色に変化することが知られています。長く使ったステンレスの鍋の底が、虹色に変色しているのも同じ理由です。
さらに、同じ種類の金属でも、含まれている微量金属の割合が異なり、レーザーによる加工後の色合いが変わっていきます。
レーザー彫刻で使われるソフトは、もっともポピュラーな「LightBurn」や「G-LASER」(筆者が購入したG2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraverに付属)などがあります。
こうしたレーザー制御用ソフトは、レーザーを動かす速度、レーザー出力、周波数、線間隔、パターンなどを、入力・調整する必要があります。そのパラメーターの数値により、金属面の温度やテクスチャーが変化し、仕上がりが違って見える。ここが、難しく、おもしろく、奥が深いところです。
作例として、この記事のトップ画像には、レーザー刻印をほどこした3つのコインがあります。コインの黒い背景やツタの部分は、そうしたパラメーターの違いにより「金(無加工)」「銀」「銅」を酸化具合で表現しています。
ここまで紹介してきたプロセスで、多くの材料を無駄にしながら試行錯誤を繰り返すため、半日〜数日の時間がかかります。下準備が成功の鍵なのですが、このあたりが、レーザーの加工がコンシューマーに普及しづらい部分かもしれません。
制御ソフトで細かなパラメーターを入力する
・材料をセッティングして加工
満足するレーザー刻印ができるパラメーターを発見したら、あとはマシンに材料をセットするだけです。刻印自体は、数秒〜数分で終了します。レーザーの加工においては、レンズから材料までの距離も重要なので、そこだけ注意します。
・確認しながら作業するなら、保護メガネも重要
金属の表面を一瞬で削ったり、高熱で酸化させたりするパワーのあるレーザー。しかし、その反射光が目に入ると網膜火傷や、白内障の恐れがあります。
レーザー機器には保護メガネが付属していることがほとんどですが、真剣に目を守りたければ、専用の防護メガネも重要です。筆者は理研オプティックの「RSX-4 YG -EP」を使用しています。
RSX-4 YG -EPは、860nm〜1100nmの波長のレーザーを100万分の1まで減らすという、「OD値(光学濃度、光の吸収度合を対数で表示したもの)=6」のスペック。価格も3万円前後と高額ですが、しっかりと目を守るなら必需品です。
筆者が使うG2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraverのレーザーの波長は1064nm。レーザーは種類も多いので、自分が使うレーザーの波長に合わせた防護メガネが必要になります。
人があまり登らない高い山だから、登る価値がある
前回と今回の2回にわたって、30万円近いレーザー加工機の個人輸入や、満足いく加工のための試行錯誤などを紹介してきました。これをお読みになって、「価格が下がりつつあるとはいえ、数十万円もするのか」「レーザー加工って、面倒くさそうだなあ」と感じられたかもしれません。
筆者がマジックを仕事に選んだとき、僕の先生(アメリカ人)からもらったアドバイスがあります。それは「人があまり登らない高い山だから、登る価値がある」というフレーズ。仕事や人生で行き詰まるたびに思い出しています。はたして、今回の山も乗り越えられるでしょうか……。
しかし、高い山を登りきった達成感のように、レーザー彫刻がうまく仕上がったときの満足感は格別です。とくに、金属に加工できる喜びは、DIYerなら共感していただけることと思います。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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