【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第29回
2つの名店の技を受け継ぎ、腕を振るった絶品“煮干し”ラーメン! あのバンドの名曲を店名に掲げる東京・綾瀬「陽はまたのぼる」
2024年03月08日 12時00分更新
綾瀬に行列のできる人気店「陽はまたのぼる」がある。店主は、「麺処 晴」と「麺処ほん田」、2つの名店出身という大川真弘さん。2017年4月9日オープンから人気の煮干しそばは、ニボラーの心をがっちりつかむ濃厚な煮干し出汁が決め手だ。味だけじゃなく店主の愛されキャラも、人気の所以だろう。一風変わった店名も、店主が大ファンのDragon Ashの曲名にちなんでつけたものだ。しかもメンバー全員が来店したことで、Dragon Ashファンの間では密かな聖地と呼ばれている。オープンから7年、美味しく変わり続ける煮干しそばの秘密と、大川店主のラーメンヒストリーを伺った。
2つの名店イズムを受け継ぐ、絶品煮干しそばの店「陽はまたのぼる」
長髪を束ね、寸胴をかき混ぜる細身の店主。それが、大川真弘さんだ。煮干しラーメンの人気店として、名店仕込みの手腕が知られているが、実は麻雀の腕前もかなりのもの。
それは、大川さんが大学に入学した時のこと。自分のやりたいことを探していたら、麻雀に出合った。「俺、麻雀打ちになろうと思って。2万円握りしめて家出して、バイトしていた雀荘に行ったんですよ。麻雀で食べていけるかなと思ったけど、いまよりガリガリで、頬もこけて、人相も変わっちゃって、これ親見たら泣くなと思って、麻雀諦めました(笑)」と、大川さん。
雀士の道を諦めた大川さんは、大学卒業後、フリーターをしながら自分の進みたい道を模索していた。そんな時、テレビで「愛の貧乏脱出大作戦」を見て衝撃を受けた。いまにもつぶれそうなラーメン店の店主が有名店の店主たちのもとで修業し、再建させるという番組だ。登場する店主は「中華蕎麦 とみ田」の富田店主、「麺処 ほん田」の本田店主、「麺屋 一燈」の坂本店主、「つけ麺 道」の長濱店主ら、錚々たる面々。「食べに行きたいと思ってた店が全部同じグループだと知って、それで「麺処 ほん田」に行ったんです。つけ麺を食べてすごく感動して、働かしてくださいって本田さんに言いましたね」。
ラーメン修業は、「ほん田」創業地の東十条から始まった。働き始めて一番衝撃だったのは、本田店主が常連さんと話しながら営業する姿。「ラーメン屋さんって、お客さんとしゃべらないのが当たり前だと思ってたから。こんなアットホームなんだって、印象的でした」。接客を任されると、本田店主目当てのお客さんが多い中、いつの間にか「大川君に会いに来ました」と言われるようになっていった。「本田さんから、接客だけはよく褒められました。だから、自分が店をやる時は、話しやすい店にしたいなと思いましたね」。
「ほん田」を辞めた後、様々な店で修業や食べ歩きをするうち、大川さんは煮干しラーメンの美味しさに気づく。近所で一番美味しかった煮干しの名店「麺処 晴」の門戸を叩き、大城店主のもとでさらに研鑽を重ねる。ここでも大川さんの「お店の雰囲気をよくしよう」という接客が活かされる。「大城さんが怖くて入れない人が入りやすいようにしてあげないと(笑)、そう思ってやってました」。店始まって以来のよくしゃべる大川さんが、これまでの雰囲気をガラッと変えた。
修業すること1年、店の定休日には限定営業も任されるようになっていた。「本当はもう1年くらいいてもいいかなと思ったんですよ。居心地がすごくよかったし、お客さんもみんな好きだったんで。そうしたら、大城さんが早く独立しなさいと。雇われでやってるのは、もったいないと言ったんです」。大城店主は、大川さんの実力を見抜き、「次に続く後輩たちに、店を出した店主としての背中を見せてあげて」と、送り出してくれた。
2017年4月9日、綾瀬に待望の独立店「陽はまたのぼる」がオープンした。屋号は、大ファンだったDragon Ashの曲「陽はまたのぼりくりかえす」が由来だ。「25歳の時、初めて行ったロックフェスでDragon Ashの曲を聴いて、死ぬほどカッコよくて感動しちゃって。その時の1発目の曲名から屋号をつけたんです」。SNSで知ったDragon Ashメンバーが、煮干しそばを食べに来てくれたことも知られている。ライブ前後に、煮干しそばを食べにくるファンも多い。「うちに来てくれたファンの子と、一緒のライブで会うと話したり、友達も増えました。ファンが受けいれてくれたことが嬉しいですね」。
出身店とは違う煮干しそばを追い求めて、いま最高の一杯!
憧れの人にも食べてもらった栄誉ある「濃厚煮干しそば」は、修業を積んだ「麵処 晴」イズムを感じさせる。大川さん自身も晴の濃厚煮干しに惚れ込んで、作りたいと思った一杯だ。
スープを一口飲むと、旨味たっぷりだけど重すぎず、意外とさらっといけちゃう濃厚さ。煮干しと下支えの動物系のスープとのバランスの良さが決め手だろう。開業時とは使われる煮干しも変わっていて、いまは青森県八戸産煮干しと千葉県九十九里産煮干しを合わせた盤石な構成だ。
陽はまたといえば、チャーシューの美味しさにも定評がある。オープンから幾度となくブラッシュアップし続けているが、変わりながらもとにかく肉が旨いのだ。「チャーシューは、だいぶ変わりましたね。途中から吊るし焼きにして、煮豚をやめてたのを、また戻したり。吊るし焼きも火加減の調節を変えてジューシーになるように仕上げています」。現在は、吊るし焼き、レアチャーシュー、煮豚の3種類。レアと吊るし焼きは肩ロースを使用し、赤身が多いほうがレアチャーシュー、脂身が多いほうを吊るし焼き。煮豚は豚バラという構成だ。
一方、淡麗の煮干しそばは、出身店と違う味で作りたかったという。「もっと濃くてぎっしりしたやつを作りたかったんですけど、最初は濃すぎたり、ちょっと加減をしたら薄かったりして、ちょうどいいのがなかなかできなかった」。一時、淡麗をやめていた時期があったが、「淡麗と濃厚どっちかを極めたいってなった時に、濃厚で日本一突き抜けたやつを作りたいって思った。煮干しの高騰もあって、当時の作り方をするととても商売できない。それで2023年1月~5月まで、淡麗をやめたんです」。結局、淡麗は6月から復活したが、5カ月間、淡麗の作り方を模索していた。その完成系がこちらだ。
「いまできる限られた中で、別の淡麗の作り方を考えて、濃厚を炊く時に作るスープ割から淡麗スープができると気づいたんです。5月くらいにこれだ!ってのができました」。淡麗好きな人から「食べたいです」と嘆く声があったのも、復活を決めた理由のひとつだ。大川さん自身も淡麗の塩煮干しにすごく思い入れがあって、6月から淡麗を再開させた。
お客さんを第一に考えられる、優しい店でありたい
試行錯誤しながら、日々ラーメンに向き合う大川さんだが、まだまだ目指すところには程遠いという。「自分が納得いく味を毎日作れたらいいんですけど、なかなか難しくて。未だに迷いながら、何が正解かわからないなりに、自分がその時やりたいことをやってます。濃い味が好きなんで、濃いラーメンでいきたいなっていうのは変わらずに。中毒性のある、忘れた頃に頭にガツンとくるような、『陽はまた欲してます!』みたいな感じでありたいっすね」。陽はまたファンには嬉しい言葉だ。
そんな大川さんが、一番大事にしているのは“接客”。「スタッフがお客さんに不親切だったりすると、怒っちゃうんですよ。お客さんに優しくないのが、僕は許せない。お客さんを第一に考えられる、優しいお店でありたいな」と、いつもと違った真面目な顔を見せた。
その背景には、2人の名店主がいる。「本田さんは、お客さんを第一に考えてる優しい方だったので、その姿勢が僕に残ってるんだと思います。大城さんは、人間味があるところが好きですね。僕のことを考えて独立しなさいって言ってくれたことは、なかなかできることじゃない。やっぱかっこいいなって。ラーメン屋さんやっていくうえで、この2人が僕の中で大事なファクターです」。
陽はまたは、今春に開業7周年を迎える。「こんなに続くと思わなかった。修業時代のお客さんがいっぱい来てくれて、そのあと綾瀬の人たちが来てくれて、お客さんがいなかったらとっくに終わってた。辛いことがあっても、お客さんが元気づけてくれたり、みんなに支えられてやってこれた。僕もお客さんの身の上話を聞くの、すごくいいなあと思って。ラーメン作るのも全部合わせてラーメン屋さんって仕事が大好き。次に生まれ変わっても、きっとラーメン屋さんやってると思うんですよ」。今日も大川さんは、大好きなDragon Ashの曲をかけながら、煮干しそばを作り続ける。客席に目を配り、お客さんとの会話も弾む。大川さんが作る心地よい陽はまたの雰囲気は、煮干しの旨味をグッと引き立てる最高のスパイスだ。
■陽はまたのぼる
住所:東京都足立区綾瀬2-1-4
営業時間:11:30〜14:30、18:30〜21:00
定休日:水曜 ※火曜は昼のみ
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。