【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第28回
名店『ajito ism』が千葉に移転復活!『三つ由』の看板を掲げた超注目店をレポート。「人生を支えてくれたラーメンをもう二度と裏切らない」
2024年01月26日 12時00分更新
2022年12月15日、惜しまれつつ閉店した大井町の名店『ajito ism』。名物「ベジポタつけ麺」は、最初にベジポタと命名されたことで、元祖的存在としてブームを巻き起こした。2023年3月21日、その名店が『三つ由』と店名を変えて、千葉県・馬橋で再出発。オープンから数か月経ち、新天地でも行列ができるほど変わらない人気ぶりを、店主の三浦康弘さんは穏やかな顔で受け止める。伺ってみると、店主が創りあげたラーメンとこれまでの人生には、一言では語れない深い想いがあふれていた。
ラーメン界の異端児『ajito ism』店主が、新天地・千葉県馬橋で再出発
三浦康弘さんは、音楽が好きで10代の頃はミュージシャンを目指していた。その道が途絶え、料理人を目指したのは21歳の時。その頃から「自分の店を持ちたい」という思いがあった。芝浦の創作フレンチ店でシェフからみっちり基礎を学んだ後は、カフェレストランで料理長を務めるなど、少しずつ経験を積んでいった。
順調に進んでいたが、ある日突然、パニック障害を発症する。帰りの電車で過呼吸になり、救急外来に駆け込むことが何度も続いた。まだ、パニック障害という病名も知られていない時代で、訳もわからず投薬しながら仕事を続けていた。
27歳の時に、働きたかったカフェから声がかかる。「そこで、料理に対して楽しいと思えるようになったんです。音楽やってる時も楽しいから、同じように考えてみようと。仕込みが作詞作曲、調理がレコーディング、お客様へ提供する皿はレコードっていうふうに、分割して考えたらメキメキ上がったんですよね」。姉妹店の青山のカフェも任されるようになり、料理人として力をつけていった。「発信する側になったので、他の人の真似はできない。自分で考えて自分でブームになるものを作っていくのが楽しかったですね」と、三浦さん。
次のステップへ進もうとしていた矢先、その話が立ち消えとなってしまう。意気消沈した三浦さんは、一旦、料理から離れ、音楽ライターの道を模索する。しかし、その道も上手くいかず、もう一度料理人に戻ろうとするが、一度離れた料理の世界。「32歳で戻った時、自分の居場所はないんですよ。俺だったらどこにでも行けるって思っていたら、鼻をへし折られて」。挫折から再び料理人としての自信を、数年かけて取り戻していく。
自分の店を出そうと考えていた頃、競馬の当たり馬券で資金ができた。37歳と遠回りしたが、2007年7月3日、大井町に『ajito』をオープンする。4坪のスナック跡地に、コンロ1台とゴトク1台だけで始めた最初の店だ。育ててくれた祖母の名前「なみ」から、7月3日に絶対オープンすると決めていた。
野菜でとろみをつけた「ベジポタつけ麺」をはじめとした創作ラーメンで、数々のブームを創りあげた。上手くブームに乗れたのは、『六厘舎』『TETSU』『とみ田』がつけ麺ブームを巻き起こし、『せたが屋』『けいすけ』『麵屋武蔵』などの先駆者たちが、ラーメンからちょっと外れたレールを作ってくれたおかげだと三浦さんは語る。
2013年5月12日には、近くの広い店舗に『ajito ism』と名を変えリニューアルし、女将と二人三脚の営業が始まる。そして2022年12月15日、大井町での15年間の歴史に幕を閉じ、千葉県・馬橋に移転することを決意する。
実は、移転を決める前に、三浦さんは再び別の道を考えていた。「僕はラーメン業界を去ろうとしたんですよ。写真スタジオを作ろうと、秋葉原に物件を探してた。それがコロナでとん挫した。コックできちんとキャリアを積み重ねたのに音楽業界に行こうとしたことを、もう一度やろうとしたわけですね。ラーメンに助けられて持ち上げてもらったんだから、ラーメンやんなきゃ、裏切っちゃダメだって思ったんです」。そして、2023年3月21日、店名を『三つ由』と変えてオープンした。
ベジポタ、ピザソバ! ajito時代の名物メニューをフルリニューアル
「ベジポタ」は、ajito開業前に考えたメニューだ。当時、流行っていた大盛パスタから発想を得て、フライパンも振れない厨房の設備から、つけ麺にしようと思ったそう。ラーメン店を何軒か食べ歩き、「最後に食べた『六厘舎』が太麺につけ汁がのってくる感じで、これは料理として正しいなって思ったわけです」。さらに三浦さんの友達が、「ラーメン好きだけど野菜とれないんだよね」と話していたのを思い出し、野菜でとろみつけた最初のベジポタを完成させた。しかし、この時、まだベジポタとは呼ばれてなかった。ラーメン評論家の大崎裕史さんがajito系と呼び、その後、ラーメン評論家の石山勇人さんが、ajitoの野菜を使った濃厚スープのつけ麺を「ベジタブルポタージュ」と評し、それを略して「ベジポタ」と命名した。
今では、ベジポタは、いろんな店で提供され、ひとつのジャンルとして定着しているが、『三つ由』のベジポタを一口食べれば、これまでのベジポタが何だったのかというくらい衝撃的だ。美味しさの理由を三浦さんに伺うと、「他はベジ目立たせすぎなんですよ。ベジポタって名前から入ってるからね。俺は後付けされてるから、これが本当のベジポタだよ」と笑顔を見せた。
さらりとしたスープは野菜のコク深い旨みがつまってる。大根・ニンジン・玉ねぎ等の野菜に鶏魚介・背脂で、しっかりラーメン的仕上がりだ。野菜のとろみだけでなくザラリとした節粉が、麺に絡みつく。とろみがあっても重すぎないスープは飲んでも飲んでも、胃にやさしく染み込んでいく。1滴たりとも残したくない気持ちで、禅宗の洗鉢を思い出し、沢庵ならぬメンマで丼を洗って〆た。隣の女性も「罪悪感のまったくないラーメン」と絶賛!
また、クリスマスに限定提供したのがこちらの「ピザソバ」。『ajito ism』でも人気のレギュラーメニューが、馬橋で復活した。
その人気は、クリスマス限定の3日間、長蛇の列を作り、早々にsold outとなったほど。隠れ家的な佇まいから、近隣でもまだ知る人ぞ知る『三つ由』だが、ピザソバ行列で一気に知れ渡ってしまった。
オープン1年目で、三つ由の中華そばがリニューアル!
レギュラーメニュー「三つ由の中華そば」は、オープンから9カ月でリニューアルしたばかり。物価の高騰や出汁の出具合から食材を見直し、スープに煮干しの他にあさりや鯖などがプラスされたことが大きな違いだ。
三浦さんは、毎朝、味を確かめるため、スープは定量、麺1/3を啜る。「毎朝やります。それはajitoの時から変わってない。それで美味しくないって言われたら、自分で納得できるから」。修業時代、シェフから「一番いい加減な料理ってなんだ? 味見しない料理だ」と言われたことがいつも心の中にあるという。
リニューアルした中華そばのスープは、鶏や煮干しの他にあさりや鯖など魚介を追加して、一口目から深い味わい。麺もスープと絶妙な合わせで、以前と同じ麺なのに、まるで麺も変えたの?と思ってしまうほど。駆けつけた浅草開化楼のカリスマ製麺師・カラスさんも、「麺との親和性が高いスープ」と、リニューアルした中華そばを称した。
もともと大井町で開業1年目から、カラスさんとは面識があった。3年目に、店に食べに来てくれたカラスさんに、いつか麺をお願いしたいと思っていた。『ajito』16年の幕を閉じ、お世話になった製麺所に恩を返してスタートを切るのに、新たなパートナーが浅草開化楼だった。カラスさんが「前振り長かったね(笑)。すごい嬉しいけど!」と言ってくれたと、三浦さんも嬉しそうに語る。
ベジポタとピザソバを創りあげた男は、何度も道に迷い、挫折しては立ち上がってきた。馬橋移転も、「考え抜いて、もう一度チャレンジする」気持ちで挑んだ。「『ajito』が2、3カ月でつぶれてたら、たぶん僕はこの世にいなかった。ラーメンに助けられて、僕をもう一回引き上げてくれた。それが、『三つ由』に繋がったんです」。傍らには、『ajito ism』時代から三浦さんを支える女将の姿もある。「パニック障害と向き合いながらやっていける自分のステージがあること」を知ってほしいと、三浦さんは真剣な顔をした。店内には、辛い時も支えてくれた、大好きなボン・ジョヴィの曲が流れる。自分の未来を切り開くのは自分だという三浦さん。そんな潔さが『三つ由』の唯一無二の美味しさの源だろう。
三つ由
千葉県松戸市西馬橋蔵元町186-2
11:00〜14:00
火曜休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna