高齢者もすっかりスマホ依存に
ショートムービーをダラダラ見たり、買い物をしたり
こうして高齢者向け端末が普及した結果、高齢者も長時間スマホを使うようになり、テレビや新聞からスマホへとメディアが移った。中国の各人気アプリはその新しいユーザーを逃さないとばかりに、ログインボーナスによるアプリ内コインを少額提供する。すると、高齢者はそれをありがたがって毎日のように使い、昼夜逆転する高齢者も出てきているという。そしてネット上では「ネットに依存する親はスマホで何をしているのか」というアンケートが各所で実施されるようになった。圧倒的に多かったのがショートムービーで、椅子に座ってぼーっと見ている高齢者が増えた。
さらに高齢のネットユーザーの一部がECサイトでも商品を買い始めている。ゼロコロナ明けの2023年の年始以降、景気が良かったのは最初の数ヵ月だけで、その後は、現役世代はオンラインでもリアルでも消費を抑え気味で不景気感がハッキリしてきた。対照的に消費が目立ったのが貯金を持つ高齢者。こうして高齢者がオンラインショッピングの世界でも台頭してきたのだ。中国青年報社社会調査中心が1001人の中高年を対象にした調査によれば、半数近くが暇さえあればオンラインショッピングをするようになったという。
高齢者への高額商品の販売はもちろん
配信をサポートして、稼がせるモデルも
中でも中国で人気のライブコマース(ネット版の実演販売)に高齢者が金を落とし始めた。リアルの世界でも中国人高齢者が暇をもてあまして、仲間内でどこかに行っては、使うわけでもない高価な食品やグッズをおみやげに買って帰るというのはよくある話。高齢者がライブコマースで消費を始めたら、それを狙う人々もいる。
ライブコマース配信者の中でも「秀才」「一笑傾城」の2つは特に人気でそれぞれ千数百万のフォロワーと、2億超のいいねがある(その結果か高齢者から金を貪っていると批判を受け、その後活動が止まった)。人気の商品は健康食品や芸術品で、たとえば160元(1元=約20円)程度で売られている絵画に1000元弱の値を付け、それが40、50売られる配信があった。1個につき800元儲かって、それを50枚とすると1回の配信で4万元、日本円にして80万円儲かることになる。
さらに配信者をサポートする企業(MCN=マルチチャンネルネットワーク)が高齢者を利用するケースもある。生活が苦しそうな高齢者が動画を配信し、カンパ代わりの商品を販売することで、視聴者から金をもらうというものだ。高齢者をマスコットにして金儲けをして売上の9割をMCNが持っていくというビジネスモデルなのだが、孤独や貧困に直面した高齢者を助けるという側面があるのも確かなので、なかなか難しい。
中国の60歳以上のネットユーザーの規模は現在1億5000万人超で、今も増え続けている。今後も高齢者を巻き込んだ驚きのネットビジネスが出てくるかもしれない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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